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元デザイナーの能力を生かして、人間と魔族が手を取り合える世界を作ります


――長い夢を見ていた気がする。


朝起きて、目に入ってきた光景に私は茫然とした。


あれ、ここどこだっけ??


天蓋のかかったふわふわベッドから降りて、鏡台へ向かう。

肩下まで伸びたコバルトブルーの髪に、明らかに整った美人顔。

そして、魔族の証である赤目。


そう、私は魔族のイーラ。


だんだん脳内の整理ができてきた。


恐らくさっき見た夢は夢ではなく、前世の記憶。


前世の私はある有名ブランドの専属デザイナーだった。

25歳の時に不慮の交通事故で死んでしまった。


そして、この世界に生まれ変わった。

――そう、前世の私が大好きだったRPG乙女ゲーム「光と魔法の軌跡」の世界に。


ここで私の記憶の中の「光と魔法の軌跡」のストーリーをおさらいしよう。


まず、人間と魔族が対立している世界が舞台。

主人公は、子どものときに両親を魔族に殺された女の子。

16歳になったある日、王国から「悪の組織」を倒すために協力してほしいと頼まれる。

ヒロインはパーティーを組み、「悪の組織」を倒す旅に出る「。


「乙女ゲームなのにRPG要素が強くて楽しい!」と当時の私は興奮したものだ。

「悪の組織」のボスを倒せばエンドを迎えられ、エンド内容は仲間との好感度によって変わる。

好感度が高いキャラと結ばれたり、また、全員の好感度が低いと冒険者エンドになったりする。

ちなみに、私は主人公の育成、戦闘にハマりすぎて冒険者エンドだった。

エンド後のやりこみ要素も豊富だったため、プレイ時間はゆうに100時間は超えていたはずだ。


そう、前世の私が大好きだった世界に私は転生できたのだ。

これは喜ばしいことでしかない。

「私が生まれ変わったキャラは”悪の組織のボスの娘であり、裏ボスでもある”」ことを除けば――。


このゲームのやりこみ要素の1つに、エンド後にしか行けないラストダンジョンの存在がある。

出てくる魔物のレベルが段違いに高く、さらに最後に戦う裏ボスが異常に強い。

当時は、裏ボスの美人さと非情なまでの強さに、プレイヤー間で話題になった。

裏ボスを倒すために、私も何日費やしたかしら……。


まさか、私がその裏ボスに生まれ変わってるなんて!

私はこのままじゃ戦闘狂になる未来しか見えないし、最後には殺されちゃうわ!!

というか、私の前にゲームのラスボスのお父様が殺されちゃうじゃない!


これは何としてでも回避しなければ……。

まずは、今の状況とこれから起きる出来事を書き出してみよう。


私は机の上のメモ帳を手に取った。

誕生日プレゼントに母からもらったもので、お気に入りのものだ。


まず年号から考えると、今はゲームの世界より4年前。

あら?ということは、私はゲームの主人公と同い年だったのね。

イーラの裏ボス姿は美しく、お姉さんに見えたので、勝手に主人公より年上だと思っていた。

まあ、この情報が役に立つかはわからないけれど……。


次に、今の世界とゲームの世界を比べてみる。

ゲームの世界では魔族は人を殺す生き物で、魔族討伐のための騎士団がいたるところにあった。

でも今はどうだろう?魔族が人を殺したなんて聞いたことがない。

魔族は人に避けられ、迫害されているため、人間と対立している。

人間に恨みを持つものや、人間が大嫌いな魔族は多いが、人殺しはしていない。


そもそも魔族は見た目に差はあれども、あとはたいして人間と変わらない。

運動神経が良いものも、悪いものもいるし、魔力が高いものも、低いものもいる。

恐らく魔族が忌み嫌われているのは、見た目が大きいのだろう。


魔族は見た目が少し魔物に近い。

前世の世界でいう狼男、吸血鬼、人魚のように、基本は人間で、一部に魔物要素があるという感じだ。

しかし、人間と同じように知能や心がある。

人間を襲うこともなければ、食べることもない。

食べるものは基本的に人間と同じだ。


対して魔物は知能や心がなく、人間を見かければ襲うし、食べてしまう。

もちろん、人間だけでなく動物も魔族も食らう。

意思疎通は不可能だし、人間、魔族どちらからも討伐対象の生き物だ。


この世界の人間は、魔族と魔物を一緒の生き物に見ているようなのだ。

まあ、気持ちはわからなくもないけれど……。


ここがゲームの世界なら、魔族は今後人を殺すようになってしまうのだろう……。

確かに魔族の中には人間を恨んでいるものが多く、その可能性はないとはいえない。


うん。どうにかして魔族と人が手を取り合える世界にしないと!

魔族に未来はない!!


