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妹・ザ・女神

「へくちん!あ~さみー」


日常ルーティーンのように希死念慮を強請り続けること約一年。未だに外の世界にへと羽ばたくことができず、俺は自宅に籠ってゲーム三昧の自堕落な毎日を送っていた。


「あ~また、シコ寝しちまったよ~」


シコ寝とは、ソロプレイの後、眠気が催しそのまま、オテンコ丸出しで寝てしまうことである。そして、シコ寝をした日は、必ず決まって腹を壊す。


「あ~腹いて―。寝る前にしこるもんじゃないな」


こんなことして何になるんだろうと、少し遅めの賢者タイムに突入し、人生という、理解不可能な言葉の意味をもう一度考え直す。だが、腹が痛いからだろうか、全く頭が回らない。


「まず、パンツをはかぬば」


がさがさとベットのシーツを掻き分ける俺。パンツ1着すぐ見つかるだろうと甘い考えを持っている人々に言おう。それは大間違いだ。布一切れをその百倍の大きさの布団の中から見つけ出すのがどれ程、困難か。分かるか?


分かるまい。


「あ、みっけ」


すまん。発言撤回。普通に見つかった。


「てか、何時だ今?」


引きこもり歴一年ちょい、高校には、去年から行っていない。本当なら俺は今年の4月で高校二年生になる予定なのだが、ある事情がネックとなって俺は、高校へ通えない。まあ、別に学校へ行くことがこの上なき幸せってわけでもないし、学校に行くことが苦痛だったわけでもない。


うーん、まあ、例えるのであれば、よく行っている定食屋のメニューが少し変わってびっくりするぐらいの感覚だ。


つまりだ、学校に行けないことが俺の人生に大きな支障をきたすことは無いということだ。


「っしょっと!」


ベットから立ち上がり、背筋をピンと伸ばし、鈍った体を再起動させる。


「ん~、はぁ~」


神経という神経に言葉では言い表せない快感が駆け巡る。


生きてるってことを改めて体感すると同時に、自分は何を目標に生きてるのかと少し不安な気持ちに蝕まれた。


カーテンから天使のはしごが差し掛かる。雲と雲の間から差し掛かる一縷の光が俺の眼球を焼き、反射的に瞼が閉じる。


「眩しっ!」


その神々しい光は、無抵抗に俺の瞼を刺激し続ける。


太陽神アポロは、無垢な民を痛めるのが趣味なのだろうか?


だとするのであれば即座に辞めてもらいたい。


だってすごーく迷惑だもん。


目を貸与から逸らし、視界に入った時計を見上げる。


「現在時刻は、午前七時。久しぶりの朝か」


俺は、人間とは、かけ離れた昼夜逆転な生活を送っているため、日光を浴びるのは......二か月ぶりぐらいだ。なので、もうすぐ眠気が俺を襲うだろう。


てか、今起きたばっかりだっけ?


しかしなぜだろう、何故か瞼が重い。


二度寝をしていないからなのだろうか?それとも、もう俺の人生に終わりが来ようとしているのだろうか?


なるほど、それは俺にとっても都合がいい。だって、最近面白いこと全然ないんだもん!ゲームだって買って三日で終わるし。ネトゲの友達から進めてもらったアニメは、一日で見終わる。それにラノベだって、新シリーズを読み始めても一週間ぐらいで読み終わってしまう。


俺はこの人生に飽きたんだ!


まあ、俺の愚痴はこれぐらいにしておいて、もう一度布団に潜り込む前に少しだけ、太陽の生命力溢れた神聖な光を全身に浴びてSan値を回復しよう。


「んっしょ」


ドスドスと重い足を持ち上げ、太々しい足取りで窓の方へ歩みカーテンを捲った。


ピカーン!


「目がぁぁぁぁぁぁ!」


なるほど、これが破壊の呪文を喰らった男の気持ちか。


「うぅ~」


唸りながらカーテンの裾を掴み、千切れるんじゃないかと思うぐらいの力でカーテンを閉める。


なぜ太陽という存在はこうも輝かしいのか。陰の世界の人間(自称)である俺には、太陽の殺傷力満載の日差しは、刺激が強すぎる。逆にSan値が削られそうだ。


俺は馬鹿だ。まんまと太陽神アポロの罠に掛かってしまった。


人間は一度太陽の神妙たる光を浴びてしまうともう一度浴びたいと本能的に思ってしまうのだ。


これが人間に生まれてきた俺の宿命なのだろうか?


