イーラは14歳になりました
ラインツとエリオールによる、洋服の宣伝パフォーマンスは大成功に終わった。
私の作った洋服を着て、服を剣で切ったり、燃やしたり、濡らしたりすることで、魔族の素材の凄さをアピール。
そして、パフォーマンスの最後に、ラインツは人間たちに向けて宣言をした。
「ボムスの洋服屋を‟王家公認の魔族と人間の和平の第一歩の場所"とする」と。
2人のおかげもあってか、ボムスの洋服屋には連日大勢の人が押しかけた。
一時は在庫切れで入荷待ちになったくらいだ。
素材を提供してくれる魔族には、歩合制で給料を払うことに決めた。
時には、ボーナスとして人間の洋服をプレゼントすることもある。
会社のように組織化することで、お互いに利益が出るような仕組みを、イーラ主導で作り出した。
こうして、ボムスの洋服屋の組織化、新しい洋服づくり、宣伝と、忙しい日々が続いた。
そして、あっという間に2年の月日が過ぎた。
「これは革命だわ!!!!1日この森で過ごしたけど、全然蚊に刺されない!虫も寄ってこない!」
「俺も着ればよかった」
「次に売るのはこれに決定ね!絶対に虫を寄せ付けないTシャツ!」
「絶対売れる」
エルフ族の族長は虫が大嫌いで、虫を寄せ付けない植物を畑で大量に育てている。
そんな噂を聞いたのは、先月のことだった。
私とティオは、植物を分けてもらうためにエルフの住み処を訪れ、分けてもらうことに成功した。
美しいものが大好きな(しかもナルシストな)彼への手土産に、美しい洋服のデザイン画を大量に持っていったところ、すんなりと分けてくれた。
ついでに、軽く求婚されたような気もするが、適当にあしらっておいた。
「検証も終わったし、帰りましょう」
「うん」
私とティオは並んで森を歩く。
ティオは最近急に背が伸びた。
私より頭1つ分背が高くなり、顔立ちも昔より大人っぽくなった気がする。
洋服屋に来る女の子たちの中には、ティオのファンもいるらしい。
もう少しほかの女の子たちにも愛想良くすれば、絶対モテるのにもったいないわ……。
「ティオ、もう少し女の子に愛想良くしてみない?」
「洋服を買いに来てくれた人にはしてる」
「うーん、そうじゃなくて、仕事以外でよ!プライベート!」
「意味がない」
なんてバッサリ……。
まだ女の子に興味がない年齢なのかしら。
ティオの思春期は遅いのね。
「はあ……」
「えっなによ、ティオ。どうしたの?疲れちゃった?」
「違う。何でもない」
その後も、2人はおしゃべりを続けながら、街まで戻ってきた。
「まだまだ魔族は珍しい対象なのね……。いまだに視線を感じるわ」
「本気で言ってる?」
ティオは私が冗談を言っているとでも思ってるのかしら?
「ティオ、気がついてないの?」
「そうじゃなくて、魔族だけが理由だと思ってるのかってこと」
「他に何があるのよ……」
ティオはたまにわけがわからないことを言う。
「お!ティオ!」
顔を知らない男の子だ。
ティオの友達だろう。
「なに」
「いや、顔を見かけたから挨拶をと思って!あ、イーラさん、初めまして。僕はセルといいます」
「初めまして、こんにちは」
私はにこっと笑う。
男の子の頬が少し赤くなる。
あまり女の子と話さないタイプなのかしら?
慣れていないみたいね……。
彼が必要以上に緊張しないように、私は頑張ってほほ笑みを絶やさないようにする。
「あの、イーラさ」
「もう行く」
「あ、ああ、引きとめてごめんな!じゃーな、ティオ!イーラさんもまた今度!」
男の子は走り去っていく。
「ティオって意外と友達多いわよね?この間も声かけられてたし」
「今のも、この間のも、友達じゃない」
「え?そうなの?友達みたいに話しかけてくるから、てっきり友達なのかと思ったわ」
「俺を利用したいだけ。目的は俺じゃない」
「ふーん?」
なぜだかわからないけど、ティオの機嫌は少し悪いようだ。
「ティオ、アイス食べて帰ろう」
「ん」
ティオの機嫌は、街で1番人気のアイス屋のアイスを食べることで良くなる。
それを知っている私は、ティオをアイス屋さんに誘ったのだった。
……自分の魅力を理解してない。
ティオは内心でため息をつく。
さっきの男、明らかにイーラ目当てだろう。
イーラは昔から美少女だったが、年齢を重ねて、より綺麗になった。
今では、魔族だからという好奇の目で見る人より、綺麗な女の子が歩いているからつい見てしまう、という人のほうが多い。
それくらい、綺麗になったのだ。
「ティオ、アイス食べて帰ろう」
イーラが少し眉を下げて、声をかけてくる。
イーラは、アイスを食べれば俺の機嫌が直ると思っている。
それは勘違い。
別にアイスが好きだから機嫌が直るわけじゃない。
美味しそうに食べている姿を見ていると、自然と機嫌が直る。
それが本当の理由だなんて、きっとイーラは気がつかないだろう。
ブックマーク、評価、いつもありがとうございます。