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aラストティア ~荒野の楽園編~  作者: 蒼骨 渉
第四章 灰色のティア
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07 蝶のように舞い、蜂のように刺す?

「―――イタッ!?」


 急に激痛が僕の膝を走った。

 見ると、クリプトの尻から伸びた尻尾の先につく針が僕の膝に突き刺さっているではないか!

 そのまま顔を上げて僕を睨み付けるクリプト。その顔は蒼く口元は蟻のようにギザギザと噛み合わせている。


「ギャハハ! 危うく完全に意識が飛ぶとこだったぜ蝶々さんヨォ。でもお前もこれで俺の毒に犯された後グオーレンと同じく捕食寄生されちゃうなぁ。ギャハハ!!」


クリプトは《胡蝶の死と再生の夢(パピヨンプシュケート)》で眠りにつく直前に、自分で自分をコントロールする針を首に打ち込んでいたようで、即効性はないものの徐々に意識を回復させつつあったのだ。


「くっ・・・・・・。捕食寄生だと・・・・・・?」

 僕は必死で痛みを堪えながら奴との間合いを取る。


「聞いたこと無いか? 寄生虫の中でも特に凄い奴でさあ。寄生した宿主を最後には食って殺しちゃう捕食寄生ってやつを。俺の名前もその捕食寄生をする蜂から名付けられたんだぜ」

 クリプトは蜂のように鋭い針を見せつけながら、ブーンと強く羽音を鳴らしてきた。


 なるほどだから寄生虫にしてはしっかりとした甲殻と触覚、それに鋭い歯を持っていたのか。


 そしてこの戦いは実質『蝶VS蜂』という構造になっているわけだ。

 こりゃまた虫が良すぎる話だな。

 これもまた元から決まった運命とやらなのかラムじいさんよ・・・・・・。


 僕も今は蝶の姿だから毒耐性は生身の人間に比べたら高いと思うが、保って十分といったところだろう。だからそれ以上の時間をかけた時点でアウトだ。

 地上ではカレンとチキがグオーレンとの死闘を繰り広げている。

 僕はそのまま視線を上へと向けて覚悟を決めた。


「さあ蜂さん、食うか食われるかの生存競争を始めようじゃないか!」

 背中の羽根を勢いよく羽ばたかせて宙を舞い、クリプトを空中戦へと誘う。


「蝶ごときが蜂に勝てると思うなよ!」

 クリプトも鋭く羽音を鳴らして優理の後を追いかけた。


 物理的な力と速さの勝負だと蝶が蜂に勝つのは無理だ。蝶は攻撃型というよりは補助型の生態系であるからだ。

 よって直接的な接近戦ではなく遠距離で奴を詰めていく。


 《日輪の鳳蝶(フレアラルバタフリー)》は砲丸のように丸めた炎と光の属性をした魔力を左右の手から放つことができる。

 これが基本的な攻撃になり、それ以外には先の《胡蝶の死と再生の夢(パピヨンプシュケート)》のような精神攻撃が主なのだが・・・・・・。


「こんな付け焼き刃のような攻撃、俺の速さがあれば造作も無く避けれるぞ蝶々さんよ」

 奴の言う通りこの攻撃は一対一で、しかも動きながらの闘いでは使いづらい。

「おいおい、威勢良く飛び出した割には逃げてばかりだな。これじゃ俺が手を下すまでも無く貴様は毒に犯されて俺の操り蝶々になっちまうぞ」


 ギャハギャハと嘲り笑いながら後方を追っかけてくるクリプト。

 でもそれじゃつまらない、と呟くとギアを上げたように加速して僕の腹をめがけて尖った腕や針のついた尾を振りかざしてくる。


 僕はその攻撃をぎりぎりで躱していくが、何度も避けきれずに傷をつくった。

 その度に緑では無く赤い人間の血が滴り落ちていく。


「もう限界か!? 情けねぇなあ。頭は多少切れるようだが戦闘能力は全然だな! さてそろそろ毒も回りきる頃だろうこのまま・・・・・・」

「それはどうかな」

 クリプトの勝ちを確信したような言葉を遮るように僕は宙で止まった。


「は、何言ってんだお前。自分の状況が理解で来てんのか? 当たりもしないへなちょこな攻撃ばかり繰り返して、身体は傷だらけでボロボロ。勝機なんてこれっぽっち無いだろ!」

 同じく宙で対面するように止まり、昆虫の前足で天を仰ぐように広げて緑色の眼を僕に向けるクリプト。

「ああ、分かったぞ。そうやって何も無いくせに見栄だけ張って俺を同様させようとしているんだろ? そうなんだろ! ハハッ、言い返せまい。図星だからだろ?」


 優理は休むこと無く宙を舞い続けて荒くなった呼吸を整えるように息を吐く。

「やっぱ予定変更だ。貴様は俺様の手で直接あの世に送ってやるよ!」

 鉄のように堅く鋭く尖った手で僕を指し、クリプトは真っ直ぐ僕の心臓に向けて直進してくる!


「蜂のくせにお前は全然賢く無いようだな。本物の蜂の方がまだ生き残るための知恵と知識を持っているよ」


 迫ってくるクリプトを余所に、全神経を集中させ魔力を全身の細部にまで細かく点描させるように送り留まらせる。

 そしてぎりぎりまでクリプトを自分の身体にまで引き寄せてから、奴の鋭い腕を掴み、自分は下に潜り込んで仰向けの形になるように身体を捻らせ、その反動を使いクリプトを上へと放り投げる。


「お、俺の攻撃が躱されっ、ってウオッ!?」

「僕がただ逃げ回ってるだけの蝶に見えたか? だとしたらそれはお前という蜂が見ていた夢なのかもしれないな・・・・・・」

「なんだと・・・・・・、ん? なんだこの粉は?」

 クリプトの周りにはいつのまにか沢山の金色の細かい粒子が漂い舞っていた。


「その粉は僕が撒いた蝶の鱗粉だ。準備は整った・・・・・・いくぞ」

 僕は全身に留めていた繊密な魔力を一気に放出させ、宙を舞う無数の鱗粉へと送る。

 ティアの魔力と合わさった鱗粉は線香花火のようにチリチリと音を立てて火花を散らした後に一気に破裂、炎の熱と光の閃光が合わさった爆裂をその鱗粉の数だけ巻き起こした。


舞い踊る鳳蝶の鱗粉フレアラルダンスケイル


「こ、この俺が、蝶ごときに・・・・・・グガアアアアァァァ!!」

 空の歪ませるかのような轟音と爆発はクリプトの叫び声をもかき消した。

 黒焦げになったクリプトは爆発の残り火と煌めく鱗粉と共に地に墜ちていくのだった。


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