しかし驚いた。神もあの有名な『やめられない、止められない』戦略を使うとは――どおりでこの世の人間の九割が昼行性なわけだ。


「太陽よ、どうか俺を浄化しないでくれぇぇ!死ぬ時は、美少女の膝の上って決めてるんだ!」


太陽の優しさを逆なでするような発言を口走り、青筋を立てながら、不満をぶちまける俺。そんな陰湿な俺を宥めるように愛嬌に溢れた、可愛らしい声が二階の壁を反響し俺の鼓膜を優しく撫でる。


女神様の降臨か。


ドダドダと階段を駆け上がる音が廊下を木霊し、快活な声と共に俺の部屋のドアが開き放たれる。


「お兄ちゃん!おはよう!朝ダヨーン!」


如何にも順風満帆な人生を送ってそうな陽キャエネルギーに満ちたこの可愛らしい少女の名は、上川スズカ、俺の自慢の妹だ!


しかし、何だろうこの敗北感。同じ兄妹だというのにこの差。スズカは明るくて、美人で喜怒哀楽がはっきり顔に出る無邪気で可愛い女の子。それに比べ俺は、髪は長くぼさぼさ、その上陰気臭くて、常にジャージ、目は常に半分閉じてて、愛嬌の『あ』の字の欠片もない仏頂のクズ人間。


神様よ、俺とスズカは本当に血のつながった兄妹なのか?


「ったく、もう朝の7時だぞ!引きこもり陰キャが寝付く時間帯なんだからヴォリュームを落とせ」


「ごっ、ごめんなさい......って!今から寝るのお兄ちゃん!?」


「出来れば一生寝ていたい」


ふりふり揺れる茶髪のツインテール、魚たちが生き生きと泳ぐ海のようなエメラルドグリーンの瞳。そして何より小柄でスリムな小動物のような体格。スリムなのはいいが胸が少し寂しい......大丈夫だ!まだ、16歳だ!希望はまだある!


「またなた、もぉ~お兄ちゃんは、冗談が過ぎるんだから~」


俺は、妹の成長した?姿を見詰め感慨に浸っていた。時というものは、経つのが早すぎる。つい最近まで一緒にお風呂に入っていたあの小さなスズカだとは、思えない。


胸以外は......


「お兄ちゃん!今私を見てすご―く失礼なこと考えてたでしょう?」


推し量る様な眼差しで俺の目を見詰めるスズカ。


流石スズカ勘が鋭い。


腐っても兄妹。10年以上一緒に暮らしていたら、いやでも相手の考えてることぐらい分かる。


なんていうのかな――意思疎通的な。


「ああ、してた」


「ふえぇ!」


俺は嘘を付かない主義なんだ。それが例え相手の外見を侮辱するようなことであっても。


だが、時々それが仇に出る時もあるから、ご注意を。


「おっ、お兄ちゃん......」


体をぷるぷると震わせ、円らな瞳で俺を見詰めるいたいけな少女。


そう。愚直でいるということは良いことであり、他人から好感を持たれがちだが、「天然」と言う部類に入る人間には、それが通用しない。


純粋だからこそ傷つきやすい。それが天然。


だから、俺にとって妹と話すことは、この上なき困難なのだ。


それでも俺は、妹が大好きだ。


「す、スズカ、その失礼な事って言っても、お前がブスだとかクズだとかクソ陽キャだとか思ってるわけじゃないから――」


おっと、少し本音が


「ただ、お前の胸が年頃の女の子の割には、小さいな~と......」


「なーんだ!そんなことか!」


へっ?


スズカはケラケラと笑い、怒ることも俺をゴミクズのような目で見ることもなく、にんまりと微笑する。


「私、貧乳でもいいと思ってるから!それにお兄ちゃんが貧乳好きなの知ってるし!」


「はっ、ブヘっ!ウァッツ?」


どうして、俺が貧乳教徒だということを......まさか、エスパーか!?スズカは、エスパーなのか!?


