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ゼロの魔女騎士《ウィッチナイト》  作者: 鴨志田千紘
第2章 魔女は己が欲《エゴ》のために踊る
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街が泣いている

続きはカクヨム(https://kakuyomu.jp/works/1177354054887291624)の方で先行して掲載されております。

興味のある方は是非そちらでも読んでみてください。

感想、レビューなどもお待ちしております!

 雨降りしきる夜の繁華街。その路地裏に木偶人形たちがうじゃうじゃと跋扈していた。

 魔札スペルカードを手に取り、剣を構える。場所が場所なだけに『進みゆく意思の炎刃(ソニック・ストライク)』で一掃することはできない。


「こんなところでごちゃごちゃと!」


 一体一体、青黒い炎を纏った剣を使って撃破していく。サラサのスケルトンほどではないが、動きは単調で緩やかだ。伏兵でもいない限り、窮地に陥ることはないだろう。


「これで終わりだ!」


 最後の一体を上下で真っ二つにする。倒れた木偶人形は水たまりの水を跳ねさせることもなく、瞬時に霧散して跡形も残らなかった。周囲にあるのはずぶ濡れになった中年男性の——死体だ。


「これで六人目だ……」


 この一週間で救えなかった無辜の人たちの数だった。

 綾芽が現れてから木偶人形による怪事件が多発していた。この事件は魔術を表立って行使しており、SNSでも噂されるレベルだった。そんな事件を対処すべく、僕たちは秋葉市内をくまなく走り回っていた。

 だが、僕たちは人形の襲撃を察知することができない。到着はいつも襲われた後だった。SNSなどの目撃情報だけでは先読みして動くことができず、後手に回らざるを得なかった。


「くそ……!」


 拳を握る力が自ずと強まる。無力な自分に嫌気が差した。


「こっちは片づいたようね。……太刀川くん?」


 呼ばれて振り返ると黒いフードを被った女がいた。愛梨彩だ。彼女はほかの場所で木偶人形を討伐していた。どうやら一仕事終えてこちらにきたようだった。


「ごめん。ちょっとぼーっとしてた」


 そう言う声音は自覚できるほど低かった。


「助けられなかったのは残念だったけど……あなたはよくやっているわ。太刀川くんがここで綾芽の人形を倒さなかったらもっと被害が広がっていたでしょうし」

「けど……」


 俯いてアスファルトに視線を移す。水たまりには延々と雨粒の波紋が広がっていた。

 頭ではわかっている。僕たちの誰も悪くない。最善を尽くしている。悪いのは元凶である綾芽だ。けど、救えたかもしれないと考えるとどうしてもやる瀬なくなってしまうのだ。


「なんでこんなことするんだよ……あの魔女は」

「案外理由なんてないのかも。言ってたでしょ? 命のやり取りをしている瞬間に生を感じるって。ただ楽しいからやっている。それだけなのかもしれないわ」

「それだけって……」

「魔女は長生きすればするほど常軌を逸していくわ。彼女たちに私たちの常識は通じない。だから考えるだけ無駄……私たちにはきっと理解できないわ」


 愛梨彩の言っていることは最もらしく聞こえた。人の命を弄ぶことに「楽しいから」という非常識な理由以外はいらないのかもしれない。相手が狂った魔女である以上、理解はできないのだろう。


「もっと僕に力があ——って痛!! なにするんだよ!?」


 一人気落ちしていると僕の足にナイジェルが噛みついていた。雨ざらしになりながら、僕を睨んでいた。

 街の異変の偵察は彼の仕事だった。今回はナイジェルに場所を教えてもらったわけで……いわばパートナーだったのだがなぜか噛みつかれた。


「気落ちするなって言ってるのよ」

「随分と厳しいお犬様だね」


 自然と頰が緩んだ。噛まれてネガティブムードが崩されてしまったからだろう。そう考えると僕はナイジェルに救われたのかもしれない。


「新戸方面の目撃情報はもうないわね。あとは成石地域だけど……あっちはフィーラの管轄だし」


 愛梨彩がスマホをスクロールしていた。おそらくSNSの情報を洗っているのだろう。この魔女、意外と順応能力は高いようである。


「そうだね。じゃ、帰ろうか」


 と口にした矢先、ズボンのポケットに振動が走った。フィーラからの電話だ。僕は通話ボタンを押し、スピーカー音声に切り替える。


「あ、レイ? そっちはどうかしら。順調?」

「今、ちょうど最後の木偶人形を倒したところよ」


 僕に答える隙を与えず、代わりに愛梨彩が答える。


「あ、アリサもいるのね。ちょうどいいのだわ。二人ともすぐ戻ってきて。

「どうかしたの?」

「傀儡退治を終えて屋敷に戻ったらハワードがいてね。どうも話があるみたいなの。おそらくアヤメ関連のことだと思う」


 教会がマークしていなかった謎の野良の魔女、二宮綾芽。素性は一切謎。わかるのは誰よりも狂気を孕んだ魔女だということ。じゃなきゃこんな凶行に及ぶわけがない。

 ハワードにはこの一週間教会内で色々と調査してもらっていた。加えて瀕死の重傷を追ったサラサの行方のこともある。その結果報告をしにきたのだろう。


「そういうことならすぐ戻るわ」

「じゃあまた後で、フィーラ」


 そう言ってスマホの通話ボタンを切り、僕たちはその場から駆け出した。

 雨に湿らされた、平穏だった街を駆け抜ける。この雨はきっと誰かの涙だ。なんの前触れもなく大切な人を葬られた人たちの涙。

 こんな凶行を許すわけにはいかない。涙は誰かが拭わなきゃ。


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