イーラを殺す(予定の)王子が襲来!?
それからというもの、忙しい日々が続いた。
パーカーの素材の植物は、ランスとシェルーが協力してくれたので思ったより早く集まった。
2人に私の計画を話したところ、面白がって、快く手伝ってくれた。
問題は白狐の毛皮だった。
シェルー以外の白狐たちは、私の計画をよく思ってくれなかったのだ。
私が半分人間だということも、よく思われなかった原因の1つだろう。
そんなわけで、白狐たちのところへ通い、お願いし続ける日々が続いた。
なかなか彼らがいい返事をくれないので、私は作戦を考えた。
美しいもの好きな白狐の心をつかむ方法を。
その作戦とは「白狐が1番魅力的に見えるドレスのデザイン画」を見せ、プレゼントすることを条件に、毛皮を分けてもらうというものだった。
これは大成功だった。
白狐たちはドレスのデザイン画に心を奪われ、毛皮を分けることを約束してくれた。
ちなみに、最近は会うたびにドレスはまだかと聞かれる。
イーラが洋服を作る計画を思いついてたから、もう2ヶ月が経っていた。
今日は朝からお父様の召集がかかっていた。
お父様が屋敷中の人を集めるなんて、珍しいわ。
どうしたのかしら……?
広場に行くと、もうすでに多くの魔族が集まっていた。
「あ、お嬢!」
「ランス、おはよう」
ランスが声をかけてくれる。
「召集なんて珍しいよな。何かあったのかな?」
「そうね。今まで全然なかったもの……」
「みな、よく集まってくれた」
お父様が前に立つ。
さすがはドラゴンの血を持つ魔族というだけあって、前に立つだけでオーラがある。
鎖骨を過ぎまで伸びた漆黒の髪。
頭にはドラゴンの角が生えており、お尻にはドラゴンの尾が生えている。
翼は出し入れ自由なようで、今はしまっている状態だ。
「昨日、国王様にお会いしてきた」
辺りがざわつく。
「内容は魔族と人間の和平についてだ」
またもざわつく。
まさか、国王陛下から和平の申し出!?
一体どういう心境の変化なの!?
「いろいろ話し合った結果、王子殿下がこの屋敷に週に1度いらっしゃることになった。これは、魔族のことを正しく理解したいとする王子殿下からのご要望だそうだ」
……は!?
あの王子が来る!?
私を魔族と知るや切りかかってきた王子が……。
「人間に対して思うところがある者もいると思うが、どうか私の顔を立ててほしい。王子は来週にはいらっしゃる予定だ。よろしく頼む」
お父様のその言葉で集会は終わった。
魔族の中には複雑な表情をしている者や、なんで人間が……と不平をもらす者もいるが、お父様の頼みとあっては無下にできないだろう。
「いやー、びっくりだな。人間がこの屋敷に来ることになるとはなあ……」
「うん……国王陛下も王子殿下も何を考えているのかしら」
この屋敷で王子の身に何かあれば、魔族と人間の戦争に発展してもおかしくはない。
「イーラ、ちょっといいか」
「お父様?うん、大丈夫よ」
私とお父様は広場を出た。
「イーラに任せたいことがある」
「任せたいこと?何?」
「実は、王子殿下の相手をしてほしい」
「え!?私が王子殿下のお相手を!?」
嫌!絶対嫌よ!
もうこの先しばらく会わないと思ったから、あんなこと言ったのに!
この間の王子とのやりとりを思い出して焦る。
「イーラは人間と魔族のハーフであり、見た目は完全に人間に近い。王子殿下もいきなり魔族に相手をされるより、イーラが相手のほうが緊張が解けるだろう」
「まあ、それは確かに、そうだけど……」
お父様の言うことはもっとも。
でも、でも、嫌よ!
それに、王子だって私に相手されるのは嫌なはず!
「お父様……その、王子殿下が私を気に入らなかった場合は、別の人に変わるのよね?」
「それはもちろんだ。でも、イーラが気に入られないなんてことはないだろう」
いえ、お父様。
恐らく、もう私は嫌われております。
「わかりました。お父様、引き受けます」
「ありがとう、イーラ」
お父様をこれ以上困らせても仕方がないので、引き受けることにした。
それから数日、そわそわしながら過ごした。
そして今日。
王子殿下が屋敷に来る日が、ついにきた。
「はじめまして、ラインツです。本日はよろしくお願いします。」
思わず、だれ!?と言いたくなる変わりっぷり。
仮にも一国の王子。
護衛や家来、魔族の前でこの間のような態度は取らないということだろう。
「隣にいるのは、王宮魔法使いのエリオールです」
「こんにちは、はじめまして。僕はエリオール。よろしくね」
王子の隣に立っている男の子が挨拶する。
なんとも砕けた言葉使いだ。
鎖骨よりも長く伸びたグレーの髪に赤茶色の目。
容姿は中性的で女装したら可愛い気がする。
………んん??私、この子見たことあるわ。
どこかで会ったかしら。
グレーの長髪に可愛らしい容姿…………ああっ!
私は内心の驚きがバレないように、にこっとほほ笑みかける。
この子、ゲームのヒロインパーティーの魔法使いじゃない!!!
ゲーム時はもっと中性的で美しい顔をしていて、グレーの長髪を後ろで1つにまとめていた。
わお!まさかここで私を殺す魔法使いにまで会えちゃうとは………。
運がいいのか悪いのか、わからないわ………。
「はじめまして、私はイーラと申します。魔族の屋敷へようこそ。本日はよろしくお願いします」
私はスカートの端を持ってお辞儀する。
礼儀作法はお母様に叩き込んでもらった。
私も王子にならって、初めて会ったようなふりをして挨拶をする。
「どうぞ、王子殿下。この屋敷をご案内いたします」
「ああ、頼む」
ああ、平和にことが終わりますように……。
私はそう願わずにはいられなかった。