緊急事態宣言の配達⑤
「ホントに学生さん達は大変だな」
学校に通えない事が苦痛や不安になるなんて、社会人達にはまったく分からない体験である。
大震災とはまた違った出来事。
将来の影響は大きい事だろう。
誰しも、平等とは言えないけれどやってくるものだ。
「まだ遊んでいる姿を見られる分、マシかもしれんけど」
「なはははは、そのなんだ。確かに学力低下の不安はあれど、学力だけが全てじゃあるめぇー!今回の出来事で、俺達ドライバーやスーパーの店員みたいなのがちょいと明るみになったのは、良い事だぜ」
看護師や医師などを除けば。
いつもなら馬鹿にされてそうなお仕事であるそんな連中が、マスク付けつつ、見えないウィルスの中で仕事をしている。お前等の仕事なんざ、機械がやってりゃあいいという仕事なのに、この期間は文句と注文ばっかり。
「一生懸命に仕事をしてる奴が、一生懸命に生きていられるんだよ」
たまには良い事やるじゃない的なこと。
比べあっても仕方なく、自分の任された仕事を淡々とやれるのが良い。
「ところでよー、あのクレーマーのとこ。今回の騒動で仕事なくなったんだってよ(笑)。給付金寄越せだってよ。外出もしねぇのにマスク20箱くらい購入してるし、笑っちゃうぜ」
「あー。めっちゃ、気の毒には思えないな」
「学力も想像力のねぇクズ共とか言ってるくせに、こんな時にその高い学力と想像力を活かして、仕事できないのかねぇ?羨ましいなぁ、頭の良い奴はまったく仕事ができないんだから」
好きな事で好きな仕事ができるわけでもない。
好きでこーいう事に巻き込まれてるわけでもないから、俺達みたいなのが働いている。
極論かもしれないが、そーいう生き方である以上。辛いことにも向き合うべきだ。
落ち込むのはいいが、そのままでいると人間が死んでしまう。
「はぁ……はぁ……」
「ひぃ……ひぃ……」
特殊な状況下。
数年前からであるが、こちらの業務改革が始まっており、それに伴って現場にも変化がある。
やってくる荷物は確かに多い。
それに戸惑う連中の方が多く、今は不安との戦いにもなっている。
「お疲れ~」
「お疲れさまで~す……」
再配達の可能性は通常より大幅に減り、企業の自粛もあって、そこからやってくる荷物も大幅に減っている。確かに例のない荷物が大量ではあったが、その実。通常の業務と大差ないどころか、若干ではあるが通常よりも少ないと言える。
それでも現場が疲弊しているのは、酷い話しではあるが。配達員のレベルに格差があり過ぎるのだ。誰がやってもそれは同じでしょ?こんな誰にでもできる仕事に違いがある方がおかしいでしょ、って思う方がいて当然なのであるが。現場にいると、個人個人でかなり違うんだなって実感できる。
配達員の年齢は、ひとまず置いておくとして。
荷物の取り扱い、地域の情報や土地勘、その日の配達ルートの構築など。基礎体力と健康状態も大切ではあるが、考える事や技術というか基本というか。経験を積んでしっかりと身についている人達からすれば、今の現場は昔と比べたら遥かに楽であると言える。配る荷物が変わっても順応している。
一方で、経験不足や根性理論を提唱するような人達にとっては、悲しいが辛い環境だと言える。
「なんでこの仕事早く終わるんだ……あの人達」
「ぜってーズルしてる」
そう陰口で言われると、はい。そうです。って答えます。
危ない橋を毎日の如く、何食わぬ顔で歩いている連中が仕事をさっさと終わらせて帰る。ムダな作業というのがまだ現場にはあり、それが大切なのか?って聞くと。昔から~……という回答が多い。
初めて仕事をする人には、安全第一とミスをさせないという前程で。最近は指導を要求される。これは近年言われている、パワハラ防止のための指導なのだが。その優しい教え方にムダな作業もあり、その分上達が見込めない。ようするに、ズルいことや短縮するような事ができないし、教えられない。
荷物を正確に届けるというのが、我々の仕事ではある。しかし、その荷物の量が端から見ると膨大であり、その数を減らしてくれとも思うし、些細なミスで大きなクレームになる仕事でもある。石橋叩いてなんとやら、頭を下げて働かせていくのだが、
『パワハラ止めろ!!』
『こんな仕事辞める!』
『働きながら転職先見つけたんで、辞めます』
7割近くが2,3年で仕事を辞める。
