魔術式を継承したのは誰か?
続きはカクヨム(https://kakuyomu.jp/works/1177354054887291624)の方で先行して掲載されております。
興味のある方は是非そちらでも読んでみてください。
感想、レビューなどもお待ちしております!
「アザレアと直接対決したそうですね」
静寂を破り、先に話題を提供してきたのはハワードの方だった。聞きたくてうずうずしていたようにすら感じた。
「ええ……正直逃げるので精一杯だったけど」
「やはり戦力の拡充が不可欠ではないですか?」
そう言うハワードは真剣な面差しだ。戦力補充……と言われて思いつくのはもう一人の野良の魔女。
「綾芽とは組まないわよ?」
「それは承知しております。ですから別の魔女を」
「別の魔女!? また教会が把握してない野良の魔女が争奪戦に参加しようとしているのか!?」
声を荒げ、前のめりにテーブルへと乗り出す。
仰天せざるを得なかった。この上まだ魔女が増えるのか。ただでさえアザレアと綾芽で手一杯なのに。
「いえ……そういうことではないのですが」
「なにか事情があるのね? 話してちょうだい」
新しく増えた魔女なのに……未知の魔女ではない? 言ってる意味がわからない。とにかく話を聞くしかないようだ。
「八月の上旬ごろでしょうか……成石学園駅前で不審死が起きましてね。凶器は不明、殺した人間の特定すらままならない状態。教会は魔女の仕業なのではないかと睨んでいるのです」
「確かに……この街で不審死が起きれば十中八九魔女関連のものでしょうね。凶器が見当たらないのも魔法なら説明がつくし。綾芽の傀儡によるものではないの?」
愛梨彩は表情を変えず、淡々と喋る。
不審死なら魔女の仕業かもしれないと思うのは理解できる。だが、それは既存の魔女——綾芽がやった可能性の方が大きいだろう。
「昼時で人も多い時間だったそうです。もし綾芽の傀儡だった場合、無差別殺戮をしていたでしょう。そんな場所で傀儡が暴れれば目撃情報が上がりますし、学生ただ一人を狙って殺すとは考えられない」
「被害者は学生だったのか?」
「ええ。成石学園高校二年、友田礼央という生徒だったそうです」
言葉を失い、全身から血の気が引いていくのがわかった。友田礼央は——僕らのクラスメイトだ。あまり印象のいいやつではなかったが……だからと言って魔女の争いに巻きこまれて殺されていいわけがない。
「どうして魔女が学生を狙うんだよ!?」
わからない。どうして魔女が学生を狙うのかが。綾芽のような猟奇的な魔女がほかにもいるって言うのか。
僕の憤りには誰も答えず、しばし沈黙が流れる。当然か……誰も魔女の狂気は理解できないのだから。
「実は……サラサの魔術式が継承されたようなのです」
申し辛そうなか細い声が部屋に鳴りはためいた。サラサの魔術式が継承されていた……だって?
「なんですって!?」
「報告が遅れて申しわけありません。魔女はどんな形であれ、魔術式を残す……そのことを失念していました」
「けどサラサには特定のスレイヴはいなかったでしょう? 死体である百合音は論外だし……」
最悪な予感がする。どんな形でも自分の魔法を後世に伝える……そう、魔術式が残れば後のことは度外視でいい。僕はそのすべをさっき知ってしまった。
「高石教会の戦闘で瀕死の重傷を負った彼女が継承するとすればそれは——」
「この街の無関係な市民ってことかよ」
継承は……継承者の魔力の有無など関係なしに魔女にする方法だ。となれば、誰でも魔女になれる。この街にいる人間なら誰でもその可能性がある……ということか。
「その通りです。事件の被害者から推察すると、もしかしたら学生に継承された可能性があるのです。無差別に人を殺すならもう少し人気のない時間にするでしょうし」
「魔女になった学生が私怨で殺した……か」
友田が感じのいいやつじゃなかったことを考えるとありえそうな話だった。同じ学生から恨みを買った結果殺された……と考えると辻褄は合う。
「ことのあらましはわかったわ。要するに学校でサラサの魔術式を継承した生徒を探して、仲間に加えろ……ってことかしら?」
「はい。おっしゃる通りです」
愛梨彩は返答の代わりに息衝くだけだった。
彼女の気苦労も理解できる。現状の打開策が身元不明の魔女の確保だなんて。しかもそいつの魔術式はサラサの——死霊魔法。放っておくわけにはいかない。
重く閉ざされた愛梨彩の口が再び開く。
「人殺しをしている魔女を仲間に加えるのは気乗りしないけれど……サラサの魔術式が教会に渡るのはもっと面倒ね」
「学園にいる間はほかの魔女も手出しはしてこないはずです。現状を打開する最善の策だと思いますが」
「……わかったわ。どのみち教会に手は出せないし、できる対処はこれ以上教会の戦力を増やさないことでしょうね。夏休み明け——二学期の開始と同時に再び学校へいきます。それでいい?」
彼女の言葉を聞き、ハワードは満足げな笑みを浮かべる。
「ええ、もちろんでございます。また細かな情報が揃い次第連絡しにきます」
そうしてハワードは客間を去っていく。心なしかいつにもなく上機嫌に見えたのは……気のせいか。
いつものように部屋に取り残されたのは僕たち二人だけ。
「学園に魔女か。嫌な予感がするな」
「あの学園は……争奪戦から避けられないのよ」
愛梨彩が意味ありげにそう呟いた。
「どういう意味?」
「今度話すわ。さて……勉強でもしましょうか」
「え? 今から!?」
手をこまねいている状況で、なにもできないわけだが……だからって勉強するのはどうなのか。いや、学生の本分は勉強だけれども。
「学園にいくなら学生としてでしょう? 成績が悪いから呼び出し……みたいなことになるのは嫌だから。余計なことで手間取りたくないのよ」
「すでに出席日数が……」
「……いいから! 潜入するための準備するわよ!」
「あ、はい」
なんだかんだで彼女の勢いに押し負けてしまう僕。まあ、好きな子との勉強会といえば聞こえはいいか。
先を歩いている愛梨彩の姿を目で追いかける。いつも着ている黒のセーラー服がやけに目立って見えた気がした。
——そういえば彼女はなんでわざわざ高校になんて通っていたのだろう?
ふと、そんな疑問が浮かんだ。以前から疑問に思っていたのだが……ずっと戦い続きだったから聞く暇がなかった。
この疑問も学校にいけば解決するのだろうか。
続きはカクヨム(https://kakuyomu.jp/works/1177354054887291624)の方で先行して掲載されております。
興味のある方は是非そちらでも読んでみてください。
感想、レビューなどもお待ちしております!