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王子は手のひらの上で転がされているようです


……ティオったら全然目を合わせてくれないの、なんなのかしら。


朝からティオがおかしい。

明らかに目を合わせてくれない。

でも、話しかけるとちゃんと答えてくれるし、無視されることはない。


昨日、勝手に先に寝ちゃったの、怒ってるのかしら?


「イーラ、そろそろ来る時間」

「あ、そうね、行きましょ」


ティオに声をかけられ、私ははっとする。


今日が勝負よ……!

絶対成功させてやる!





「こんにちは、イーラ。彼は?」


ラインツがティオを見て首を傾げる。


「彼はティオ。私の洋服作りを手伝ってくれているのよ」

「はじめまして、殿下、魔法使い様。ティオと申します」


ティオが私に続けて挨拶し、頭を下げる。


「そっか、イーラの友達なんだね?僕はラインツ。敬語は必要ないよ。よろしく」

「僕はエリオールだよ。イーラの友達なら敬語は必要ないよ」

「ありがとうございます」


ティオにはラインツとの出会いや本性は話してある。

だから、今のラインツが猫被り状態だと気がついているだろう。


「やっと今日、洋服ができたの。部屋に来て」

「わかりました。ではお部屋へお願いします」


4人で私の部屋へ行く。

ラインツはいつも通り、護衛を部屋で待たせてから中に入る。


「さ、ラインツ、エリオール!これが完成した服よ!向こうで着替えてみて!」


ラインツとエリオールはそれぞれの服を手に取る。


「この素材、本当に手触りがいいね。すごい」

「魔族の素材が本当にそんなにすごいのか、確かめてやる」


2人は更衣室へ向かう。




しばらくして、ラインツが出てくる。


「いい!いいわ!ラインツはやっぱりそういうクールでかっこいい格好も似合うのね!」

「か、かっこいい……!?」


黒シャツが金髪を引き立たせているし、ラインツの翡翠色の瞳とパンツの色を合わせることで、バランスが良くなっている。


ゲーム上では見たことがなかったけど、最高だわ!


「僕も着替えられたよ」


エリオールも更衣室から出てくる。


「わあ!イメージ通りね!髪のグレーと桜色がいいコントラストだわ!ネイビーのパンツも引き締め効果が働いているし!」


魔法使いということで、ゲーム上では黒いローブ姿ばかりだったが、彼には淡い色もよく似合う。

中性的な顔立ちもあって、桜色が本当に似合っている。


「ありがとう。自分の髪色が好きに思えたのは初めてだよ」

「えっ………?」


エリオールがにっこり笑う。


「君は魔族だから知らなかったのかもしれないけれど、王族の髪色はみんなハッキリとした鮮やかな色なんだ。僕のような灰色の髪の毛は汚く見えてしまうんだよ」


……知らなかった。

エリオールが自分の髪色を疎ましく思っていたなんて。


「ごめんなさい……!私、無神経なことたくさん言ったわよね。謝ってもどうにもならないけど、本当にごめんなさい!」


私は思いきり頭を下げる。


エリオールが近づいてきて、私の頭を撫でる。


「謝らないで。僕はこの服のデザイン画を見て、初めて自分の髪色を綺麗だと思えたんだ。この服の色は、僕の髪色によく合うね」


顔をあげると、エリオールがにっこりほほ笑んでいる。


「おい、そろそろ確かめるぞ」


それまで黙っていたランツが声をかける。


「そうね。それを見てもらわなくっちゃ!」


エリオールが小型ナイフを取りだし、ラインツの服を引き裂く。

はずが、ラインツのシャツには傷1つない。


「な……本当に全く切れない!?」


次に、エリオールがラインツに向かって火の魔法を放つ。

もちろん手加減はしているだろう。


服に着火する。

が、服自体には全く影響がない。

火は確かに服の上で燃えているのに、何も変わらない。


「すごいね。本当に燃えもしないんだね」


エリオールが水魔法でラインツの服の上の炎を消す。

水がかかり、服の上の炎は消えたが、シャツは全く濡れていない。

王子の顔は違うようだが……。


「おい、エリオール。わざとだろ」

「なんのこと?」


エリオールはにこっと笑う。


「これで、私の言ったことは本当だったとわかったでしょ?」

「ああ、認めざるを得ない。これが魔族の素材……」

「それでね、前に約束したこと、覚えてるかしら?」

「お願いがなんとやらってやつか」

「聞いてもらえるわよね?」

「男に二言はない。言ってみろ」


「その服を着て、宣伝してほしいの!」


「は?宣伝?」


魔族の素材を使って洋服を作ってお店に売る。

その時に大事になってくるのは宣伝だ。

どう宣伝するか、私とティオはずっと話し合っていたけど、これだ!というアイディアが思い浮かばなかった。

そんな時、やってきたラインツへのお願いチャンス。

これを使わない手はなかった。


「この服を着て街に出て、パフォーマンスを行ってほしいの。この服が切れない、燃えないってことを証明するような!」


ラインツは考え込んでいる。


「約束したんでしょ、イーラと。王子殿下ともあろう人が約束を違えるの?」


それまで黙っていたティオが口を開く。

心なしか声が冷たい。


「わかってる。破るつもりはない」

「ラインツは国王陛下にどうやって話をつけるか考えていたんだよね」

「そっか……ごめん、そうよね。王子殿下が街中でパフォーマンスなんて勝手にできないわ……私ったら浅はかだったみたい。約束はなかったことにしてちょうだい」

「いや、それはしない。父上には俺が話をつける」

「本当にいいの?こんな勝手なお願いなのに……」

「もう洋服はもらってしまった。それに、男に二言はない。約束を破るつもりはない」

「ありがとう、ラインツ!感謝するわ!」


私はラインツの手を握って大喜びする。


「俺はこれから帰って父上に話を通す。服の借りは必ず返す」

「素敵な洋服、ありがとうね」


バタバタとラインツとエリオールが帰っていく。


扉が閉まるのを確認し、ティオのほうを向いてにんまり笑う。


「やったわね、ティオ!作戦成功よ!」


思わずティオに飛びつく。


「わっ、とと。うん」


ティオはよろけながら抱きとめてくれる。

心なしか顔が赤いのは、彼も嬉しくて興奮している証拠だろう。


「ラインツの反応は予想通りだったわね!プライドが高い彼なら、絶対に約束は違えないわ。それに、魔族の素材の素晴らしさを実際に目で見たのだから、あれを利用することを考えるはずだもの」


そう、全ては打ち合わせ通り。

ティオがラインツを煽るのも、私が1度引き下がろうとするのも。

あとは、ラインツが上手く国王陛下に話をつけてくれるのを祈るだけ。



次の日、珍しく届いたラインツからの手紙には、国王陛下から許可が降りたことが記されていた。


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