人間関係もそうだし、悪天候でも普通に外へ。理不尽なクレーマーとも付き合う。会社でもどうしようもない問題はある。
ウチはホントに最近、不作です。
何が言いたいかというと、
「後継者が育てられないし、継ぐ奴も最近現れない」
そして、現場は疲弊していく。あんまり今の騒動は関係ない。元からである。
根本的な人手不足という問題を抱えつつ、さらに高齢となっていく配達員の後釜も現れて来ないのが問題。長いこと現場にいると労働力が欲しいというより、後継者がホントに欲しい。
辞める人にあまり引き留めをしなくなったのも、見込みがないし、そんなもんでしょって考えて放り出すことも増えた。
なぜなら
「まぁ、個人的には後継者が現れないで企業が回ればいいんだよな」
「誕生の仕方がヤバイからな」
「現場と企業の見方で言えば、欲しいんだけどな。人間として見たら止めて欲しいよな」
「少ない金で奴隷を使いたいのは企業の本音だし、金余ってるなら単純に奴隷を増やせってのが現場の本音だし。両方の意見をとると、有能な奴隷が欲しいんだよなぁ。奴隷の人権を語らないで言えばな」
そーいう後継者の100%は、現状で言われているパワハラの限度を超えていても、働き続けた結果、生まれているからである。
『フルタイムで1オペ勤務な。それと残業代はお前には出せない』
『親が死んだ?悪いけど、それくらいの出来事なら働け』
『今月、22連勤しかねぇーーー!!』
『昼飯なんてもうかれこれ、4年は食ってねぇよ』
全員、過度なパワハラを耐え抜いて、仕事をし続けたというか。生き抜くためにやってきた連中が価値観を変えるほど、そう成り果てた。道の途中で去っていく屍、壊れてしまった屍を見ながら、彼等は働いている。
4月中旬頃でしたか。とある記事のコメントで
【配達員は疲弊している!】
的なコメントが沢山書かれているのを見たのですが。現場が疲弊しているのって日常的なんですよね(笑)。コロナ騒動は特に関係ないです(泣)。むしろ、今回の件で明るみになって良かったのでは?という側面もあります。
人の数と質が足りてないのは、かなり昔からなんです。自分のところもそうでしたけど、5年前から4人も人が足りてないのに、4年後には6人足りなくなった(笑)とかあります。人数が減った分、サービスの改善とかやってる影響で最低限はやれてるんですけどね。人員削減って奴ですか。
最近、気付いたんですけど。
ホントに2,3年前に入ってくる方は新人や中途を含めて、ほとんど辞めてるんですね。
生き残ってるのは、4,5人。(戦力もビミョー)
一方で自分達と近い世代は10人以上も残って、頑張ってるところです(大半は現在の主力)。
話とかはしませんけど、ここらへんは東日本大震災って災害から5年ぐらいの間に入ってきた人達ですか。社会的にも転職して来た理由が、個人的な事じゃなくて企業的な理由もあったり。
自分のようにニートを経験している身としては、『これから仕事に就くのは大変そうだ。夢を追ったり、遊んでる場合じゃねぇ』って感じでした。仕事をすぐに投げ捨てできなかったり、転職なんて考えられませんでしたね。そこから仕事を探したんですが、めっちゃバイト落ちまくったのが心に残ります。競争率は高かった印象です。
今じゃ、免許持ってたら50代・60代でも即合格です。初日で辞めても構いませんとか、どんだけ差があるんだよって思います。
ただここ最近は、転職ブームが多かったせいか。
辛いから辞めるって人が圧倒的に多いですね。鬱っぽいからー、夢があるからー、ここより良い企業はあるだろうしー。という感じで、仕事や夢を軽ーく考えてるなぁって。ちょっと羨ましく思ってました。
インフラ関係って、大変だし同じことの繰り返しなので、飽きちゃう感じもあるんでしょうけど。
日常に慣れすぎると、こーいう事が有難いんだなって感じます。
仕事って学校で学ぶ期間よりも遥かに長く行う事なので、体力と技術は新卒や中途で変わってくることですが。結局は経験と適応する事が大事なんで、入社してくる人の初期ステータスなんてぶっちゃけ気にならないんですよね。石の上にも3年とかね。
この出来事で落ち込むのも当然っちゃ当然なんですが。
こーいう危機に直面して、変われる方もいるので。そーいう人達が運送に流れてくれたら、良いなーとか少し思ってますね(笑)。