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aラストティア ~荒野の楽園編~  作者: 蒼骨 渉
第一章 満ちた世界と天変地異
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01 優理

是非ブックマーク・評価をおねがいします!

 ほんのり柔らかい暖かさを含んだ冷たい風が、薄く白い服がめくれ出たおなかに触れる。

―また同じ夢の続きを見ていた。

 自分が物語の主人公で、その物語は剣や魔法が使える世界で、たくさんの冒険者達がダンジョンや洞窟に足を踏み入れお宝探しや魔王討伐を試みる。その中でも自分が伝説の勇者として仲間と共に魔王を討ち滅ぼす。

 でもその物語はいっこうに完結する気配も見せずに、まるでゲームで死んだら協会で生き返ったり、ドロップするアイテムをリセマラしたりするように、何度も同じシーンを繰り返す。

 今日は七回目の森のダンジョンで、落とし穴に落ちて出口を探している間に見つけた精霊の泉で回復をし、その先にいる森の守護者との戦闘の途中で目が覚めてしまった。


「第一フェーズさえ突破出来なかった・・・・・・」


 そう口にした彼は、いつもは孤児院のおばさんが起こしに来る六時の三〇分前に目が覚めるのだが、今日はそれよりも早く目が覚めてしまっていた。

季節は春、それもふきのとうの先がちょっとでてきたくらいのひょっこりとした春。

さすがにおなかを出したまま寝たら、冷えて目が覚めてしまうのも仕方ない。


「あと一〇分・・・・・・」


 目覚まし時計があるわけでは無く、習慣によって身につく代物である体内時計という感覚を使いちょうど九分四五秒後、まだ半開きの目をこすりながら洗面所に向かう。

眠気覚ましに両手ですくった冷水を顔にかけた後、タオルで拭くことも無く濡れたままの状態で置いてあるコップに水を半分くらい注ぎ中庭まで向かう。


「おはよう、今日も気持ちの良い朝だね『ベル』」


 そう挨拶して、手に持っているコップの水を鉢の中で咲く黄色い花にあげて、そっと撫でる。それに答えるかのように『ベル』もゆらゆらと揺れるのだが、彼は「風の仕業かな?」と思う位で特に気にする様子も無く、しばらくの間『ベル』とのおしゃべりを愉しんでいた。


「ほーらみんな起きて! 朝ですよーーー」


 その大きな騒音に妨げられた睡眠達がゆっくりと腰を折り曲げる。

 相変わらずの騒音だ・・・・・・、と思いながら朝の礼拝を済ませるために大きな木彫りの女神像のある部屋へと向かう。

 彼が朝早く起きるのは、この騒音が嫌という理由もあるだろう。

 まだふらふらした状態のみんながぞろぞろと女神像の前に集まってくる。

 全員が揃うとまずおばさんが目を閉じながら両手の指を交互に編み込むようにして胸の前で合わせる。それに続いて全員も手を合わせ、そして斉唱する。


「「神に与えられし生命と共に生き、そして死ぬ時まで、感謝を込めて祈ります。ありがとう」」


 お祈りが終わったらようやく朝ご飯の時間だ。

 各々が顔を洗ったり着替えたりと食堂に向かう準備をしている間におばさん達がご飯をお皿に盛り付けテーブルに並べていく。

 ここでいう『おばさん』とは、この孤児院で子供達を世話・管理してくれる人達のことで、年齢問わず子供達はおばさんと呼んでいる。

 そうして用意された朝ご飯を決められたイスに座ってみんなで食べる。

 もちろん食べる前の挨拶もある。


「「この世の命に感謝を込めて祈ります。いただきます!」」


 お皿の上には丸いパンとソーセージ、スクランブルエッグにレタス。特に豪華というわけでも無く質素というわけでもないが、よくこのような施設で出てきそうな感じのオーラを放っている。

 週に二日はスープも出てくるが今日はその日じゃないらしい。テーブルに着くまでスープがあるかどうかは分からないので、一日のわくわくはここから始まるといっても過言では無い。


