一夜明けて
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学校から逃げ帰った僕たちは敵襲に身構えながら一日を過ごした。しかし予想していたことは起きず、一夜が明けた。
目を覚まして、時計を見やる。時刻は七時。桐生さんを保護した以上、学校にいく必要はないのだが……いつもの悪夢のせいでうなされて起きてしまったのだ。
歯磨きと洗面を済ませてから下の階へ降りると、朝食のいい匂いがしてきた。作っているのは愛梨彩だろう。
厨房を覗くとやはり彼女がいた。
「おはよう、愛梨彩」
「おはよう、太刀川くん。朝食もう少しでできるから待ってて」
「うぃーっす」
その足で僕はダイニングへと向かう。
「おっす、黎」
「おはよう、レイ」
「二人とも早いね……今日は学校いかないんだろ?」
ダイニングテーブルにはすでに緋色とフィーラが座っていた。
最初は僕と愛梨彩しかいなかった寂しい食卓であったが……今は屋敷に人が増えたおかげで賑やかになった。しかしそれでも余裕があるこのテーブル。一体どこで買ってきたのだろうか。
「そうなのよねぇ。残念」
フィーラはがっくりと倒れ、頬をテーブルにつけた。よほど日本の学校が……いや学食が気に入っていたらしい。
「ブルームもおはよう」
「ああ、おはよう」
緋色とフィーラから少し離れたところにブルームが座っていた。みんないつもの席に座っているようだ。
しかし桐生さんの姿が見当たらない。起きていないのか、食欲がないのか。
ふと、魔女になってからまともに食事ができてないと桐生さんが話していたのを思い出した。呼んで無理強いするのも違うだろう。とりあえず待ってみようか。
しばらくしてみんなで朝食をとり始める。ウィンナーにスクランブルエッグにパン。この屋敷の朝食はだいたい洋風だった。以前、緋色が「たまには魚と味噌汁の和食が食いてー」と言ったことがあったが、満場一致で却下されたっけ。
「ごちそうさま。桐生さん、やっぱり降りてこなかったわね」
「食欲ないんだろ。あんま無理して食べても……とは思うけど、食べないと動けないしなぁ。うーん」
愛梨彩に対して緋色が答える。
魔女が餓死することはないだろうけど、食事をしないと活力は漲らない。いざという時に動けない。
「ちょっと僕が様子見てくるよ」
このまま放っておくわけにもいかないだろう。本当に気づいてないだけならそれに越したことはないが……塞ぎこんでいるかもしれない。いきなり魔法とか魔女とか理解して受け入れろって方が無理難題だ。
「あと彼女の魔法について調べたいから、それも伝えておいて」
「了解。ごちそうさま」
皿に向かって合掌をしてから、席を立って二階へと向かう。桐生さんに貸したのはフィーラの隣の部屋だったっけか。
部屋を確認し、扉を二回ノックをする。
「桐生さん、起きてる?」
「……うん」
沈んだ声音だが、しっかりと返事が返ってくる。
「朝食できてるけど……食欲ある?」
「……ごめん。ない」
「そう……だよね。ごめん」
わかっていたことを改めて聞いて、罪悪感が生まれてくる。なんでこういう時に気の利いた言葉が出てこないのか。
「ううん。太刀川くんは悪くないよ」
そう言われると返す言葉がなおさらなくなってしまう。
しばし無言の時間が続く。心配してきたはずなのに思ったように言葉を紡げないのがもどかしい。
「ほかにも……なにかある? 朝ごはんの時に連絡事項とかあった?」
「あ、うん。愛梨彩が桐生さんの魔法について調べたいって。だから気が向いたら下に降りてきて欲しいんだ」
桐生さんに問われるがまま、愛梨彩からの伝言を伝える。「気が向いた時」なんて指定はなかったが、無理やり部屋から連れ出すのは気が引けた。
ついこの前まで一般人だった女の子が魔女になった。ここの生活を受け入れるのにも時間がかかるだろう。だからなるべく彼女のペースに合わせようと思った。
「……わかった」
「じゃ、また後で。一応朝食もとっとくからさ」
「うん」
その後、部屋から声が聞こえてくることはなかった。
彼女の力になれたのかはわからない。けど、今の自分にできることはこの程度なのだろう。僕はとぼとぼと再び一階へと戻っていった。
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