「どっ、どうしてそれを......」


スズカは、目を斜め上にやり、人差し指を頬にあて、「う~」ッと唸なり、語り始めた。


「えーとね、先週のことだったけな?流石にちょっと不健康な生活送りすぎだな―と、朝起こしにお兄ちゃんの部屋に無許可で入った時......」


「うん」


てか、いつも無許可ではいってきてるだろ。それもノックの一つもせずに。お兄ちゃん困るんだよね―そ―いうの―!


ソロプレイしてるとこ見られたら、ショックで立ち直れなくなっちゃうだろ。まあ、でも、まあ、それは、それで背徳感があって楽しめそうだけど......



「お兄ちゃん真っ裸で寝ててさ――」


シコ寝してた時かよ!!!


ソロプレイしてるの見られる見られないよりいぜんの問題だった!


「流石にさ、兄妹だからって、お兄ちゃんの生まれたままの姿をまじまじと見るのもちょっと違うかな~っと思って......それにすっごく気持ちよさそうに寝てたから起こしたら可哀そうかな~って思って今日は諦めようと思って今日は出直そうと思ったんだよ」


スズカはもじもじと手を摩り、恥ずかしそうに俺の目をチラチラと見てくる。


「おっ、おう」


俺の全裸が見られた点を除けば、これと言ったエロ要素は何処にも見当たらないのだが......


「でっ、帰ろうとした瞬間、床に散らばってた雑誌に滑っちゃって豪快に転んじゃったの......」


も~、この天然!ドジっ子!


「で、その私を転ばせた雑誌が『集まれ!貧乳教徒たち!』って本だったの!」


「お前が勝手に転んだんだろうが!」


「いや~それほどでも~」


「褒めてない!」


こんな調子で大丈夫なのか?っと疑問と心配を頭に渦巻かせ、制服姿の妹を見て思わず、溜息が漏れる。


「制服似合ってんな」


これは、素直な感想だ。あと、話を切り替えなければならかったから。これ以上俺の性癖や好みを妹に晒すわけにはいかない。


「そりゃどうも!」


にぱーっと歯をむき出しにさせ、目を細めながらはにかむ妹の姿に少し、キュンとしてしまう。


スズカも高校一年生か......あと二年で高校卒業。このまま時が過ぎれば、俺は、中卒でロクな仕事に付けず悶え苦しむ日常が待っているだろう。その一方、スズカは、俺とは真逆で順風満帆な人生を送るだろう。偏差値80という驚異的な才知を持て余している上、並外れた美貌を有すスズカは、きっとこのまま大学へ進級し、大手企業に就職するだろう。兄としては誇らしいことではあるが、兄としてのプライドが、シュレッダーで紙屑になるだろう。


チクタクっと針が大きく揺れる音を聞き、反射的に時計を見る。小さい針は、7を指していたが、大きな針は、9を指していた。


「スズカもう8時だぞ。学校に遅れるんじゃないか?」


緩んでいたスズカの表情は、ギュッと引き締まり、眉毛がピーンと釣り上がった。


「え!?もうそんな時間!まだ、ココナの散歩にも行ってないのに!!!そうだ、お兄ちゃん!ココナの散歩に行ってくれない?」


「スズカ......俺が大の動物嫌いなのしってるだろ?ニワトリを目視するだけで失神しちまうぐらいだぜ?」


少し大げさだが、俺は動物が苦手だ。どうしてかって?俺も昔のことすぎて何故動物が嫌いになったのか覚えていないのだよ。


「でも......ココナがかわいそう......お願いお兄ちゃん!」


どうした事か。妹と恐怖、俺はどっちを選ぶべきなのだろうか?


自分のことを考えると「いかない」と言うべきなのだろうけど、間違いなく兄としての威厳は、抹消される。そして、俺の妹の中でのイメージがクズ人間からカス人間にランクダウンしてしまう。


困った。かなり困った。


心の中で天秤に掛けても優劣はつかず、モヤモヤと憤りで脳内がが侵食される。


俺の大切な物......


「あーもうわかったよ!行けばいいんだろ!」


「お兄ちゃん!」


スズカは目を輝かせ、尊敬の眼差しを俺に向ける。そして、満面の笑みを作りこう言った。


「ありがとう。お兄ちゃん!大好き!」


この笑顔のためだと思えば、別に動物の世話などいくらでもやってやる!と思ってしまうシスコンな自分を俺は憎むことが出来なかった。

皆さんこんにちは、剣です。


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次も乞うご期待下さい。

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