計画実行に向けて、イーラ動きます!
次の日。
私は母からもらった地図を頼りに歩いていた。
ちなみに、今は朝7時。
この時間に行くように言われたからだ。
何人か人とすれ違っているが、母からもらったサングラスのおかげで魔族だとばれていない。
さすがお母様、私の目のことまで気を回してくれるなんて。
確かに、魔族の証の目を持つ普通の人間がいたら、誰でもびっくりしちゃうわよね。
これから人間の街に行くときは気をつけなきゃ。
12歳の幼い少女がサングラスをかけているのは、少し異様に見えるが仕方がない。
屋敷を出てから30分。
ようやく人間の街に着いた。
うわー、懐かしい。このゲームの街ってこんな感じだったわ!
RPGの街といった感じの街並みが続く。
武具屋、防具屋、宿屋、酒場など、ゲームによくある建物が並んでいる。
んー、わくわくしちゃう!
私は楽しい気持ちで歩く。
大好きだったゲームの世界の街を歩けるなんて、夢にも思わなかった。
街並みを楽しんでいるうちに、目的の場所へ着いた。
外見からして洋服屋さんのようだ。
お母様、洋服屋さんの知り合いがいたんだ。
だからあんなに自信満々だったのね。
緊張するけど、えいっ!こういう時は勢い!
勢いに任せて呼び鈴を押す。
「はいはいはーい」
中から声が聞こえてきて、ドアが開く。
「THE お母さん」という言葉がぴったりの、恰幅のいい女の人が出てきた。
(お母さんじゃなかったら本当に失礼で申し訳ないのだが……)
茶色く長い髪を後ろで1つにまとめている。
「はじめまして、奥様。私はイーラ・アドセンスと申します。お願いがあり、お伺いしました」
私はできるだけ丁寧にお辞儀をした。
「事情があり、サングラスをかけての挨拶、大変申し訳ありません。まずはこの手紙を読んでいただけますか?」
「ええ、いいけれど……」
女の人はいぶかしげにイーラを見るも、言われた通りに手紙を読みだす。
そして、徐々に表情が変わっていく。
「まあ、なんてこと!あなたがイーラ?シリーの娘なの?」
私はサングラスをとって再びあいさつをする。
「初めまして、奥様。私はシリーンの娘のイーラです」
「そう、本当にあなたがそうなのね。ああ、その目、本当ね」
女の人は涙ぐみながら、私を抱きしめる。
「シリーは昔、私の店で働いていたのよ。看板娘としてよく働いてくれたわ」
「お母様が、ここで……?」
「ええ、そうよ、そう。魔族の男の人と結婚すると言って、ここを辞めてから連絡がなくて心配していたわ。ああ、嬉しい!」
「そうだったんですね。お母様がお世話になっていた方に会えて、私も嬉しいです」
「ああ、なんていい子なの。あら、そうだ。私としたことが自己紹介をしていなかったわ」
今度は女の人がお辞儀をする。
「私はボムスよ。よろしくね、イーラ」
「こちらこそよろしくお願いします」
「とりあえずここではなんだから、中に入って。用件は中で聞くわ」
ボムスに案内されるがままに中に入る。
「わあ!」
イーラは思わず感嘆の声をあげた。
とてもお洒落な内装の洋服屋で、マネキンにはゲームでよく見た街の人の服が着せてある。
ゲームの世界の服装にそこまで種類がないせいか、洋服の種類は少し少ないように思える。
それでもすごい。
ゲームをしているときに見ていた服が、実際の服として存在するのだから。
「奥に入って。開店まであと1時間あるから、ゆっくり話が聞けるわ」
ああ、だからお母様はこの朝早い時間に行くように言ったのか。
「さあ、座って。お茶を入れてきたわ。大まかにはこの手紙を読んだけれど、あなたの口から改めて聞かせてちょうだい」
「わかりました。実は……」
「ふむふむ、面白い話ではあるわね。まずはデザイン画を見せてちょうだい」
私はメモ帳を取り出し、1枚1枚切り取って机に広げた。
「まあ、すごい。この服も、この服も、見たことがないデザインだわ。デザインの才能があるのね」
ボムスは感心したように、1枚1枚デザインを手に取っていく。
まあ、本業はデザイナーですから!
とは言えないので、曖昧にほほえむ。
「私の息子も天才だと思うけれど、あなたも天才ね」
ボムスは全てのデザインを見終え、ため息をつく。
「ええ、いいわ。面白いじゃない。イーラ、この先の手順は知っているの?」
「はい。本を読んで勉強しました。縫製加工仕様書を作って、それをもとに型紙を作るんですよね?」
「ビンゴよ。よく勉強しているじゃない。次は?」
「生地に型紙を配置していきます。それで、サンプルを作ります」
「ブラボー!勉強熱心ね。1人じゃ大変だろうから、うちの息子にも手伝わせるわ」
「え、でも……」
ボムスはお母様の知り合いだから私を受け入れてくれたけど、息子もそうだとは限らない……。
どうしよう……。
「母さん。朝飯。食べないの?」
奥から男の子が顔を出す。
年齢はイーラと同い年くらいだろう。
とても綺麗な顔立ちだ。
サラサラと揺れる綺麗な赤紙が耳下まで伸びている。
男の子と目が合う。
綺麗なコバルトブルーだ。
「……だれ?」
いぶかしげな顔をしている。
私が魔族と気がついたのだろう。
「彼女はイーラ。私の知り合いの娘さんよ。こちらはティオ。私の息子なの」
「初めまして、私はイーラです」
ボムスの紹介に続いて、あいさつをする。
「イーラと同じで、うちの息子もデザイン画を描くのよ。」
「同じ……?」
男の子は机の上にデザイン画に気がついたようで、近づいてくる。
そして、1枚手にとって見つめる。
「……え」
ほかのデザイン画も手に取って置いてを繰り返し、全てに目を通し、私のほうを振り返る。
「これ、君が書いたの?」
「う、うん。そうよ」
男の子が黙って見つめてくるので、私は少しドキッとした。
「この軽装アーマー、肩が動かしにくそう。このほうがいいと思う」
男の子は、百狐の毛皮を使った軽装アーマーのデザイン画を手に取り、なにやら鉛筆で書きこんでいる。
「これ、どう」
男の子に渡されたデザイン画を見る。
そっか、確かにこのほうが肩を動かしやすそう!
前世で戦闘用の服を作ったことがなかったから、そこまで気が回らなかった。
「ありがとう!肩を大きくあげるなら、あなたのデザインのほうがいいわ!」
「ん」
あれ?このやりとり、なんだか懐かしい。
ふと、既視感を覚えた。
そっか、この子とのやりとりは、彼とのやりとりに似ているんだ。
――私が前世で1番仲が良かった、1人の青年とのやりとりに。