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デザイン画は敵をもとりこにするらしい


王子と魔法使いを連れて、屋敷のいたるところを案内した。

後ろには強者の空気を纏った護衛が2人ついてきている。


「魔族って人間とあまり変わらない生活してるんだねー」

「そうですね。屋敷の中での生活はあまり人間と変わらないかもしれません」


案内している間、何人かの魔族に会ったが、みんな普通に挨拶をしてくれた。

食堂で食事をしていた魔族たちなんか、王子と魔法使いにお菓子をくれたくらいだ。


「それにしても、このお菓子は何でつくってるの?すごく美味しい」

「これは魔族が育てている植物から作ったお菓子なんです。美味しいとおっしゃっていただけて光栄です」


魔族特有のものを褒めてもらえるのは素直に嬉しい。


「あ、イーラ!」

「ランス!」

「あ、もしかして王子様?」


ランスが声を落として聞いてくる。


「そうよ」

「へえ、そうなんだ」


ランスは2人のほうを向いてにっこり笑う。


「こんにちは、王子殿下。俺は狼男のランスです!」

「こんにちは。私はラインツです。」

「僕はエリオール。よろしくね」


ランスって敬語使えたのね……。

なんて、私は失礼なことを思いながら3人のやりとりを見守る。


「2人とも!これからよろしく!」

「こちらこそ」

「よろしく」

「イーラ、邪魔してごめんな。俺行くわ!」

「ううん、ランス、また後でね」


ランスが手を振りながら走って行く。


結局、敬語とれてたわね……。


「さて、王子殿下。見たいところはございますか?」

「そうですね……。少し疲れたので、あなたのお部屋で休んでもいいですか?」

「わかりました。こちらです」


私は2人を部屋へと案内する。


「どうぞ、お入りください」


「部屋の前で待機」


王子が護衛たちに命令する。

護衛たちは部屋の中には入って来ないようだ。


私は扉を閉める。


「久しぶりだな。その顔、忘れられなかった」


急に王子の口調が変わる。


なるほど、護衛がいないから猫を被る必要はないってわけね。


「ふふ。こちらこそ、あなたの顔は忘れられませんでした」


私もにっこり笑って応戦する。


「別にこの屋敷に来たのは、お前に言われたからじゃない。魔族とはどういうものか自分で確かめようと思ったからだ」

「なぜ来たのかなんて聞いてませんけど?」

「は!?本当無礼なやつだな!?」

「はいはい。お茶を入れるのでしばらくお待ちください」


私はティーポットを取りに行くために、ティーポット台へと向かう。


「ライに辛辣なこと言ったのは彼女だったんだね」

「うるさい黙れ」


後ろからなにやらひそひそ聞こえてくるが、何を言っているかまでは聞こえない。

手から炎を出して、ティーポットを温める。

いい具合に暖まったところでお茶を入れ、2人の元へ戻る。


2人は何かを見ているようだ。


「お茶が入ったので、どうぞ」

「これ、デザイン画か?」

「あ、片付け忘れてました。ごめんなさい、すぐ片付けますね」

「いや、いい」


王子と魔法使いは机の上に散らばるデザイン画を1枚1枚手に取って、じっと見つめる。


「すごいね。今まで見たことのない服ばかりだ」

「あ、あはは……」


それもそのはず。

机の上に散らばるデザイン画は、前世の世界の洋服のデザイン画が多いのだ。


「これは魔族の素材なのか?」


王子が1枚のデザイン画を指差す。


「ああ、それは女郎蜘蛛の糸から作る布が素材です。絶対に破れないし、刃物でもなかなか切れないし、しかも燃えません!」

「へえ、すごい素材だね。それを着てれば、急な敵襲も怖くない」

「そんな素材があるのか……」


王子も魔法使いもびっくりしているようだ。

他のデザイン画の素材についても、聞かれるたびに説明した。


「魔族の素材ってすごいね」

「ありがとうございます」

「ところでお前」

「なんですか?」

「敬語、やめろ」

「はい……?」

「この間は普通に話してきただろ。それでいい」


なんてことを言い出すんだ、この王子殿下は。

確かにこの間の態度はひどかったと思うけど、それはもうしばらく会わないし!みたいな開き直りがあったからで………。


「俺がそうしろと言ってるんだからそうしろ」

「なんて横暴な」

「僕にも普通に話してね」


エリオールまでそんなことを言い出す。

なんだかもう引き下がる気配がない。


「わかった。普通に話をさせてもらうわ」

「ああ」

「うん、よろしく」


改めて2人を見る。


うーん、ゲーム世界の洋服も似合ってるんだけど……でも!でも!

