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お母様は強力な協力者!?


部屋に戻った私は朝食の時のことを思い出していた。


私がお父様に「おはよう」を言っただけで泣き崩れるなんて……。

きっと私はゲーム上で無口、無表情という設定のキャラだったのね。


あの後、お父様、ランス、私で楽しい朝食の時間を過ごした。

お父様は本当に私のことが大好きみたいで、終始ご機嫌だった。


そして、朝食後はお母様に会いに部屋まで行ったが、会えなかった。

お母様は体が弱く、午前中は寝ていることが多いのだ。


私のお母様は人間。

そう、私はこの世界で唯一の”魔族と人間のハーフ”なのだ。


ゲームをプレイしていたときはメトゥスに妻がいることには触れられていなかった。

存在自体がゲームに出てこなかったのだ。


――もしかしたら4年後の世界に、お母様はいない……?


私は急に怖くなって、少し震える手でメモ帳を開いた。

自分の殴り書きの文字を見る。


弱気になっちゃだめよ、私はゲームとは違う運命を辿るために頑張ると決めたんだから!

そうと決まったら、洋服を作る案を進めなきゃ!


メモ帳に狼男と百狐の毛皮を使った洋服のデザインを書いていく。

毛皮だけでは服は作れないので、女郎蜘蛛の糸を素材に組み合わせる。

女郎蜘蛛の糸は丈夫で、めったなことでは切れない。

そのうえ、燃えないという特殊性質もある。

前世では蚕の繭から糸をつむいで絹を作っていたが、その要領で女郎蜘蛛の糸も布にできるだろう。


この世界には存在しない、パーカー、スキニーズボン、オーバーサイズシャツ。

前世で流行っていた洋服のデザインをたくさん書きあげる。


もちろん、この世界に合わせた洋服も考えている。


軽いが、刃物が近づくと鋼鉄に変わる軽装アーマー。

見た目は普通の魔法使い用ローブだが、絶対に切れないし燃えないローブ。

魔族の住む地域にしか生えない植物を使ったパーカー。


ほかにもたくさんアイデアが思い浮かび、そのたびに書いていく。


気がつくともう日が傾いていた。


あ、お母様のところに行かなきゃ!

そうだ!人間のお母様なら、人間と魔族について何か思うところがあるかもしれない!


そう思い立った私はメモ帳を手に、お母様の部屋へ向かった。


「お母様、入ります」

「どうぞ。いらっしゃい、イーラ」


お母様は笑って私を出迎えてくれた。

娘の贔屓目を除いても、お母様は本当に美人だ。

コバルトブルーの髪をゆったりサイドに結び、金色の綺麗な瞳を細めて笑う。

私はお母様の笑顔が大好きだ。


「お母様、聞いてほしいことが……」

「あら、イーラが自分から何か話すなんて珍しいわね。喜んで聞くわ」


「えっと、まず、お母様は今の人間と魔族の対立についてどう思いますか?」


お母様は少し驚いた顔をしている。

それもそうだ。

今までろくにしゃべらなかった娘が、1番最初に出した話題がこれなのだ。


「イーラ、こっちにいらっしゃい」


私はお母さまのそばへ寄り、ベッドの隣のイスに座る。


「人間と悪魔はお互いを知らなさすぎるのよ」

「お互いを……?」

「そう。人間同士と一緒。お互いの表面しか見ていないし、何も知らないから簡単に迫害できてしまう」


お母様が少し目を伏せる。


「自分と違うものを受け入れるのは、難しいのかもしれない。でもね、魔族だって人間と変わらないわ」


”何も知らないから簡単に迫害できる”

そうなのかもしれない。

私が生きていた前世の世界だって、いじめや迫害があった。

よく知りもしない人をSNSで叩き、追い詰め、自殺に追い込む事件さえ起きたことがある。


”お互いを知って、違うものを受け入れる”

人間と魔族間でこれができなければ、私たち魔族は終わりだ。


「お母様、実は魔族のことを人間に知ってもらう案があるんです」

「あら、どういうこと?教えて。可愛い、私のイーラ」


お母様が私の頭を優しくなでる。


私はお母さまに”魔族の毛皮を使った洋服を作る計画”を話した。

自分の書いたデザイン画も見せた。


「これを機に、魔族と人間で商売を始めて、そこからイメージを変えていければと思って……」

「なるほどね。イーラにこんな才能があったなんて、私びっくりしたわ」

「実は、本を読んで学びました」


お母様に嘘をつくのは気がひけるが、致しかたない。


「面白いデザインが多いわね。見たことがないものばかり。イーラの発想力には驚くわ」

「ありがとうございます」

「とても面白い案だと思うわ。でも問題があるわね?」

「お母様、流石です。協力してくれる仕立て屋、売ってくれる洋服屋が必要です。」


そう、この計画を考えたときに1番に思い付いた問題点がこれだ。


「私も洋服は作れるけど、1人では限界ですし、作った服を人間の街で売ってもらえないと意味がないんです……」

「そうよね。ふふ、私に任せて。可愛いイーラのために一肌脱いじゃうわ♪ちょっと待ってて」


お母様が私にウインクする。

……お母様ってこんなにお茶目な人だったのね。

しかも、私の話に結構ノリノリ。

話してみないとわからないものね。


私はしみじみとそう思った。


「できたわ。イーラ、この手紙を持って、この地図の場所に行くのよ」

「え、ここはどこですか?」

「それは行けばわかるわ。この手紙、必ず渡してね」

「わ、わかりました」


手紙を受け取って立ち上がる。


「お母様、ありがとうございました。これからも困ったら頼っていいですか?」

「もちろんよ、イーラ。でもね、私と1つ約束して。それが守れたらいいわ」

「は、はい。もちろんです。それで、約束とは……?」

「ふふ。可愛いイーラ。家族なのに敬語なんて寂しいわ。普通に話してちょうだい」


言われてはっとなった。

なんとなく敬語で話していたけれど、言われてみれば、家族間で敬語は少し距離が遠く感じるかもしれない。


「あ、はい、じゃなくて、うん……お母様。約束、するわね」


お母様はにっこり笑って、私の頭をなでてくれる。


私は幸せな気持ちで部屋を後にしたのだった。
















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