07 自然の楽園
優理の活躍いかがだったでしょうか?
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優理が目を覚ましたのは翌日の昼過ぎであった。
昨日の疲れもあってぐっすり寝むれたようだ。
んーーーっと声にならない声を出しながら腕を横に伸ばし広げると、右手に何かが当たった。
「ん?なんだろ」
半開きの目をこすりながらそっちの方を見ると、そこには赤くさらさらした長い髪の女の子が・・・・・・。
「えっ、えええぇぇ! なんでカレンが隣に・・・・・・」
隣で添い寝をするカレンに顔を赤らめながら優理が戸惑い叫ぶ。
どうやら同じベッドに運ばれてそのままにされたらしい。
この二日間の間に二度も目が覚めたら女の子が居る経験をしてしまった。何か罰があたるのではなかろうか・・・・・・。
「ん、んう・・・・・・」とカレンの寝言が聞こえる。
優理は思わずカレンの寝顔を見つめる。
出会ってからなんとなく強気で、ちょっと天然で、姉貴感のあったカレンも、寝ていると普通の女の子で美人だな・・・・・・。
「ようやくお目覚めですかな?」
そんなことを思っていたら急に村長が入ってきた。
別に何か悪いことをしたわけでも無いのだが、慌ててベッドの上で正座して村長の方を向く。
「そ、村長・・・・・・。すみません結構寝ていたみたいで」
「気にしないでいいよ、昨日は激しかったみたいですしね」
「あははは・・・・・・」
その言い方だと違う意味にも聞こえるが・・・・・・。でもまさか昨日の爆発を起こしたのが自分だとは、微塵も思ってはいないだろうな。
二人が会話していると、カレンがむくりと体を起こした。
「おはよう。いつの間にか寝ちゃってたんだ・・・・・・ってええ!なんで隣にあんたがいるのよ!!」
起きるなりそう叫ぶとカレンは足をばたつかせて優理にめがけてキック。
「ぐはっ」
見事に顔面にキックをくらった優理がベッドから転げ落ちる。
「あ、ごめん」
「ひ、ひどい」
そんな二人を見てヒロキチ村長は「若いっていいですな」と笑う。
村長の無駄で粋な計らいは顔面キックで幕を閉じた。
無事イレイザ率いる骸骨軍団を討伐したので、約束通り村長に自然の恵みを渡すこととなったのだが、
「どうして外にでる必要があるんだ?」
村長には家の中で待っててもらい、優理とカレンは村から離れた場所にいた。
「あの村長は恵のことになると我を忘れてしまうからな、これから起きることを見たら余計に騒ぎ立てるだろうから」
カレンは耳打ちで伝えた。
「これから異世界のゲートを開く、優理も私と一緒についてきてくれ」
「異世界のゲート?」
「名前の通りさ、まぁ口で説明するより実際に行った方が早い」
そう言うとカレンは、赤のティアを取り出し口にする。
「Lead Ceres」
するとカレンの体が蛍のように点々と輝く光に包まれだした。
「ほら優理もはやく」
目の前の光景にあっけらかんとする優理に手を差し出すカレン。
「わ、わかった・・・・・・Lead Ceres」
優理も急いでティアを取り出し、カレンの手を握りながらその言葉を口にする。
同じようにして、光に包まれた優理とカレンはその場から、セピア世界から姿を消した。
光の導きにより姿を消した二人が再び姿を現したのは自然の生い茂る緑の世界だった。
「着いたよ、ここが『自然の楽園』だ」
『自然の楽園』――ティアの精霊加護と同じく、セピア世界とは別の空間で、いわゆる神とか悪魔とかそういう類いが住むような幻想上の世界。堅い木のツルでできた柵に囲まれていて、見渡す限りに草木や花が見られる。広さは現代日本の皇居程で、外周約五キロ、徒歩だと一時間はかかる。そんな緑に囲まれた空間の中央には、地下深くまで無数の根をはりめぐらしていそうな、大樹が凜と構えている。またその大樹の周りは、現実では観たこと無いほど透き通った透明度の高い水が流れている。深さは一メートル五〇センチくらいあるが、覗けば色とりどりの魚たち、揺れる尾や波紋までもがはっきりと見える。
