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aラストティア ~荒野の楽園編~  作者: 蒼骨 渉
第ー???章 (プロローグ)
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第-???章 A LAST TERA

2020年11月13日更新。

再度編集する中でプロローグの役割をこの章に果たして貰うことにいたしました。

以前までの零章は再度描くかは検討中でございます。

新しく読み始めた方はこの章から読み進めて下さい。

 二つの影が長い傾斜道を下る。

 一つの影は大きく、人影にしては横幅が広い。もう一つはかなり小さく、俊敏に動き回っていた。


「ユグリ、あまり私の側を離れるでない」


 脇道の草花に興味を示してしゃがんだ丸い影に向かって大きな影が注意をするが反応は無い。しばらくしてようやく顔だけを振り向かせるも、


「お父様、この花は何て名前なのですか?」


 あくまでも興味は目の前に咲く花にあった。

 父はのんきな息子の様子にため息をついた後、足並みを揃えて、羽織るマントを地に着けないように翻し、膝を曲げた。


「ユグリ、この花はグラジオラスという名前の花だ。またの名を剣のユリとも言う。葉の形が剣に似ていることがその名の由来だ。ほら、ご覧なさい」


 父はそう解説してから、息子に見えやすいようにと、姿勢良く立ち並ぶグラジオラスの葉を我が子の前へと手繰り寄せる。少年は目の前の刀身みたいに鋭い葉をまじまじと見つめたり、手で触ったりしながら深く感嘆した。


「お父様、この白い花の葉は誠に剣のようです。お父様の鞘にもお収めできるのではないでしょうか?」


 子供の発想というのはいつも小説のように奇怪だ。特にこの子の場合は奇妙なまでにそうだった。なぜならまだ歳が三つにもならないというのに、王家を継ぐ者として多くの言葉や知識を習得させられているからだ。多くの物事に精通している者ほど発想が豊かになるのは当然の理であろう。

 だが、この時の父の心境は息子のユーモラスを滑稽だと笑えるものでは無かった。寧ろ反対だというのが正しく、


「白いグラジオラスの花・・・・・・か」


 目の前に凜と咲く剣の葉を持つ花を警戒に見つめていた。一輪につき二つから四つの葉をつけるグラジオラスの花は道沿いに、左右対称に咲き並び親子を囲う。その景色を美しいと感じるか、それともアイアン・メイデンの無数の刃に囲まれていると思うか――少なくとも彼は後者であっただろう。


「ユグリ、もう行くぞ」


 結局、父は息子に何の反応も返すこと無く立ち上がり、帰路に戻っていった。遠のいていく赤いマントに少年は手早く葉刀を一つ取ってから後を追った。

 それからしばらく、互いに言葉を交さないでいた二人だったが、急に前を行く父が歩を止めた。手に持った葉を振り回しながら後ろを歩いていた少年も同じく立ち止まり、訝し気に尋ねる。


「どうかしたのですかお父様?」


「ユグリ、こっちに来なさい」


 父は威厳のある背をみせつけたまま息子を呼んだ。ユグリは急いで駆け寄る。


「ユグリ、これが何か分かるか?」


 父はマントの内で腕を組みながら、辺りを俯瞰する。息子は父が言う「これ」が何を指すのかが分からなかったようで、首を捻り、


「お父様、これとはどれの事なのですか?」


「ユグリ、お前の質問が如何に愚問であるかを己で感じなかったか」


「・・・・・・申し訳ありません、お父様」


 父の表情こそ見えなかったが、声音だけで憤怒していることが分かった。息子は畏怖して下を向く。父は怯える息子など目も暮れずに続ける。


「お前は王族であるレイン家の跡取り息子なのだ。この国全土が見渡せるこの場で、王たる私が指すものは一つしか無いだろう」


「はっ、申し訳ありませんお父様。これというのはお父様が・・・・・いえ、失礼しました。七代目レイン王であるレイン=ユーグラッド=ギルヴァートが統治する神の胴体(アースラル)の事ですね」


 父に尻を叩かれたからか、先ほどよりも一層肩に力が入った状態で息子は言った。しかし父はまだ物足りないといった様子で息子を煽る。


神の胴体(アースラル)とは何か、申せ」


「はい、お父様。神の胴体(アースラル)とは我々人類が居住する世界であります。過去から現在に至るまで八つの国が存在しており、絶対的な権利を有する虹の国――レイン王国と他、虹を構成する七色――赤・橙・黄・緑・水・青・紫――の国で構成されています。各国にはティアと呼ばれる魔法の宝石とそのティアを扱える・・・・・・ええと、扱える・・・・・・王が居ます」


 最後は自身を無くして声が小さくなる少年。父は目線だけを落とし、視界の端で我が子を捉える。


「――――まあいいだろう。次回までに言えるようにしておきなさい」


 呆れたように深く息をついた。


「はい、お父様」


 再び俯く少年。しかし父は肩を落とす息子の気など何処吹く風いった様子で、


「ところで我が息子よ。どうだ、上から見る神の胴体(アースラル)は」


 眼下に広がる景色を俯瞰して息子に問う。少年は顔を上げて父の見る景色を眺める。そして一言、


「・・・・・・とても綺麗です」


 さっきまで威厳ある父に脅威を感じ心穏やかでなかった息子だったが、目の前の鮮やかな光景に思わず胸を膨らませた。

 その景色は在るところでは両足をしっかり伸ばした虹がかかり、また在るところでは轟々と流れる瀧が、またまた在るところでは清涼な森林が、同色異色のグラデーションで塗られた断層の岩壁が、円弧を散らす炎が、燦々と降り注ぐ太陽の光が――――それら自然という自然に満ち溢れた目前の世界はまるで豪華絢爛、七色に輝く遊園地のようだった。


「そうだ、綺麗だ。虹を含めた八つのティアの加護によって自然と共に生きるこの世界、私の治める神の胴体(アースラル)はこんなにも美しいのだ」


 誇りを抱えた胸を盛大に張って、七代目レイン王は自負した。八代目レイン王筆頭者は目も心も奪われたように、七代目の言葉を紡いでいた。


「はい、美しいです」


 それから何拍か置いて、七代目レイン王は鼻から肺に空気をふんだんに送り込み、口から吐いて、次の呼吸を施すと同時に言の葉を造った。


「レイン家は代々、虹のティアの守護者(ガーディアン)としてこの美しい世界を護り治めてきた。だから私も、そして私の跡を継ぐであろうお前も、またお前の将来の子も同じ道を步む。これは神による運命(さだめ)であると共に私達の義務でもある。

 ユグリ、いや、レイン=ユーグリット=ギルヴェルトよ。これから言うことは先祖代々レイン家に語り継がれてきた言葉だ。たとえどんな未来がこの先に待っていようとも決して忘れてはならない。脳の隅に、身体の細胞に、心の奥底に刻み込むんだ。いいな?」


 いつもに増して厳めしい表情の父に念を押された息子は、口の中の唾を全て飲み込むように喉を強く鳴らした。その覚悟を見取った父は伝える。


「例えこの身が果てようとも、血族が果てようとも、ティアの描く物語は未来永劫不滅である。なぜならティアに宿る想いがその行く先を永遠と照らし続けるから・・・・・・。つまりこれは終わりでは無く、続きの物語――――A LAST TEAR」


 この時たしかに、その言葉は息子に語り継がれ、物語の続きが描かれ始めた。

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