もう我慢できない!


私は机の上のメモ帳を開き、デザインを描き始める。


「いきなりなんだ!?」

「なにか描き始めたかな?」


2人の言葉に答える余裕はなく、とにかくペンを動かす。

しばらく私の様子を見ていた2人も、しばらくはこのままだと判断したようで、椅子に座ってお茶を飲み出した。


数分が経ち……


「できた!!」


「客を放置するとか、本当にありえないんだが」

「何を描いてたの?」

「これよ、これ!まずは王子殿下!」


王子にデザイン画を見せる。


「王子の綺麗な金髪と翡翠の目を際立たせるために、あえて暗い配色にしてみたの!あと、この素材は女朗蜘蛛の糸から作る布とこの辺りに生えている植物の繊維から作る布を組み合わせているから最強よ!破れない、切れない、燃えない、水魔法は効かないわ!」


一気にまくしたてる私に、王子はちょっと驚いているようだ。

王子がデザイン画を手に取って見つめる。


真っ黒のセーターの裾には、金箔をまぶしたような模様がついていて、首からはネックレスがぶら下がっている。

パンツはシンプルなものだが、王子の翡翠の目と同じ色。

ゲームの時の王子の服装は「THE 王子」という感じの白×金や、白×赤の配色のものが多かったが、こういう服装も彼に似合うと思う。


王子はさっきからデザイン画を見つめたまま何も言わない。


……もしかして、気に入らなかったかしら?


「ね、もう1枚は?」

「あ、そうね。もう1枚はあなたのものよ」


魔法使いにもデザイン画を渡す。


グレーの髪に合わせた綺麗な桜色のニットパーカー。

下はネイビーのパンツで引き締めている。


「女郎蜘蛛の糸で毛糸を作って、それを素材に作っているの。王子の洋服と同じで、破れない、切れない、燃えないわ!そしてなんと!パーカーの裏地には鴉天狗の羽根を使っているから、風を通さないの!寒い日に大活躍よ!」


魔法使いは、しげしげとデザイン画を見つめている。


「ねえ、これ作ってもらえない?もちろん、ただでとは言わないよ」

「この服を?それはいいけど、すぐにはできないわよ」

「うん、いいよ。待ってもいいから、これが着たい」


魔法使いは、デザイン画を気に入ってくれたようだ。


「ちょっと待て。俺にも作れ」

「え!?」


まさかの王子も!?


「こいつにだけ作って、俺には作らないのはずるいだろう。俺は一応王子だぞ」

「デザインが気に入りましたって素直に言えばいいのに」

「黙れ、エリオール」

「え、本当に作るの……?2,3ヶ月はかかるのよ?」

「俺は構わない」


まさか、生きていて王子の洋服を作る日が来ようとは………。


「わかった。2人の洋服、作るわよ」

「金は払う。いくらだ?」


もしかして、これはチャンス……?

お金を払ってもらうより、もっと欲しいものがある。


「お金はいらないから、1つだけお願いを聞いてほしいわ」

「願い?なんだ?」

「今は言えないのだけど、この洋服ができあがったら聞いてほしいの」

「俺と結婚してほしいとか無理だからな」

「は!?そんなお願いしないわよ!」

「じゃあ、君はどんなお願いをしたいの?」

「この洋服ができたら、これに関するお願いを聞いてほしいの。やっぱりだめかしら?」

「この服に関する?」

「わかった、僕はいいよ」

「おい、ライ、勝手に引き受けるな」

「王子は引き受けてくれないのね……。仕方ないわ、この話はエリオールと進めることにする。王子とのお話しはこれで終わりね」


私が王子の手からデザイン画を取ると、王子が慌てる。


「引き受けないとは言ってない」

「じゃあ引き受けてくれるのね!ありがとう、2人とも!」


2人の手を取って、思わずぶんぶん振ってしまう。


やったわ……!

これで上手くいくかもしれない!


「ちょっ、手を握るな!」


王子がなにやら慌てているが、気にしたことではない。


さあ、これからお願いの中身を細かく詰めなきゃ!

頑張るわよー!


私は心の中でガッツポーズをとるのだった。


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