 食事を済ませたら教室へ向かう準備をする。

 ここから夕方までは所謂『学校』というスケジュールが割り当てられていて、同じ教室で同じ教育を同一の教師おばさんから学ぶのだ。

 しかしそれも全て孤児院内で行われるのであって、外へ出て学校にわざわざ向かうということはしない。というよりする必要がない。なぜなら現代に『学校』というものが存在しないからだ。


「空気が冷たいな・・・・・・、裸のあの子は服を着るのにもうしばらく時間がかかる。可哀想に。でも服を着る頃には暖かくなっていて、衣替えをしたあとにまたすっぱだかになっちゃうんだよな。寒い時は裸で暑いときには厚着だなんておかしいよな」


 そんなことを思いながら外に立っている木々をぼんやり眺めていた。

 次に目をやったのは上空で、優雅に飛ぶ鳥や流れにまかせて漂う雲を見て彼らに言う。


「僕に翼があれば同じところをウロチョロしないでもっといろんなところに飛んでいくよ。あともうちょっと低いところの方が良いと思う、だって太陽が暑いからね。君たちは平気なのかい?」


 聞こえるはずもなく、たとえ聞こえても理解されないであろう言葉を伝えようとする彼。

その頭上に黒い影が差し迫る。


パコーン!


「イッタ~~!」


 頭を抑えながら振り向くと、丸まった教科書を力強く握るおばさんの姿があった。


「優理! あんたまた外見てボーッとして、そんなに私の授業がつまんないのかい!?」


 優理、それが彼の名前。目と耳に少しかかるくらいの長さの黒い髪をしていて、目つきは多少きつめだが、その瞳には透き通った純粋さが感じられる。決して美男というわけでは無いが色白で整った顔立ちをしている青年だ。


「別にあんたの授業だけがつまらないわけじゃないよ、平等に退屈」


 そう返す優理にまたしても教科書が振りかかる。


「ほんっとに口だけ達者に育って、せめて教科書とノートくらい開いてペンでも握ってなさい!」


 手のひらに教科書パシパシ当てながら教卓に戻り授業を続けるおばさん。

 みんなの視線も優理から散らばっていく。

 しぶしぶと言われたとおりに教科書とノートの適当なページを開き、ペンは握るだけの優理であった。


 一日の授業が終わると夕食の時間までは部活動の時間となる。

 男の子は大抵運動系の部活に所属していて、サッカーやバスケ、野球など本当にいろいろある。

 ちなみに優理は剣道部に所属している。

 女の子はちょっと特殊で園芸やピアノ、裁縫に料理と文学的かつ家庭的なものを半ば強制的にやらされている。将来孤児院でおばさんとなるための修行なのかもしれない。

 優理は今日も校庭を広く見渡せる位置にある大きな木の下で、日陰に涼みながら本を読んでいた。風通しも良くお昼寝にも丁度良いここは最高の癒やしなのだ。


「空気も美味しいし、部屋にこもって厚着して剣を振るっているより断然いいよな」


 まだ草が生え揃っていない地面におしりをつけながら独り言を呟く優理を、誰も気にはしない。

 授業も部活もちゃんとやらない優理は他の人からしたら変人であって、殆どの人は話しかけるどころか近寄ってさえこない。通称ボッチというやつだ。かといって本人もそれを自覚しているせいか気にはしていない。

 いや、正確に言えば年頃の子供ではあるので完全に気にしていないわけではないのだが、気の合わない人達とわざわざ関係を持とうとすることの方が疲れるし面倒なものだと思っている。

 だから優理は一人、このベストスポットで大好きな読書をしている。


 優理の持っている本は私物の本ではなく、孤児院の経費で買っている本であった。

 今でこそ孤児院に本が増えてはきたが、もともとは少なく、今ある本の九割は優理が頼んで買ってきてもらった本だ。だから優理は全ての本を完読している。

そして新しい本がやってくるのは一ヶ月に一回、二~三冊程度と少ない。

だから優理は同じ本を何度も読んでいて、この本は一〇回以上読んでいるのであった。



「ゆうりは本当に本を読むのが好きなんだね」


「うん! いんちょうがたくさん字や言葉を教えてくれるから、読める本も増えてきたんだよ! ねぇ、この字はなんて読むの?」


 院長と呼ばれた人物は「どれどれ」と良いながら優理の横に座り、かけていた眼鏡を上にずらして優理の指した文字を読む。


「これはだな『ぼうけん』と読むんだよ。意味は、まだ観たことも無い場所に勇気をもって行くこと」


「まだ観たこと無い場所ってどんな場所?」


「そうだなぁ・・・・・・、ほら、例えば雲の上の世界とか海の深いところ。あとはほら、優理だったらあそこの遠くに見える山にも登ったことは無いだろう? そういう場所のことだよ」


