05 灰色のティアの所持者?
「優理!」
僕が振り向くよりも早くカレンが体ごと僕に飛び突いて一緒に転がり倒れた。
拳をたたきつける鈍い音と共に床が波打ち振動する。
さっきまで僕とカレンがいたところに振り落とされたのは・・・・・
「グオーレン王!?」
さっきまでいびきをかいて寝ていた筈のグオーレン王が拳を地面に打ちつける姿がそこにはあった。
さっき静かになったと感じたのはグオーレンのいびきの音が聞こえなくなったのが原因だったのか。
しかしどこか様子がおかしい。
グオーレンの口からは涎が滴り『ガヴルルルル』と唸りながら眼はずっと白目を向いている。
まるで狂った獣のようだった。
チキも慌てて倒れている優理達の元に駆け寄る。
「まさか、グオーレン王が今回の敵だったというのか」
カレンは獣のようなグオーレンに鋭い目を向ける。
「くるぞ!」
再びこちらに向けて拳を振りかざした人獣を三人は散らばって避けた。
「イリィ、ヤヌスを!」
「かしこまりましたカレン様」
「モノいっちょやるよ!」
カレンは左手を出して【魔刀ヤヌス】を掴み構え、チキも身軽なステップを踏みながら【ミセリルコリデ】を取り出した。
「二人とも待ってくれ!」
しかし僕は戦闘態勢に入った二人に対してそう呼びかけた。
「優理どうしたというのだ? 戦わないのなら逃げるしかないぞ」
カレンは不思議そうに僕を見つめてくる。
「二人とも待ってくれ。僕等の本当の敵はグオーレン王じゃない」
「まって、優理どういうこと!?」
僕の言葉にチキとカレンは驚きを隠せないでいた。
「優理どういう意味か説明してくれるか?」
「ああ、でもその説明は本物の敵の口から直接聞こうじゃ無いか!」
優理はカレンにそう言うと、グオーレンのストレートパンチを避けてから《虹の雫》を発動し本物の敵めがけて《虹の結晶欠泉》を放った!
その瞬間視界が暗闇に覆われる。
「な、何が起こった!?」
「ひっ! 急に真っ暗になった!」
「あっぶねえなぁ!!」
カレンとチキの声に混ざって中年男性の声が聞こえてきた。
「思った通りだったな。カレン灯りだせるか?」
「わかった、今出す」
カレンが灯りを灯すと視界がぼやっと広がっていき、王座のところにグオーレンの巨体に加えてもう一人、丸いフォルムの人物が居るのが分かった。
「よく燭台が俺だって気づいたな小僧」
中年小太り男性は憎ったらしく僕に嫌みを浴びせた。
「そりゃどうも。でもお礼なら隣にいるこの子に言って欲しいかな大臣様」
「燭台が無くなって大臣が増えてる・・・・・・」
僕は何が何だか分からない顔をしているチキを指して言い返した。
そう、僕等の本当の敵は奴の言う通り燭台に化けて身を隠していたグオーレ城の大臣だったのだ。
《虹の結晶欠泉》を放った時に辺りが暗くなったのも、大臣が変身を解いて燭台が無くなったからである。
「ほう、どうして分かったのか参考までに聞かせて貰おうかな」
小太り大臣は王座に腰を下ろす。
「簡単な話だよ。暗殺するのに燭台が置いてあるんじゃ邪魔になるだろ?」
「なるほど。確かに暗殺するなら邪魔だな」
大臣は王座の腕かけを叩きながら不敵な笑みを浮かべた。
「ちょっとまって、置いてきぼりになってるんですけど」
チキは不満の表情を向けた。
僕は考察結果を端的に説明する。
「僕達は最初、燭台がある理由を灯りが必要だった誰かが居たと思って周囲を探した、けど誰も見当たらなかった。それで僕は敵の目的は何だったのかを考えてみたんだ。その結果真っ先に思いついたのはグオーレン王を殺すこと。でも人を殺すのに近くにこんな灯りが有ると誰か来たときにすぐにばれてしまう。僕が敵の立場なら真っ先に燭台の火は消す、そう思ったんだ」
「そうか、つまり大臣が目的を果たすのに、燭台の灯りは必要ではなく不要だった。それなのに燭台が灯り続けていたから怪しいと思ったんだな」
カレンもようやく理解したようで感心していた。
「でもさでもさ、その理由は分かったんだけど、グオーレン王がウチ達を襲ってきたのはなんでなんだ?」
「確かにそうだな・・・・・・。グオーレンは酒に酔うと当たり散らす性格だったとかか?」
ここまでの推理は合っているはずなのにチキの疑問に対しての答えを僕は持ち合わせていなかった。
何か読み間違っていたのか?
