決裂のprelude——「夢」
続きはカクヨム(https://kakuyomu.jp/works/1177354054887291624)の方で先行して掲載されております。
興味のある方は是非そちらでも読んでみてください。
感想、レビューなどもお待ちしております!
夢を……見ていた。
少年がしゃがみこんで泣きべそをかいている。
少年がいるところは公園のような風景だが、その周りの背景は白く塗りつぶされている。まるでそのシーンだけ切り抜かれたようだった。
少年に寄ってくる黒い影が一つ。顔も姿もおぼろげ。だが、それが魔女だと……なぜか僕は知っていた。
「どうして泣いているの?」
魔女は少年に声をかける。哀れんでいるのか、心配しているのか。わからないが、優しい声音に感じた。
「どうして……魔女は殺さなきゃいけないの? 俺は魔女を殺したく……ないよ」
少年は咽びながらわけを話す。どうやら少年は魔術師の一族らしい。
「それはきっと正しいことよ。魔女なんていない方がいい」
「でも……それでも殺したくないよ。魔女にも生きて欲しい。人を殺すために……強くなりたくなんかないよ」
少年は魔女を見上げ、力強く反駁する。
純真無垢な少年に人殺しの責務は重過ぎたのだろう。だから逃げ出して泣いていた……という状況なのかもしれない。
「あなたは優しいのね。でも、世の中には悪い魔女がたくさんいるの。罪もない人々を躊躇いもなく殺せる悪い魔女が」
「そうなの?」
「そう。だからあなたは正しいことのために力を使えばいい。悪い魔女を殺すのは大切な誰かを守るため。そのために強くなればいい。あなたは誰かを守れる人間になって」
魔女が微笑みかける。その笑みを……僕はよく知っている気がする。つい最近にも見た気がする。誰かを想って笑む、柔らかな表情。
「わかったよ!」
少年はもう泣き止んでいた。疑問の答えを得たからだろう。
正しい力の使い方――守るために強くなる。少年が決意した瞬間だった。
だが、魔女はまだなにか言いたそうに少年を見つめていた。そして……魔女の口が再び開く。
「あなたにお願いがあるの。お姉ちゃんもね、いつか悪い魔女になるかもしれない。そうなる前に……あなたが私を殺してくれる?」
それは魔女のたった一つの望み。悪い魔女になる前に人間として死にたい。永遠という時間の牢獄からの解放を……魔女は求めたのだ。
「それでお姉ちゃんは幸せになるの?」
「ええ。だってそれが私の『願い』だから」
少年の純粋な疑問に答える魔女。その目は確かに笑っていた。死ぬことが幸せなんて……あんまりだ。けど、それは一般的な感性であって、魔女には通じない理屈だ。
それが少年にもわかったのだろう。彼はしっかりと頷いていた。
切り抜かれた映像が切り替わる。ここは夢の世界。何年もの時間が一瞬で過ぎたのだ。
少年は成長し、青年となった。やがて彼は……あの時の魔女と相対する。
――嫌な予感がした。
彼が魔女と対峙する理由は一つ。次に起きることは……容易に察することができる。
僕は声を荒げて「やめろ!」と叫ぶが、虚しく響くことすら叶わない。夢の舞台は観客の叫びに耳を傾けることなく進んでいく。
「俺は君を殺すため……そのために生きてきたんだ」
青年の剣が魔女の胸に貫いた。魔女は自ら剣を深く突き刺すように、彼に寄って抱き締める。あの時の笑顔同様優しく、暖かく包むような抱擁。
「これでいいの。あなたは間違っていない。ありがとう——」
手は褒めるように彼の頭を撫でていた。愛おしそうに、感謝するように。やがて魔女の口元が青年の耳と重なる。
「――太刀川くん」
魔女が呼んだ青年の名前。そう……青年は太刀川黎だった。
白い空間に黒点が落ちていく。やがてそこから鮮血が溢れ、地面を染め上げる。そこで初めて靄が晴れ、魔女の姿が鮮明に映った。自分が誰を殺したのか……ようやく気づいた。
――ああ。ああ!
声にもならない声が僕の内側で反響する。
僕が殺した魔女は――《《九条愛梨彩》》。自分が必死で守ろうとした主人を……自らの手で殺めたのだ。
――嘘だ! 嘘だ嘘だ嘘だ!!
僕は真っ白な空間から逃げ出す。視界はやがて暗くなり、その奥から強烈な光を感じた。それが出口と信じて、がむしゃらに駆けていく。
——こんな結末ありえない。
続きはカクヨム(https://kakuyomu.jp/works/1177354054887291624)の方で先行して掲載されております。
興味のある方は是非そちらでも読んでみてください。
感想、レビューなどもお待ちしております!




