05 イレイザ=ナイトメーア
カッターの敵討ちにやってきたイレイザ=ナイトメーアとその部下ギロとチン。
特訓の成果を優理は発揮出来るのか?
一方、優理達にボコられ、一時撤退をした骸骨兵士のギロとチン達は上空にいた。
「本当にこんな辺鄙なところに凄腕の剣士がいて、カッターがやられたというのか?」
図太く低い声をうならせながら彼らのボスであるイレイザ=ナイトメーアは二人に聞く。
「本当です、イレイザ様。うちらギロ・チン・カッター三兄弟のカッターは、その女剣士の使う炎の剣で灰に・・・・・・」
ギロが涙するように、実際には出ない涙と鼻水をすすりながら答える。
「我らは常に三位一体で候。なにとぞ、イレイザ様の甘美なる炎で敵を討ちたまう・・・・・・」
チンもギロに続いて悲しむ。
「可愛い部下がやられて黙って見ているほどお人好しじゃないんだよ俺様は。それに同じく炎を扱う美人剣士ときた。是非とも生け捕りにして、俺様の部下にしてやりたい、ガハハハハ」
そう言って高らかに笑うイレイザとその部下達は、灰色のドラゴン型の乗り物に乗りながら、美人女剣士と取り巻きの男のところへ向かっていた。
「あれか・・・・・・かなり手強そうだな」
カレンが敵を確認したところで気を張る。
「カレン、僕はどうしたら良い」
「私が奴等を引きつける、だから優理は敵の背後に回ってくれ。合図と共に攻撃だ」
「合図は?」
「火の玉を上空に打ち上げる、それが合図だ」
「分かった」
優理はそういうとカレンに背を向けた。
「死ぬなよ・・・・・・」
「ん?なに?」
「なんでもない」
顔を背けてそう答えるカレン。
「わかった、じゃあ俺は行くよ」
なぜだろうか、決して実力も無ければ強いはずもないのに、その後ろ姿からは勇ましさと期待を感じる。その背中が闇へと消えていった。
「よし、私も本気でいくとするか」
カレンはそう言うと、腰ちかくまである長い髪を持ち上げ、腕に付けていたゴム紐で侍のように後ろで結び、左側の前髪を耳にかけた。そして上着も脱ぎ捨て、上半身は胸に巻いたさらしのみの姿となった。
「本気ですね」
イリィが何も無いところからフッと現れ、そう告げた。
「彼の敵討ちだからな・・・・・・」
彼女にも何かしら想うことがあるのだろう。イリィは何も言わずに黙って聞いた。
「さあ、はじめようかイリィ」
イリィに左手を差し出すカレン。
「かしこまりました」
イリィは紳士的に肩を倒して返事をすると、刀を呼び出してカレンに渡した。
イリィがカレンのそばに唐突に現れるのと同様な仕組みであろう。
カレンが手にした武器は【魔刀ヤヌス】長さ七,八尺(約二,三メートル)の細身の刀で柄の部分は黒の帯で巻かれていて、刀身は黒鉛のような黒光り、刃先に向かうほど細さが増している。重量はそこまで重くはなく、成人男性ならば片手で容易に振れる重さだ。
カレンはヤヌスを両手で扱う。もちろん片手で持てないことは無いのだが、彼女はこのスタンスを気に入っている。
本気モードになったカレンは、ヤヌスを両手で天高く掲げた。そして気合いを込めて一言「ハッ!」と叫ぶと、刀の先から炎が一直線に吹き出した。
暗闇の中で赤く燃え光るその炎に、イレイザ達はすぐに気がつく。
「あっあれは、赤い炎! あれですよボス!」
ギロがイレイザに向かって叫ぶ。
「ほう、私はここに居るぞと言わんばかりの威勢の良さじゃないか。気に入った、絶対に部下にしてやる」
イレイザはそう意気込んだ後「いくぞお前等!」と叫び、その炎の元へと部下を引き連れて向かった。
「随分と派手にやりますね」と、やや呆れたようにイリィが口にする。
「これくらいやった方が興にはいいだろ?」
「来たみたいですよ、お待ちかねの敵が」
イリィが言うやいなや、目の前にイレイザ率いる部隊が合計一〇体、上空から降りてきた。地上に着くと、イレイザ一行は灰色のドラゴンの乗り物から降りて、カレンと対峙する。他の部下である骸骨が後ろで列を作って待機し、その後ろからイレイザが前へゆったりと乗り出す。
「我こそは黒の三英傑第三位配属兵、爆発のイレイザ=ナイトメーア隊長だ。初めまして紅のお嬢さん」
紳士的な礼と共に挨拶をするイレイザ。そんなイレイザに対しカレンは挑発をする。