すると王座の方から声が飛んでくる。
「その答えは俺から教えてあげようじゃないか。本当はグオーレン王に任せて俺は隠れて見守ってるだけにしようとしてたのを見事に見破った褒美としてな」
黙って僕の推理を聞いていた大臣は高らかに笑い、横で四つん這いになりお座りしている人獣グオーレンの頭を撫でながら勝手にしゃべり出す。
「俺は王を殺しに来たわけじゃなく、王を操ろうとしていたのさ。俺の灰色のティアの能力【寄生虫】を使ってなぁ」
そういうと大臣は懐に手を入れて僕達のティアと瓜二つの雫型の結晶を取り出して見せつけてきた。
「灰色のティアだと!?」
僕達だけじゃなく精霊であるイリィやモノもその言葉を聞いて驚きの表情をする。
その色は暗くてはっきりとしないが、奴の言う通り灰色なのだろう。虹の雫のレンズ越しには灰色の線が映っていた。
いや、何を納得しているんだ僕は! 灰色のティア? そんなの七色のティアの中には含まれていないはずじゃないか!
いやしかし、僕はその可能性もなんとなく危惧していた。
でもしていたのは灰色では無く【黒】だ。
黒の三英傑なんていうくらいだから【黒】はあってもおかしくないとは思っていた。
だが奴は僕の予想を軽々と越えて【灰色】と口にした。
それだけじゃない。奴は灰色のティアの能力で【寄生虫】とも豪語した。
寄生虫とは別の生物を宿主としてその生物の体内に寄生する虫の総称を指す言葉で、その種類には寄生の仕方によって複数の呼び名がある。
例えば高次寄生という成長の過程で同一の宿主ではなく別の宿主を見つけて寄生を繰り返す方法や体内に寄生する内部寄生虫や逆に体表面に寄生する外部寄生虫なども存在している。
また寄生虫の中には宿主に悪影響を及ぼすタイプとそうでないタイプがいて、前者には宿主の脳に毒を盛り行動をコントロールしたり、内臓を破壊して瀕死もしくは死に追いやったりする寄生虫もいるのだ。
つまり奴の言う【寄生虫】の能力というのはその名の通り寄生することで相手をコントロールし、死に追いやることも可能な能力だと考えられる。
事実大臣はグオーレン王を操るとも言ってたし間違いはないだろう。
灰色のティアはその能力を与えてくれる物?
僕達のティアとは全く異なる性能をしているということなのだろうか。
「貴様もイレイザと同じ人間ならざる存在なのか?」
カレンが鋭い眼で大臣に問う。
「イレイザ? ああ、三等兵のことか。俺をあんな雑魚と一緒にしないで貰おうか。俺は【黒の三英傑第二位配属下士官】寄生虫のクリプト=ビー=パー様だ!」
そう叫ぶと同時に大臣は脱皮した虫が殻を破るように人間の皮を脱ぎ捨てて、蒼い複眼と頭部に触覚を生やし、全身ニスを塗ったように光沢のついた緑色の甲殻を露わにした。




