08 自然の楽園に住む美少女?
自然の楽園という新しい世界がでてきましたね。
このシーンはアニメになったら壮大な絵コンテでやってもらいたい・・・ジュル
中に入るとまず目についたのは、前方に見える、遙か上の方から滝のように流れる水と、それを受け止め貯水している噴水広場のようなもの。それが全体の三分の一程度を占めている。残りの三分の二は宝の山のように摘まれた煌びやかで艶のある美味しそうなフルーツだったり、無造作に咲き乱れる花々や植物だったりと、自然の産物が色とりどりにある。壁は年期入っており、カボチャのような色としわをしている。
こんなにも美しい自然に溢れた自然の楽園はセピア世界と比べると、まさしく楽園と呼ぶのにふさわしい場所だ。
「優理はここで待ってて」
カレンはイリィと共に果物や水のある方へと行ってしまった。恵を受け取るのだろう。
置いてけぼりにされた優理がなおも辺りをじっくりと観察していると、貯水場の左の奥の方にもう一つ、人がくぐれそうな穴と奥に続く道があった。
その穴の奥から、こっちに近づいてくるような灯りと影が揺らいで見える。
優理は警戒しながら、じーっとそこを見つめる。
するとその穴の中から提灯を片手に持った少女が現れた。
向こうも警戒しているのだろうか? 辺りをきょろきょろと見回しながら、広間にやってくる。
その少女と目が合った・・・・・・。
すると突然!
その少女が優理の方にキラキラと目を輝かせながら駆け寄ってくる。
えっ、急に近づいてくる、ど、どうしよう・・・・・・。
「ご、ごめんなさい!」
優理は咄嗟に首をすくめて目をつぶり、そう声に出していた。
少女が優理の前で立ち止まり、一瞬首をかしげるが、お構いなく両手を広げる。
ムギュっ
「え?」
ふわっと香水のようなきついものではない、フローラルで自然な甘い良いにおいが漂う。
咄嗟のことに頭が追いつかない優理だったが、少しして自分の状況を理解し始める。
少女に抱きつかれている?
少女は少女なりに精一杯力強く両手を腰に回して、顔を胸に埋めながら優理に抱きつく。
この状況、客観的に見て大丈夫かな? なんて思っていた矢先、後ろで何かがボトっと落ちる音が聞こえた。
優理がゆっくりと後ろを振り向くと・・・・・・。
「な、な、なにしてんの・・・・・・・」
案の定そこには自然の恵を取り終え戻ってきたカレンの姿があった。
「ちっ、ちがう! これは・・・・・・その・・・・・・」
必死で弁明を試みようとするも言葉がでてこない。
「ち、ちちっちちちちちちがうってな、なな、なにが、ちがうの、かな・・・・・・」
カレンも壊れた機械みたいに口が回っておらず、明らかに動揺している。
その後もしどろもどろになりながら、訳の分からない単語を連発する二人にイリィが間に入り「お二人ともいったん落ち着いてください」と場を沈めた。
その間、少女はお構いなしに優理から離れなかった。
「で、その少女がいきなり抱きついてきたと」
ようやく落ち着いたところで、優理から事情を聞き入れたカレンは訝しげに言った。
二人の間できょとんと座っているその少女は、髪はそこまで長くなく、肩にかかる程度のみでぃあむへあに、サイドポニーテールが左側についていて、色は金髪よりも柔らかく、クリーム色に近い。身長は優理よりも頭一個分くらい小さい。膝が隠れるくらいの少し大きめの白いワンピースを着ていて、そこから伸びる手足はもっちりとした艶のある美白の肌。
世のロリコン男子ならたまらないであろう天使のような美少女が、優理に突然抱きついてきたのである。
にわかに信じがたいそれを、カレンは一応受け入れて話を進める。
「この子とは知り合いなのか?」
「いや、初めてここに来たんだから初対面に決まってるだろ」
初めてを強調しながら優理が答えると、なぜか少女は少し寂しそうな顔をする。
「初めてにしては慣れ慣れしすぎるんじゃないのか?」
少女は首を横にぶんぶんと振る。
