17 自然の監獄に収容される者
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カレンと優理が自然の監獄に姿を現すと腕を組んでその場に待つチキが居た。
「ほらこっちよ」
先導するようにスタスタと歩き始めるチキ。
三人が歩いている通路は土と砂が固まったような地面で、強く踏みすぎると足跡がしっかりと残りそうな柔らかさをしている。灯りは等間隔に壁に設置されている電球色の街灯のみで、薄暗く奥は見えないため、どこまでこの通路が続いているのか分からない。その長い通路の左右は鉄格子が連なっていて、無言の複数の眼がこちらをじろじろと見てくる。
「ここが自然の監獄・・・・・・」
カレンが辺りを見渡しながら感嘆する。
黙ったまま通路を突き進むチキが急に足を止めて檻の中を見つめた。
二人も檻の中に目をやる。
そこには肩までしかないジャケットを生身に直接羽織った、筋肉質で体格のいい禿頭の男性がいた。
「この人が私の親分であり大切な人」
その男を指すチキは苦悩の表情を浮かべていて元気がない。
「見た目の割に覇気が無いというか元気がないなこのご老人は」
カレンの言うとおり、見た目だけなら骨付き肉をがっつきながら大樽に入った酒をがぶがぶと飲みそうな男だ。そんな大男が肩を落として座り込み、眼には光が無くずっと一点を見つめている。まるで死んでいるかのように。
「自然の監獄はそういう場所なのよ。現実世界から逃避した者の魂が捕らわれ収容される場所。精神世界よ」
精神世界。たしか前にイリィに自然の監獄について教えてもらったときもそんなことを言っていた。だがその時に聞いた話では、ティアの力を使えない者が使おうとした場合に連れてこられる場所だったはず。それ以外にも自然の監獄に連れてこられる方法が有るということなのだろうか。
「なぜここにチキの大切な人がいるのだ?」
「何もしなければ死んでしまうからよ」
「何もしなければ死ぬ? 自然の監獄は悪人が収容されている場所ではないのか?」
カレンも同じことを疑問に思っていたようだ。
「親分は悪人じゃないわ! 悪人なんかじゃないんだ・・・・・・」
チキは声を荒げて言い放った。きっとこれまでにも悪人扱いされてきたのだろう。その度に「違う!」って叫んで否定するチキの姿が想像できた。
「チキ詳しく教えてくれないか? 悪人じゃない親分が自然の監獄に居る理由を」
うつむくチキに優理がやさしく問いかけると、チキは落ち着いて顔を上げる。
「ウチの親分は病に冒されていたの、それもいつ死んでもおかしくないくらいの病に。それなのにいつも笑顔で元気にウチに接してくれた。身寄りの無い孤独なウチを面倒見てくれたんだ。でもやっぱり無理してたみたいで、あるとき全く動かなくなっちゃって・・・・・・。その時に偶然通りかかったのがロムじいだった。ロムじいに事情を説明すると、ウチのティアを見て言ったんだ『これを使えば親分を救ってやれるかもしれない』って。自然の監獄は精神世界、現実世界では助けられなくても精神だけなら助けられる。必死だったウチは言われたとおりにティアを使って親分を自然の監獄に送ってた」
今にも泣き出しそうな声色で、チキは丁寧に説明してくれた。
さっき僕が院長の話をしたときのチキの反応は、きっと僕と院長の関係を親分と自分とに重ねたものだったのだろう。
「しかし解せないな、ロムじいは何故自然の自然の監獄にチキの親分を送って助けられるなどと言ったのか。これじゃ死んでるも同然ではないか」
まさしくカレンの言う通りだった。今の親分の姿を見る限り助かったとは到底言えない。しかしロムじいとチキの関係を見る限り恨んでいるワケではないように思える。そういえばリングについて何か言ってたような・・・・・・。
「なぁチキ、ロムじいとリングがどうとかって話してたよな? もしかしてリングと今回の親分の件が関係しているのか?」
「優理の言う通りだ。この世界のどこかに自然の監獄、つまりは精神のみとなった人間を生き返らせることができるリングがあるらしい。それをあのロムじいに教えてもらって探してたのよ」
「なるほど。だから僕やグオーレ王国からリングを盗んだのか」
カレンもここまで聞くと納得したように頷いていた。
「そういえばグオーレ王国で見つけた金のリングはどうだったんだ?」
「それを今から確かめるのよ。モノ、出ておいで」
チキが肩を叩くとチキの顔と同じくらいの大きさの猿がチキの肩の上に現れた。
「え? どこから現れた!?」
突如現れた黄色い蝶ネクタイをした猿に、僕が目を見開いていると横からカレンが
「もしかしてこの猿・・・・・・精霊?」
「よく分かったね、これがうちの黄のティアの精霊のモノだよ、可愛いだろ」
「ウッキ!」
チキは猿の頭を撫でながら感心したようにカレンを向く。
グオーレ王国の宝物庫で金のリングを持って居なくなった猿はモノという名前の猿で、チキの、黄のティアの精霊であった。
「喋らないのか?」
「え? あ、そっか。あんた達はこの子の言葉を理解できないのか」
「流石に猿語はわからないな。なんて言ってるのか通訳してくれないか」
何故か興味津々なカレン。チキは猿に耳を貸して何度か頷くと、悪い顔をする。
「なんかいけ好かない女だなって言ってるわ」
「ほ、本当か? 猿に嫌われるのは初めてだ」
いや、そんなわけ、え、カレンさん? 鈍感なの?
明らかにチキの嫌みであるはずなのにカレンは真っ直ぐにその言葉を信じて悲しむ。
調子に乗ったチキはその後もカレンに対して嫌みを並べたが最後の一つは地雷だった。
「ちっぱい」
「ほう・・・・・・・・・・・・いい度胸しているな。猿風情が!」
カレンは魔刀ヤヌスを取り出して猿に向けて構え出した!
「ひぃ!」
チキとモノは血相を変えて走り出す。カレンは二人を鬼の形相で追いかけ、そのまま暗がりへと姿を消していった。
「金のリング確かめなくてよかったのか?」
僕はため息をついて、仕方なく二人の後を追いかけた。
主な登場人物
・優理(主人公) 虹色のティアマスター
・カレン 赤色のティアマスター
・イリィ 赤のティアの精霊守護
・ニュートン ハリネズミ
・自然の楽園にいる美少女
・チキ 黄色い髪の盗賊
・ラムじい
・チキの親分




