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解雇寸前だけど、推しに補佐されながら立ち直ります!  作者: kayako
第6章 彼と彼女が「向き合う」時
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その27 どうして私は報われないの?


 そうか。

 闇の魔女のところに出てきた時も、この魔女は言ってたな。

 ――自分さえ強くなれれば、こんな世界とはおさらばだって。


 悠季を抱きしめながら、炎の魔女は嬉しそうにその耳に囁く。


「悠季は知らないかも知れないけど、私、本当に色々頑張ったんだよ? 

 資格だってたくさん勉強したし、本だって映画だってたくさん見て勉強した。

 ジムに行って運動だってしてた。全然興味がなかったメイクだって服装だって、オシャレなファッション雑誌買い込んで研究した。

 自分が駄目なんだったら、駄目な部分を強くしていけばいい。少しずつでも一生懸命努力していけば、きっと強くなれる。そう思った」


 魔女の両手が、悠季の背中にそっと回った。

 その指は次第に背中から首筋に回り、耳までも撫ぜていく。綺麗に伸ばされた爪が、肌に軽く食い込む感触がした。


「でもね……

 それでも、一人で強くなるには限界があった。

 だって、私たちのいる現実って、友達なり恋人なりいないと、人として認めてもらえない仕組みなんだよね?

 勉強のできる人間より、要領よく生きて海外旅行とか毎週行って、大勢の友達と海や山でキャンプやバーベキューを楽しむ奴らの方が認められる。そんなふざけた世界。

 つまり、伝説の光の剣をとっくの昔に抜いてる奴ら。もしくは最初から、そんなものがなくても生きられる奴ら。

 どんなに勉強したって、そいつらには追いつけない。そいつらみたいに幸せにはなれない」


 魔女の声に、ほんの少しずつ憎悪がこめられる。

 それは、葉子の口からは殆ど聞いたことのない、嫌悪の色を帯びた声。


「会社に入ったって同じだった。

 一生懸命勉強して頑張ってた私より、重宝されるのはコネのあるそいつらの方。

 要領よく上司や先輩に取り入って、テキパキと仕事もこなせる奴ら。

 簡単に可愛い彼女やカッコイイ彼氏も出来て、いずれは家族になって子供も出来て素敵なマイホームを持つんでしょうね。

 ――何の苦労もなく、剣を引き抜けた奴らは」


 魔女の声に秘められた悪意は、次第にその毒を増していく。

 だが悠季にはもう、抵抗できない。

 どれほど身体を起こそうとしても、腕も足も石のように動かない。


「そりゃ、頭では分かってるよ? そいつらだって、色々苦労してそうなったってことぐらい。

 でも、じゃあ何で、同じくらい苦労している私が報われないの?ってなるじゃない」

「よ……葉子……っ!」

「私がもっと強くなるにはどうすればいいのか、ずっと考えてた。

 だから一生懸命、会社の飲み会やバーベキュー大会にだって参加したよ。絶対イヤだったマラソン大会にだって出たこともある。

 それでも、奴らと同じようには出来なかった。お酒も飲めないし、足りなくなったビールついだりも出来ないし、マラソンなんて途中で吐きそうになって棄権しちゃったし。

 あいつらが要領よく軽々とこなせることを、私は全然出来なくて。

 海外旅行の話もキャンプの話もスイーツの話も、今流行りのアイドルやスポーツの話も、何一つ興味がなくて全然話に乗れなくて」

「葉……」

「それでも強くなるには、そうしなきゃいけないから。

 この世界で、常識ある社会人としてまともに生きていくには、そうしなきゃいけないから。

 ずっと、ずうっと、頑張ってたよ?」



 不意に、悠季の周囲に黒い霧がたちこめる。

 それは瞬く間に部屋中を覆いつくし、ランプの光さえも霞んでいく。

 しかしその霧は明らかに、魔女のランプから生み出されていた。

 魔女の言葉と共に、色を濃くしていく霧。



「ねぇ。悠季――

 私、分かってるよ。悠季だって、ずっとそうだったんでしょ?

 ずっとずっと頑張っていたのに、報われなくて。

 何をしても、何もかもが裏目に出て。

 もう私、知ってるんだ。昔の悠季を。昔のイーグルを。

 ――ベレト君とのことを」



 その言葉に、悠季は思わず目を見開いてしまう。

 すぐ眼前にあるものは、全てを包み込むような魔女の微笑み。



「……何で。

 何で、葉子が、知って……?」

「だって、最初に教えてくれたのは悠季だよ?

 ケイオスビーストの騒ぎの後、話してくれたじゃない。

 ベレト君は――自分が殺したようなものだった、って」


 確かにそうだ。そこまでは葉子にも話した記憶はある。

 ただ彼女に話したのは、ほんの少しだけ。俺がベレトを殺めた、その事実の断片だけだ。

 しかしこの魔女は明らかに、それ以上の何かを知っている。

 葉子の知るはずのない、俺の過去を。


 やがて幻燈からは森の景色がかき消え、別の光景が映し出されていく。

 歌うように告げる魔女。


「悠季に、見てもらいたいものがあってね。

 悠季はちょっとつらいかも知れないけど――私と悠季、二人のために、必要なことなの」



 ――そして、幻燈に映し出されたものは。



 崩れかけた地下道。壊れた壁から溢れ出す、腐り切った水。

 床に溢れ出した汚水には、大量の血が混じっている。

 あちこちに無数に散らばっているものは、骨のくっついた白い肉片。元は人間の一部だったようだが、どこの部分だったかも判別出来ないほど滅茶苦茶に砕かれていた。

 魔女の声。



「覚えてるでしょう? 悠季。

 イーグルだった貴方が、ベレト君にしたこと」



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