「そっかー、まだ行ったことない場所に行くことなんだね」


院長の指さした山や空をぼーっと眺めながらつぶやいた。


「優理も冒険してみたいかい?」


「したい!!」


 優理は大きな声を出し、上半身を院長にぐいっと近づけた。


「そうかそうか、優理は本当に元気で良い子だな」


 院長は笑いながら優理の頭をぽんぽんと撫でる。

 くしゃっとした顔で優理も笑うと、今度は優しい眼をする院長。


「でもな優理、冒険には仲間が必要なんだよ? だから孤児院で友達を作らないといけないな。それに体力も冒険には必要だから剣道なんか始めてみたらどうだろうか。一石二鳥じゃないかなって思うぞ」


 いつも一人でいる優理を心配している院長の優しいアドバイスだった。


「友達・・・・・・。そりゃ僕だって友達は欲しいけどさ・・・・・・。いんちょうじゃだめなの?」


 不安でうつむきながら指をもじもじとさせる。


「院長はもう年寄りだからなぁ、冒険はちと厳しいな。せっかくのチャンスなんだから頑張ってみたらどうだい? 大丈夫優理ならきっとできるさ」


 歯の殆ど抜けた口を開き、ニカッと笑いながら優理の肩を叩く。


「・・・・・・うん。わかった、頑張ってみるよいんちょう!」


 若干迷いはあったものの、優理はいんちょうに負けないくらい口を大きく開いて笑って答えた。

すると急に院長は目を細めて優理の顎に手を当て、口を開いてのぞき込む。


「どーひたの??」


 急に口を開かれてびっくりして声を出すも舌が上手く使えず変な音になる。


「この歯・・・・・・抜けそうだな優理」


 そう言って人差し指で抜けそうな前歯をクラクラとさせる。


「へ、いんひょうとおなひになっひゃうひゃん!」


 グラつく歯を舌ちょんちょんと触りながら笑う優理。


「ん? 誰と同じだって? 一緒にされちゃ困るなぁ!」


 合図も無しに急に指で歯を引っこ抜かれた優理は絶叫を上げる。


「んっぎゃああ!!」




「なにすんだよじじ・・・・・・」


 急に起き上がり辺りを見回すも、いつもと代わり映えのない校庭と身長よりも長く伸びた影達がウヨウヨしているだけで、歯の痛みもじじいの姿もそこには無かった。

 どうやら本を読んでいる最中に眠ってしまっていたらしい。

 「懐かしい夢だったな・・・・・・」そう思っていると遠くからまたいつもの騒音が聞こえてくる。

 夜ご飯の時間だ。


 朝の時とは違ってみんな汗をかいたり、服が汚れたりと外のにおいがする。

 育ち盛りの子供達の食欲は旺盛で、見ているだけでお腹がふくれそうだ。

 夜ご飯のあとはお風呂に入ったり歯を磨いたりと寝る準備を済ませ、就寝前の礼拝で今日一日に感謝を告げてから八時半には就寝する。

 みんなが眠たそうにお布団に入る中、優理は一人中庭に居た。


「今日も一日退屈だったよ、君はいつもここにいて退屈じゃないのかい?」


 中庭の友達からの返答はもちろん無い。


「こら優理、すぐに寝なさい」


 後ろから「やれやれいつも懲りないね」といった雑音がする。

 ここにいるみんな、そして優理の一日――毎日はこんな風にして過ぎていく。




初投稿です。

文章はまだまだ下手くそですが、面白い作品を書けるように努力しています。

新人賞に出す予定の作品ですので、みなさん応援お願いします。

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