仮面ライアー/インターリュード
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*interlude*
私は独りで魔導教会を訪れていた。指定されたのは高石教会の礼拝堂。私だけを呼びつけるには大仰な場所だ。
「待っていたぞ、仮面の魔女よ」
礼拝堂に入ると、壇上のアザレア・フィフスターが私に向かって喋りかける。その横にはソーマを侍らせていた。
「おやおや……まさか創始者からの呼びつけだったとは。よほど重要なことのようだね」
教会側の人間は二人だけ。アインも咲久来も外で待機しているようだ。この会合の内容はどうやら極秘裏にしたいらしい。
「食えぬやつだな。《《ブルーム・ブロッサム》》を名乗るものはみなそうなのか?」
「へえ……やはり魔導教会の長は知っていたか」
「無論だとも。時間魔法の家系を見逃すわけがなかろう」
ブルーム・B——私が名乗った名前の真の意味。その名前を知っているということはブルームの家系についても知っているのだろう。
「私を呼び出したのは……正体を問い質すためか」
「ああ、そうだ。そなたは何者だ? 《《ブルーム・ブロッサム》》ではないな?」
アザレアの目がまっすぐ私を見る。しかし、私から語る言葉はない。
「だんまりか……よい。ならばこちらから語らせていただこう」
アザレアはことのあらましを語る準備をするように一呼吸置く。黙秘しても無意味……ということらしい。
「我が騎士から経歴不明の魔女がいると聞いてな。諜報部に調べさせた。ブルーム・ブロッサム……時間魔法の家系であり、現在の継承者は五代目。まだ歴の浅い家系であるため、充分に時間魔法が行使できない。だからそなたは戦闘時に時間魔法を使わない。そういう筋書きだな?」
——筋書き。とは含蓄のある言葉だ。
ブルーム・ブロッサムは生まれて間もない家系だ。だからブルームの魔術式では実戦レベルの魔法は使えない。
「事実だけを端的に伝えよう。ブルーム・ブロッサム・フィフス——本物のブルームは今もアメリカで魔術式の研究を行っていた」
王手……をかけられてしまった。どうやら本当に全て調べ上げて、外堀を埋めてきたようだ。
私が魔法を行使しないわけ。アメリカにいる本物のブルームの存在。……残るピースは「私が本当は誰なのか?』だけのようだ。
「ブルームは賢者の石どころか秋葉の争奪戦のことも知らなかった。興味すらなかった」
「だろうね」
黙秘しても仕方ないと悟る。いや……ここまでは想定内だ。私が身分を偽っていることは遅かれ早かれ判明することだった。
「やつが参戦してこないとわかった上でそなたはブルームという仮面を被った……魔法を意図的に使用しないことでブルームという役を全うしようとした。そういうことだな?」
「その通りだとも……私はブルーム・ブロッサム・フィフスじゃない。ブルームの当主はこの戦いに絶対参加しない。だから私が代わってブルーム・ブロッサムとしてこの争奪戦に参加した」
「認めるとはな。どうりで時間魔法を使わぬ……いや《《使えぬ》》わけだ」
認めざるを得ない。私はブルーム・ブロッサム・フィフスではないのだと。
彼女の言う通り、本来のブルームは今もアメリカにいる。こんな僻地での魔法大会に参加するよりも、自身の魔術式を解析した方が何倍も有益な時間になるからだ。
そして……私が仮面の魔女を演じる上で、魔法の行使は正体の露呈に繋がる。だから今までの戦いで魔術は使用しなかった。
「もう一度聞く。そなたは何者だ? なぜ他人の名前を騙る? 我々だけでなく野良の魔女まで騙してなにが目的だ?」
「教えるわけないだろう?」
私はブルームの当主ではない。紛れもない事実だ。だが判明したのは《《私がブルームの当主に成り代わっていること》》だけ。私の正体の核心にまでは至っていない。
ならば教える義理なんてないだろう?
「ふっ……強情なのも考えものだな。ここは敵地であるぞ?」
アザレアとソーマの敵意が剥き出しとなる。彼女らの目は私を敵対者として捉えていた。
ここでアザレアとソーマを相手にする……のはあまり得策ではない。魔法を無闇に使えないという制約は未だに残っている。一回でも使えば、教会の連中に私の正体を特定されてしまうだろう。
であらば——駆け引きといこうか。私はまだとっておきのカードを出していない。
「騙しているのは君たちの方だろう? 賢者の石なんて大そうなものを持ち出して。その実態は——」
「なぜそれを!? お前……まさか教会側の人間か!?」
声を荒げたのはアザレアではなく、ソーマの方だった。
驚くのも無理はない。彼らが知られたくない情報を知ったが故に、私はこの争奪戦に参加したのだから。
「まあ、そういうことになるだろうね。ともかく話はこれまでだ。私はこの賢者の石争奪戦を崩壊させることだってできるんだ。忘れないでくれよ?」
「このまま黙って返すと思うか?」
ソーマが静かに剣を抜く。
「賢者の石の秘密について知るものは生かしておけぬ。なによりいつまでも素性のわからぬ魔女がいるのは虫の居所が悪い。そなたの仮面……ここで剥いでやろう」
「やはりこうなるのか……仕方ないな」
真実を知ったものをただでは帰さない……どうやら駆け引きは失敗のようだ。
意を決して、背負っていたクロススラッシャーを抜く。状況は二対一と最悪だが……ここで死ぬつもりは毛頭ない。
屋敷を出立する直前に私を心配してくれた彼の姿が脳裏を過る。
私はみんなに嘘をつき、素性を隠している仮面の魔女。どんな理由があれ、それは否定できないことだ。疑われても仕方がないことだ。
けれど、彼は——黎はそれでも私を仲間だと信じてくれた。こんな胡散臭い私を心配してくれた。今まで積み重ねてきた時間こそが私への信頼だと……そう言ってくれたのだ
ならば私は生きて帰らなくちゃいけない。嘘を貫き通してでも守りたい、大切な仲間が帰りを待ってくれているのだから。
*interlude out*
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