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ティオはイーラの屋敷に行きたいんです


あれから時は過ぎ去り、季節が変わって秋になった。


王子と魔法使いは相変わらず週に1回屋敷に来て、3人で広場で遊んだり(主に魔法の打ち合いや剣の打ち合い)、部屋で私の描くデザイン画を眺めたりして過ごしていた。

ランスやシェルーを初めとした魔族ともすっかり打ち解け、会うと手合わせをしたりしている。


3人の関係性も少しずつ変わっていった。

私は2人を名前、時々愛称で呼ぶようになった。

エリオールは私のことをイーラと呼ぶが、ラインツはいまだにお前呼びだ。

まあ、彼はそういう性格だから、私も特には気にしない。



そして今日。

ようやくラインツとエリオールの洋服ができた。


お店に売り出す用の洋服はすでに量産まで済んでいるので、この時をずっと待ちわびていた。


よーし!これで2人にお願い事を聞いてもらえるわ!





「俺も明日、イーラの屋敷に行きたいんだけど」


ラインツとエリオールへのお願いの最終確認をティオとしているときだった。


「え、うちの屋敷に??」

「うん。明日、殿下と魔法使い様にお願い事するのに、俺も行く」

「え、え!?なに?どうしたの?」

「行きたいだけ」


まさかティオが魔族の屋敷に行きたがるなんて……!

どういう風の吹き回しかしら?

しかも、ラインツとエリオールに会いたがるなんて。


「2人の話は色々と聞いてた。けど、この洋服のことは俺も関わってるし、行く」


ティオは言い出したら聞かないようだ。

どうしたのだろう。

少し拗ねているようにも見える。


「最近はラインツとエリオールのおかげで、屋敷のみんなの人間へのイメージも良くなりつつあるから、大丈夫だとは思うけど……。ちょっと待って、聞いてみるわ」


私は自分の魔力から使い魔を作り、お父様に向けたメッセージを持たせて飛ばせる。


5分もしないうちに返事が届いた。

返事はOKだった。


ということで、ティオと一緒に屋敷に帰ることが決定した。





「お!イーラ、お帰り!隣がティオ?」

「ただいま!そうよ。私の仲間のティオ」

「俺はランス。よろしくな!」

「はじめまして、ティオです。よろしくお願いします」


ランスが差し出した手をティオが握り返す。



お父様とお母様にティオを紹介し終えて、私たちは部屋へ戻った。


「イーラのお父さん、作戦のこと知ってたんだ」

「実は私は話してないんだけど、お母様がそれとなく伝えて上手くやってくれてるみたいなの」

「なるほど」


私は疲れたーとばかりにベッドに寝転ぶ。

そして、グイッとティオの服の裾を引っ張ってみる。


「わっ」


案の定、ティオはベッドに仰向けに倒れこむ。


「何するの」

「ふふふ。ベッドだから痛くないでしょ?」

「そうだけど………」


こうしてベッドに並んでいると、なんとなく懐かしい気持ちになり、目を閉じてみる。


前世でこんな風に過ごしたことがあったわ。

あれは、いつだっけ?確か……。



「イーラ?イーラ………寝た?」


ティオは寝息が聞こえるのを確認すると、イーラをベッドの真ん中に動かす。


と、イーラの手がティオの手を握る。


「えっ………」


そっと放そうとするが、意外と固い。

イーラの寝顔と、握られた手に、何とも言えない気持ちがわき起こる。

隣に寝転んでみる。

昔、こうして誰かと並んで寝転んだことがある気がする。

でも、いつのことだったけ?


子どもの体はもう眠い時間らしく、ティオもだんだん眠りの世界に誘われる。


そして、2人は手を握ったまま、仲良く眠りの世界に落ちた。





「はー疲れたー!今日は1日バタバタだったね」

「お疲れ様。コンテスト1位、おめでとう」


俺は机の上にケーキと小さな花束を置く。


「わっケーキ買ってきてくれたの?しかも綺麗な花束まで!ありがとう!」

「うん」


と、急にぐんと引っ張られ、体が傾く。


「わっ」


どさっと後ろに倒れるが、痛くはない。

ベッドの上に仰向けに倒れていた。

隣には意地悪な顔をした彼女。


「ふふふ。びっくりした?でも痛くなかったでしょ?」

「痛くはないけど、さすがにびっくりした」


今日は本当にバタバタした1日だった。


目を閉じて今日のことを思い出す。


レディース専門の服飾コンテストに参加して、彼女の作った洋服が優勝した。

自分のことのように嬉しい。


「ね、ケーキ、食べようか」


と、彼女のほうを向くが、目を閉じたまま返事がない。

すうすうと気持ち良さそうな寝息まで聞こえる。


「勘弁して……」


彼女は俺のことを男として見ていない気がする。

それはもう、昔からの親友のような。

昔はそれでも良かったけど、いつからだろう。

男として見てほしいと思うようになったのは……。


「はあ………」


彼女をベッドの真ん中に移動し、布団をかける。


「ほんと、我慢するほうの身にもなって」


小声でそうつぶやき、ケーキを持って部屋から出る。

冷蔵庫に入れておけば、明日食べるだろう。


合鍵を使って、ドアの鍵を閉める。


俺たちは高校卒業後、専門学校の近くで一人暮らしを始めた。

アパートの隣同士の部屋。

お互いの部屋の合鍵を持っている。


友達よりも、家族よりも近くにいて、でも付き合ってるわけではない。

不思議な関係性。

どこかでこの関係を変えなきゃと思っても、怖くてできない。


「はあ……」


本日2度目のため息が思わず出た。





外から鳥のさえずりが聞こえる。

朝が来たようだ。


今日も前世の夢を見た。


目が覚めたティオは、辺りを見回し、ここが自分の部屋ではないことを思い出した。

ふと隣を見ると、イーラがすやすやと気持ち良さそうに眠っている。

眠っている間に、握られた手はほどけたようだ。

それがなんとなく寂しいなんて……。


夢の内容も相まって、ティオは少し恥ずかしくなり、急いでベッドから出る。


いつまでもイーラの寝顔を見ていたいような、この場から急いで逃げ出したいような……。


とにかく、イーラが目を覚ますまで、デザインでも描いて待とう。


そう決めたティオは、机に向かい、何かをかき消すように一心不乱にデザイン画を描き始めるのだった。


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