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ゼロの魔女騎士《ウィッチナイト》  作者: 鴨志田千紘
第2章 魔女は己が欲《エゴ》のために踊る
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利用

続きはカクヨム(https://kakuyomu.jp/works/1177354054887291624)の方で先行して掲載されております。

興味のある方は是非そちらでも読んでみてください。

感想、レビューなどもお待ちしております!


 その後僕らは善空寺から撤退し、全員で八神教会へと向かった。

 着いた時にはすでに八神教会の被害は最小限で収まっていた。現地に魔術師ウィザードである咲久来のお父さんのが幸いだった。安堵した咲久来がお父さんに抱きついていたのが印象深かった。


 綾芽の木偶人形が襲撃した時、咲久来のお父さんは炎魔法で迎撃したらしい。その時に発生した煙がフィーラたちの目に届いたようだ。

 その後八神教会に到着したフィーラと緋色と共闘し、撃退。周囲の住宅への被害もなく、当然僕の家も被害はなかった。

 討伐班としてほかの場所を見回っていたブルームによると、八神教会以外に傀儡が一斉蜂起したところはなかったそうだ。完全に八神教会だけを狙った襲撃だったらしい。

 愛梨彩の分析によると


「おそらく私たちを撤退させて窮地から脱しようとしたんでしょう。八神教会を狙ったのは相手が教会の娘だとわかっていたから。教会を攻撃すれば撤退せざるを得なくなる。相手の精神を揺さぶって、感情を弄んだ……ってところかしら」


 ということらしい。

 だが僕には窮地に見えなかった。戦っていたのは貴利江一人で、綾芽は見ているだけだった。まるでこちらを見下して舐め腐っているようだった。だから最初から教会の襲撃が狙いだったのだろう。


 そして——それが五日前の話である。


 リビングに集まった僕たち五人の空気は沈んだままだった。ブルーム以外の僕含む四人はソファに座ったまま俯いている。


「どうすっかねえ」


 沈黙を切り裂くように緋色がぼやいた。

 毎日、嫌がらせのように傀儡が一般人を襲う事件が起きている。落ち着く気配はなく、対策もない。

 僕たちは元凶である綾芽を殺すことができない。『綾芽が死ねば傀儡が秋葉全域を襲う』という悲劇の引き金を引くことができないのだ。


「ブラフという可能性もあるけど……これだけ頻繁に襲撃しているとなるとその可能性は低いのだわ」


 緋色の隣に座っていたフィーラが呟く。

 綾芽が嘘をついたという可能性は何度も考えた。しかし、その度に彼女なら本当にやり兼ねないという結論に至る。


「やっぱり……しらみ潰ししかないか」


 そう言う僕の声のトーンはあからさまに低かった。

 ここ数日対策を考えていたが、一番の解決策がしらみ潰しに傀儡を倒すことだった。だが、それは僕たち野良の魔女では手が足りない。結局、今までのようにシフトで当番制にするしかないのだ。


「だとしたら奥の手を使うしかないだろうね」

「魔導教会ね」


 愛梨彩の言葉にブルームが深く頷いた。


「教会もこの事態は重く考えているはずだ。なにせ魔法が人目に触れてしまっているんだからね。そして、皮肉なことに物量押しが得意だったサラサはもうこの世にはいない。彼らだって猫の手も借りたいくらいだろうさ」


 ブルームの言うことは最もだった。この場にいる全員がそれが最善だとわかっている。


 けれど誰一人、すぐには首を縦に振れなかった。


 アインと咲久来とはその場限りの共闘をした。でも、魔導教会と共同戦線を張るのはまた違うように感じたのだ。組織と個人の差……とでも言えばいいのだろうか。教会の理念を飲むことができない僕たちはそこで躊躇ってしまっているのだろう。

 主義か……人の命か。比べてしまうとどっちが重要かなんて一目瞭然だが、それは一時的な観点だ。教会はこの先より多くの人間を不幸にするかもしれない。短期間とはいえ、そんな人間たちに手を貸すのは不本意だ。

 犠牲なくして対価は得られない。「多いか少ないかの差で犠牲を語るな」というソーマの言葉が呪詛のように頭から離れなくなる。

 なにを選んでも犠牲は少なからず出る。僕にできるのは自分の手が届く範囲にいる人を守ることだけ。

 充分、わかっている。正義の執行者にはなれないんだってことも痛いくらいに。


 ——それでも僕は。


「手を組もう……教会と」

「太刀川くん……」

「確かに教会の目的は許せないよ。絶対にこの先に倒す相手だ。でも……教会だって当面の敵は綾芽のはずだ。そこは間違いないと僕も思う。だから利用してやろう」


 教会とは相容れない。けど犠牲はやはり少なくしたい。無力な僕だけど、できる限り手を伸ばしたい。

 なら可能な限りどちらも取れる手段を選べばいい。使えるものはなんだって利用してやればいいんだ。


「利用……ね。面白い考え方なのだわ」

「だな。最善の手がわかってるのにやらねーのはちょっと違うもんな」


 共闘なんて生易しい言葉では納得できなかったのだろう。フィーラと緋色は僕の言葉に理解を示してくれた。


「これじゃ私が否定しても意味ないわね」

「否定する気なんてさらさらなかったくせに」

「そ、それは……」


 視線を逸らし、きまりが悪そうに愛梨彩がフィーラに言葉を返す。


「決まりだね。そうとなれば向かう場所は一つだ」


 ブルームの言う通りだ。向かうべき場所は——高石教会。

 頭は下げない、平伏しない。これは協力願いなんかじゃない。僕たちは『取引』をしにいくのだ。


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