とはいえ、どうしたものかしら……。


「お嬢が来ないからメトゥス様が心配してるよ。」


急に声をかけられて、びっくりして振り向く。


「えっ……お嬢、そんな顔できるんだ。」


驚いているのは、狼男のランスだ。

私の驚いた顔にびっくりしているらしい。

それもそのはず。

前世の記憶を取り戻すまでの私は無口、無表情な女の子だったからだ。

でも記憶を取り戻したからには、元の性格に合わせるのは無理だろう。

前世の私はわりと明るい部類で、人懐こい性格だったのだ。


「ありがとう、ランス。今行くわ。」


お礼を言ってランスのそばに行く。

私がお礼を言ったことにもランスは驚いているようだ。

いやいや、今までの私、いくら無口だからってお礼は言うべきよ。

私は心の中で反省する。

そして、これからは「大事な言葉は口に出して言う」という当たり前のことを心に決めた。


ランスと一緒に食堂までの道を歩くまでに、何人かの魔族とすれ違い、挨拶を交わす。

イーラに挨拶を返された魔族はみな一様に驚いた顔をしていた。


この屋敷には10人ほどの魔族が住んでいる。

全員が人間に迫害され、傷つけられ、私のお父様であるメトゥスに助けられた者だ。


ああ、これが悪の組織の元になるのね……。

私は思わずため息をついてしまう。


「お嬢、何かあった?なんか、こう、人が変わったみたい」


私はランスを見上げる。

ランスは私の2つ上で、よくイーラに声をかけてくれる。

ピンと立った狼の耳、お尻には狼のしっぽがついている。

腕は毛皮に包まれていて、手は人間の手に変えたり、爪を生やしたりが自由にできる。

濃茶の髪は耳の下で無造作ハネていて、薄い茶色の目は大きい。

整った顔立ちをしていて、甘めのマスクだ。

前世の世界でいう、やんちゃ系アイドルのような見た目をしている。


そういえば、今まで考えたことなかったけど、この毛皮ってものすごく触り心地がよさそう。

前世のデザイナーの血が騒ぎ、触ってみたくなってしまう。


「うおっ!?」


ランスに許可をとるまもなく、私は毛皮を触っていたようだ。


「なにこれ……すごく手触りがいい。こんな素材触ったことがない……」

「え?は?毛皮触りたかったの?」


頭にハテナが浮かんでいるランスをよそに、私の頭には色々なデザインの洋服が浮かぶ。


「うーん、これだけの手触りなら肌に直接触れる肌着がいいかしら……。」


イーラが毛皮を触りながら考え込んでいると、急に毛皮が抜け落ちた。


「え!?ランス、ごめんなさい、毛皮が……そんな……。」

「ん?ああ、毛皮ね。って、え!?お嬢、泣いてるの!?」


慌てるランスに涙目の私。


「え、なになに、なんで!?俺なんかした!?」


「ちょっと、メトゥス様の大事なイーラちゃんに何してるのよ、獣」

「いや、なんもしてないって!!」


そこにちょうど白狐のシェルーが現れる。

狐耳に狐の尻尾。

腰まで伸びた綺麗な白髪に、切れ長の赤目。

これぞ「THE 女狐」という感じの美人だ。

年齢を聞いたことはないが、恐らく20歳は超えているのではとイーラは思っている。


「毛皮……毛皮が……」

「毛皮?」

「ごめんなさい、毛皮が抜け落ちてしまうなんて……」


シェルーは落ちた毛皮とランスを見てなるほどという顔をする。


「イーラちゃんは魔族の毛の生え変わりを見たことがないのね」

「え、生え変わり?」


私はキョトとした顔をする。


「魔族は毛皮が生え変わるのよ。この獣なら週に3回、私なら週に2回って感じでね」

「そうだったの……」

「ああ、お嬢は食事以外は部屋に籠っているから見たことがなかったのか!痛っ」

「余計なことは言わないでいいのよ。というわけでイーラちゃん、気にしないことよ」

「わかりました。教えてくれてありがとうございます」


冷静になったところで、新しい欲求が生まれる。

白狐であるシェルーの毛皮はどんな手触りなんだろう……。


「あら、私のも触りたかったのね」

「あ、ごめんなさい……!」


私はまたしても何も言わずに毛皮を触ってしまったようだ。

いい素材があると触ってみたくなる。

これはデザイナーの性のようだ。


「わあ、すごい、さらさらで軽いのね」

「そうよ。私の毛皮は軽いの。でもね……」


シェルーが長く伸びた爪で毛皮をひっかく。

”キンッ”


「え……!?今の音は!?」


シェルーがふふっと楽しそうに笑う。


「私の毛皮は刃物が触れると硬い鋼鉄に変わるのよ」

「えっ……すごいわ……。危険なときは自分の身を守れるんですね」


これは、軽装のアーマーに使えるし、何なら帽子もいける。

シェルーの毛皮を触りながら、またも私の頭の中にたくさんのデザインが浮かぶ。

すごい、すごい。もしかして魔族の毛皮ってものすごく使える素材……?

人間には作れない特殊な洋服を作って売れば商売になるし、人間側も助かるんじゃ……。

待って、これは人間側に魔族を売り込むチャンス!?


「ねえ、2人とも!この毛皮、いくつかもらえないかしら!」


「へ!?毛皮を?いるの?こんなの」

「あら、イーラちゃんが毛皮に興味を持つなんて……。いいわよ、いくらでもあげるわ」

「ありがとうございます!ランスもだめかしら?」

「や、全然いいよ。むしろ処理めんどくさいからもらってくれると助かる」

「ランスは部屋のごみ袋に毛皮をためているから、あとでもらいに行くといいわよ」

「わあ、すごい!それは助かるわ。ありがとう、ランス」


嬉しそうな私を見て、2人がほほ笑む。

今まで無口で無表情なイーラしか見ていなかったので、ほほえましいのだろう。

なんだか少し気恥しい。


「さて、2人は朝食に向かう途中ではなかったの?」

「あー、そうそう!そうだった!遅れたらメトゥス様が心配するよ!早くいこう!」


シェルーの質問にはっとした2人は急いで食堂に向かうのだった。




















©ぱぴよん 2020.10.12発表

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