「本当に初めてなんだって、ほら、扉の開け方も知らなかっただろ?」
「たしかに・・・・・・」
再び寂しそうな顔をする少女。
「あんたは記憶が無いから知らないだけで、本当はすごーく仲が良いのかもね」
今度は首を縦に振る少女。
「なんだよその言い方」
「知らない女の子とそういう行為するのは許せませんですの」
「そういう行為って・・・・・・」
やや呆れながら優理がつぶやくとイリィが口をはさんだ
「カレン様は男女の関係に少しばかり疎いのです・・・・・・」
「疎くありません!」
間髪入れずに言い返すあたり怪しさが増す。
「それはそうと私がカレン様とここに来たのが三回目になりますが、このような少女に出会ったのは初めてです」
「え、そうなの?」
てっきりこの大樹の主的な存在かと思っていたのに・・・・・・。イリィもカレンも知らないが何故か自分に懐いているこの少女は一体何者なのだろうか。
より正体の分からない少女を全員がじーっと見つめる。
「それにしてもこの子、しゃべらないな」
「言葉を知らないんじゃないか?」
「それはない、反応はしているから言葉は理解していると思う」
たしかに会話の最中に何度か話すタイミングはあったはずなのに、この少女は一言もしゃべらずに、顔の表情や仕草だけで受け答えしていた。
言葉の話せない少女や妙に当たりの強いハリネズミといい、この世界にきてから変に懐かれることが多いな・・・・・・と、ふと思った優理は突然おなかのポッケに手を突っ込むと血相を変える。
「い、いない・・・・・・」
「どうしたの」
カレンが不思議そうに顔をのぞき込む。
「ニュートンが居ないんだ! いつもポッケで寝てるのに」
「その辺にいるかもしれない、探そう」
優理とカレン、そしてイリィが慌ててニュートンを探す姿を見て、少女は楽しそうに笑っていた。
しばらく探したがニュートンはどこにも見当たらなかった。
「もしかしたらここに来る前に、セピア世界に置いてきてしまったかもしれませんし、もしここに居たとしてもいつかは見つかると思うので、今は諦めましょう」
冷静な判断でイリィが言う。
二人もそうするしかないといった具合で頷く。
「じゃあそろそろ戻ろうか」
「そうだな、ヒロキチ村長も待っていることだし」
カレンに続いて優理が口にした。
三人が大樹から出ようと歩き出した時、少女が寂しそうな顔で優理の袖を引っ張った。
「またくるからね、その時には君のことを思い出せるように頑張るから、待ってて」
優理はやさしく少女の頭をぽんぽんと撫でた。
少女はぱぁっと表情を輝かせ、頬を赤らめながら笑った。そして、
ちゅっ
かかとを上げて、背伸びしながら、その小さな唇で優理の頬にちっちゃくキスをした。
優理は驚き、キスされたところを手で触れる。
キスをし終わると恥ずかしかったのか駆け足で穴の方へと駆けていき、もう一度向き直って片腕を目一杯伸ばしてバイバイと手を振った。
優理もそれに応えるように手を振り返す。
またも嬉しそうにしながら上機嫌でスキップして少女が穴へと戻って行き、見えなくなったくらいで、優理の背後からカレンが腕をばたつかせながら口走る。
「なんなんですの! その甘いピンクの靄とキラキラが出てくる雰囲気。そんなことできるなんてあんた何者!!?」
慌ててカレンに向き直った優理は、恥ずかしくなって顔を赤くする。
「ち、ち、違う! 別にできるとかそういうんじゃなくて、手が勝手に・・・・・・」
優理は孤児院に居た頃の自分には到底あり得ないようなシチュエーションを、何も考えずにやっていたのだ。
再びわちゃわちゃしだしたので「私はしばらく消えますね」と呆れたように言ってイリィは姿を消した。
かくして始まった第一次『恋愛に疎い女VS無意識にキュン死させちゃう男』は自然の楽園を出るまで続いたが、決着はつかずに持ち越しとなった。
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