「聞いたこと無い名前ね、今なんて言ったのかしら? イザコザ?」
「ぐぬぬ・・・・・・」
安い挑発に乗ってはならぬと歯を食いしばるイレイザの後ろで部下達が応援する。
「よっ隊長やっちまえ!」
「ボス、今です!ほら!」
「部長も言い返したらどうなんだよ!」
「やっかましわお前等! あと、俺のことはボスと呼びなさいと言っただろう、きちんと揃えろ!」
「「イエス・ボス!」」
隊長らしく部下を叱りつけ、何事も無かったかのように向き直る。
「俺の可愛い部下ちゃんをやったことは正直許せないが、代わりに同じく炎系を扱える剣士殿がもし俺の部下になってくれるなら、許してやらなくは無いぞ?」
「あら、奇遇ね、私もちょうどもう一人執事が欲しいところだったの、貴方が土下座してでもやらしてくださいって言えば考えなくも無いのだけれど?」
一瞬同じ炎という言葉が気になったが、間髪入れずに挑発をするカレンにイレイザも少し鼻息を荒げる。
「俺より弱い奴の執事にはなれんな、まぁ夜のご奉仕までさせてもらえるのなら考えなくも無いがな!」
「ふ~、ボスやるぅ」
「よっ隊長いかすぜ!」
「部長それパワハラっすよ」
「ボス! ボスと呼べこの脳なしども!」
「「イエス・ボス!」」
また同じやりとりをするイレイザ軍団。
さすがのカレンも今の発言には鳥肌が立った。
「うーわきっしょ、そんなんだから未だに独身底辺隊長なのね、かわいそう」
「ガハハ、こう見えても三〇手前なんだな。俺様はスピード出世で隊長まで上り詰めたエリートってわけだ」
二人はなおも舌戦を繰り広げる。部下達の応援にも拍車がかかる。
「よっ隊長さすがだぜ」
「ボス、しびれるっす」
「部長、いつになったら給料上がるんですか」
さぁ次はどんな叱りがくるのか・・・・・・と思っていたら、イレイザは肩を震わせて、
「お前等いい加減にせえよ! ボスだっつってんだろ!? あとお前、よっていちいち入れるな、そしてお前、お前だけ応援じゃない、サラリーマンか!」
しびれを切らしたイレイザは部下達に怒濤の突っ込みを入れた。その様子を見てカレンが鋭く言い放つ。
「これ以上話し合っても意味はなさそうね」
「奇遇だな俺もそう思っていたところだ」
今の今まで気づいてなかったのか・・・・・・という雰囲気はさておき、二人の空気感が変わる。
カレンが魔刀ヤヌスを持ち直し構えると、イレイザも腰の剣を抜いて構える。
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強者同士が真剣に互いの間を読み合うことで、静寂かつ気迫のある沈黙が生まれる。
一人一人の些細な息づかいや目線に敏感になり、額から汗がつたう。
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すると! 緊迫感のなか唐突に視界の端で何かうごめくモノが!?
それはまるでボールペンで書いてしまったから消しゴムで消すことができず、見られたくないからどうしようもなくグチャグチャに書き殴ったかのような、そんな何か。
全員の視線がその何かに集まる。
その奇妙な動きをする何かはイレイザの元へとヨロヨロと近づいていきそして止まった。
「・・・・・・・・・・・・、なんだ?」
イレイザが口にした瞬間、うごめく怪しい何かは人の形へと変化する。
「優理!?」
「ンオッ!?」
イレイザが驚きひるんだ隙を優理は逃さず、顎下めがけて勢いよく拳でアッパーをかます。
「ぐわあぁあ・・・・・・」
不意に顎に拳を食らったイレイザはその場に倒れて気絶、部下達は「ボス!」と叫ぶ。
「優理避けろ!」
その隙を逃すまいとカレンが優理に言い放つ。
優理は言葉に反応し咄嗟にカレンの方へダイブして緊急回避をした。
それを確認したカレンは肩上から斜めに構えたヤヌスに炎を纏わせ、腰を入れてそのまま横一直線にイレイザの部下達に向けてスイングした。それはまるで天から降りてきた火の竜が地を這っていくかのようだ。
《地を這う火炎竜》
カレンはそう叫び、イレイザの部下達を一掃した。
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