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とある女傑と凡なる剣士の馴れ初め

作者: 久木佑真

「頭…無茶はせんで下せぇ」

 心配そうな部下を尻目に、彼女は不敵に笑んでみせる。

「なに、私が負ける理由などない」

 目の前には若い男がいる。名を、祐天寺宏之という。祐天寺宏之は既に鯉口を切っていた。どうやら刀は業物らしい。

 御纈神嘉弘もまた鯉口を切るべく、鞘の鍔元を掴んで反りを打たせた。取るに足らない相手を怖じ気づかせ、退散させようとしたのだ。無駄な斬り合いは好まない主義だけあって、腰に帯びた太刀の反りを裏返す身構えの迫力だけで脅したのだ。

 その脅しだけで済ませるつもりだったのだが、しかし相手は怯まない。むしろ、やる気満々だ。嘗められたと思ったらしい。

「ふむ、仕方ない。敗者は勝者に全てを委ねる事になるが、構わないな?」

「構わん、ようやく貴様をこの手で葬れるのだからな」

 数年前に父を斬り捨てた張本人を、この手で葬りたいがために剣一筋に生きてきたのだ。祐天寺宏之には死ぬ覚悟もある。この愚直さが、色んな組織に買われそうになった。しかし祐天寺宏之はそんなものには一度も目もくれず、全ての誘いを断り、ただひたすらに敵を討たんがために生きてきたのである。それも、わざわざ鳳凰帝国から密航してまで。

 どことなく暗い剣気を纏わせたまま、御纈神嘉弘は唐竹割りに出る。しかし逆袈裟斬りに出られ、寸での所で回避する。

 相手は裂帛の気合いを口から洩らしているが、御纈神嘉弘は違う。短く息を吐いたかと思えば、次の瞬間には刃と刃が噛み合う凄まじい音を放たせた。鉄の焼ける匂いを辺りに撒き散らす。

 御纈神嘉弘は祐天寺宏之との鍔迫り合いに持ち込むと、まるで餓狼のように斬り込む機を伺っていた。その鍔迫り合いにもすぐさま終止符を打ち、水もたまらず斬って捨てる。しかし、肝心の手応えを感じなかった。御纈神嘉弘は祐天寺宏之から少し距離を取り、青眼に構える。彼女は太刀先を僅かに浮沈させている。

 探り合いはすぐに終わった。

 沈黙を破ったのは祐天寺宏之だ。八双から袈裟斬りを放つ。しかし鋒と鋒が触れ合い、それは敢えなく阻止される。彼女の流れるような太刀筋に気圧されていると、いつの間にやら白く滑らかな生足が迫ってきていた。下段の構えから、容赦なく蹴りを入れられたのだ。。上体を不安定に揺らされ、祐天寺宏之は重心を崩す。

 そして勝負はあっさりついた。

 重心を崩した隙に、すかさず抜き打ちをかけられたのだ。それと同時に刀も弾かれてしまった。逆袈裟に斬られ、刀も手にはない。これまでか、と地を這わされた祐天寺宏之は思う。止めを刺されるのだ、と。

 しかし違った。彼女は懐紙でゆっくりと刀身を拭いて鞘に納めながら、地を這わされている祐天寺宏之を見やる。彼の目にはまだ闘志が僅かながらも残っていた。

「気に入った。私の夫になれ」

 どうやら死なせてもらえないらしい。しかも、つい先程まで斬り合いをしていた男を婿にしたいとは。実に奇妙な女である。

「…面妖な女だ」

「よく言われる」

 御纈神嘉弘は笑う。祐天寺宏之を抱き起こし、御纈神嘉弘は頬擦りをしてくる。

「…いかさま」

「む、失敬な。納得するとは酷いぞ」

 フッ、と祐天寺宏之は笑う。どうやら世間ずれした女らしい。箱入り娘か何かなのだろう。でなければ、婿にしたい、などとは普通ならば言わないはずだ。

「まぁ、何にせよ、私は強い男が好きだからな。それと、お前ほど相手になる奴もおらんのだ、良かろう?」

 瘧が落ちたように、祐天寺宏之の中からは憎悪の気は失せていた。

「では、明日にでも式を挙げようぞ」

「…俺の怪我はお構い無しか」

 どことなく子供っぽさを感じ、祐天寺宏之は呆れたように言う。しかし御纈神嘉弘はお構い無しである。

「なに、あと四ヶ月もすれば戦に付き合ってもらうのだぞ? 子も生まねばな。とびきり強い子を生まなくてはなるまい」

「戦だと? しかも子供? 気が早いぞ」

 祐天寺宏之は一つ一つの言葉を一度頭で反復してから、御纈神嘉弘に怪訝そうに問うた。すると御纈神嘉弘は頬擦りをしたまま、にっこりと微笑んで。

「うむ。我が国に住み着く不浄の輩を始末するのだそうだぞ。それから異国と戦うと言うのだ、腕がなるぞ!」

 無邪気すぎる。先ほどまでの気迫も、暗い剣気も、何も見受けられない。

 彼女の背後にいる男衆を見れば、彼らはいつもの事だというような顔を揃ってしている。そして、頬擦りをされたまま、祐天寺宏之は小さく溜め息を吐いた。

「………本当に俺の怪我はお構い無しか」

数年前に書いたものを庫出し。

スマホで書いてるので短いですが悪しからず。

二人がどうなるのかは作者としても少し気になるところではあったり。

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