「どうかしたか?」
圧倒的自然な空間に見とれて立ち止まっているとカレンが声をかけてきた。
「いや、なんでもない大丈夫」
水路に架けられた大樹に続く橋を渡る優理とカレン、そしていつのまにか居たイリィは、その大樹のふもとについた。
大樹のふもとには、これもまた幻想的な模様をした大きな扉があり、何て読むか分からないが、きっと精霊語か神様語と思われる文字が刻まれている。
その年季の入った木の扉の前にきてカレンが振り返る。
「ここが自然の楽園の中心部。そしてこの扉の向こうで、私たちティアの所持者は盟約に基づいて自然の恵みを受け取れる」
「そういえば、前にもその盟約?ってのを聞いた気がするけど、何のこと?」
優理は始めてイリィに出会った時に耳にしたその言葉が気になっていた。
「それは私から説明いたしましょう」
イリィが丁寧に答える。
「『盟約』すなわち私たちティアの精霊加護とあなた方ティアの所持者との間における契約のことです。例えば今から行う自然の恵みの授与についてもこれが適用されます。一日に受け取れる恵の限度はどのくらいか。食料が良いのか、木材が良いのか、はたまた水がいいのか、といった具合です。そのほかにもカレン様が扱う【魔剣ヤヌス】こちらも私との『盟約』により授与されているものです。」
「ティアの所持者は用意された武器の中から一つを選ぶことができるの。私は刀がよかったからそれにしたけど、片手剣や斧なんかもあったわ」
「用意される武器もティアの特色によって変化します。また先ほどの自然の恵みの量や質、内容もティアごとに違いがあります。なので『盟約』といいましても一様に同じというわけではないのです。私とカレン様はお嬢様と執事という関係性も結んでいますからね」
イリィは少しわざとらしく言って、顔に似合わない笑顔で微笑んだ。
カレンはちょっと恥ずかしそうにしている。
「つまりティアごとにティアの精霊加護とティアの所持者の間で約束をするってことだよね」
優理がそう聞き返すとイリィは頷く。
「長々と説明しましたがその通りです。最も重要なのは自然の楽園で自然の恵みを受け取れるということですね。そのほかに関しては、人と人ならざるモノですので、互いの尊厳を傷つけない限りは大丈夫なのですが・・・・・・」
そう言いかけて口ごもるイリィ。
「そうじゃない関係も存在してしまっているってことですね」
「そうですね、でも優理様の場合心配はしなくてよさそうです」
またしても似合わぬ顔で、今度は真っ黒な歯までみせてニカッと笑うイリィであった。
「そろそろ中に入ろう」
「そうですね、カレン様。さぁ優理様も入りましょう」
優理は頷いて扉の方へ向き直る。改めて見るとかなり大きい。
通常の扉と言えば成人男性の身長の一.五倍~二倍程度であるのに対し、この扉は余裕で五倍ちかくあるんじゃないいだろうか?
すると優理はあることに気がつく。
この巨大な扉にはドアノブらしきモノが見当たらない。横にスライドするくぼみも無い。押しドアかな? と思って押してみてもびくともしなかった。
「何してるの優理?」
カレンはちょっと引いたようなジトーっとした目を優理に向ける。
「そんな目でみないで・・・・・・。この扉どうやってあけるんだ?」
「そんなの一つしかないよ」
ティアを取り出して優理に見せながらカレンが言った。
「なるほど、たしかにそう言われてみればそうか・・・・・・」
よく考えれば分かるかもしれないことだなと納得する。
カレンは取り出したティアを扉に近づけた。
すると、扉に描かれている波紋の溝を赤い筋が、ティアの部分からどんどんと広がっていく。まるで心臓から全身に送り出した血液が血管を巡っていくように。
全体に行き渡ると、ズドンと重くのしかかるような地響きが起き、同時に扉が太いツルのような婉曲を描いて四つに分かれ、回転しながら開いていく。
「おぉ・・・・・・これは凄い」
「さ、行こう」
カレンが優理を置いていくようにして先に中に入っていく。
優理も慌てて後に続いた




