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ゼロの魔女騎士《ウィッチナイト》  作者: 鴨志田千紘
第2章 魔女は己が欲《エゴ》のために踊る
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VSヒーロー

 静寂の中、僕らの視線がぶつかり合い、火花を散らす。


「へぇ、それが新しい武器か。カッコいいじゃん」

「でしょ? 悪いけど使うの初めてだから加減はできないよ?」

「お前とガチで戦うのは部活以来だな。こっちも手加減はしないぜ?」

「望むところだと言わせてもらうよ」


 これは模擬戦。されど戦いである以上、負けるつもりはない。テニスの試合では幾度となく負け越してきた相手だが、こと魔術戦においては僕の方に一日の長がある。

 主人ありさのためにも負けれない。意識が『俺』へと移り変わる。


「二人とも準備はいいみたいだね。ではルールを決めようか」ブルームが俺たちの間に立つ。「今回の模擬戦の目的はアーサソールと『限界なき意思の剣ストライク・バスタード』の慣熟訓練だ。よって戦うのは愛梨彩、フィーラのスレイヴのみ。今回は魔女によるスレイヴへの指示は極力控えてもらおうか。戦闘時の判断力を養うためにね。あとは……そうだな、本気でやり過ぎないように」

「おいおい、漢同士の戦いだぜ? こういうのは本気じゃないと、なあ?」


 ブルームの忠告に早速茶々を入れたのは緋色だった。俺は否定も肯定もせず、苦笑いを浮かべる。

 本気でやり過ぎるな……か。開始前からお互い火花をバチバチと飛ばしあっていた分、難しい忠告だ。


「君がそういう性格だと思ったから釘を刺したんだよ。我々の目下の相手は魔導教会だ。全力で戦って疲弊してもらっては困るってわけさ」

「ヒイロ。彼女の言う通りなのだわ。今は私とアリサの因縁とか関係ないから。あなたはヒーローになるんでしょ?」

「うーん。それもそうか。世界を救うための特訓だもんな」


 二人の魔女に諭された緋色はすんなり納得した。考えが柔軟というか意外と流されやすいというか……そこが彼の魅力でもあるのだが。


「まあ最悪の場合、審判の私が止めに入るよ。それでは——」ブルームがゆっくりと後方へ下がる。「模擬戦、開始!」

「はあ!」

「オラぁ!!」


 開戦の合図とともに俺と緋色の武器が交差し、ぶつかり合う! 力は互角。『限界なき意思の剣ストライク・バスタード』は重量のあるミョルニルに引けを取ってはいない!

 剣と戦鎚は衝突し合い、鍔迫り合い、離れ合う。


「今よ、太刀川くん。剣圧による攻撃を試して」

「この距離なら!」剣が俺の意思と共鳴し、魔力の刃を形成する。「『進みゆく意思の炎刃(ソニック・ストライク)』!!」


 剣を両手で横一文字に振り抜き、魔力の刃を飛ばす。刃はアーサソールと衝突し、爆風が巻き起こる。


「どうだ!?」

「へへ、これくらい全然効かないぜ」


 緋色はまるでなにごともなかったかのように敢然と立っていた。流石に魔力を飛ばしただけでは傷一つつけられないか。


「試す必要あんだろ、黎。もっとその技ぶつけてこい!」

「お言葉に甘えさせてもらう!!」


 俺はその場で剣を滅多斬りするように振るう。幾重にも魔力の刃が重なり、アーサソールへと向かっていく!

 だが、そのどれもが戦鎚によって砕かれてしまう。


「どうよ、俺のスーパーモード!!」

「スーパーモードじゃなくて『昇華魔法:緋閃の雷神エボリューション・アーサソール』なのだわ!!」

「難しくて覚えられねーわ」


 緋色たちは戦闘中なのに和やかなやりとりをしている。この程度余裕綽々といったところか。


「痴話喧嘩……かしら?」

「仲が良好なようでなによりだよ、全く」


 愛梨彩のつぶやきに呆れて返す。

 とは言っても今は喜んでられる状況じゃない。まさかここまでフィーラの昇華魔法をものにしているとは思わなかった。


 ——今の失敗でわかったことは二つ。


 一つはミョルニルのような大きい得物を持つ相手には『進みゆく意思の炎刃(ソニック・ストライク)』を砕かれてしまうこと。

 もう一つは『進みゆく意思の炎刃(ソニック・ストライク)』は五回使っただけで魔力をかなり消耗することだ。

 つまり『進みゆく意思の炎刃(ソニック・ストライク)』を使う時の選択肢は相手の意表を突くか、相手の魔法と撃ち合うかの二択だ。この前打ち勝てなかったサラサの砂嵐には有効な一打になるだろう。


「じゃ、今度はこっちが攻撃の番だな。サンダーハンマーで捻り潰してやるぜ!」

「サンダーハンマーじゃなくてそれはミョルニル!!」

「ミョル……なんだって?」

「あー! もう!! サンダーハンマーでいいわよ!!」


 本気でやり過ぎるなとは言われたが、ここまで緊張感がないのは……正直やりにくい。なんか相手のペースに流されている気がする。

 だが、戦鎚を構えた緋色の目は本気だ。俺にはわかる。

 緋色はいつもあんなふうにおどけてみせるが、やる時はやる男なのだ。試合直前までおちゃらけた振る舞いをしていたにもかかわらず、いざ試合となると本気の目に変わる。そんな彼の姿を俺は何度も見てきた。


 ——先ほどの比にならないくらいの打ち合いになる。


 そう覚悟を決めた俺は剣に魔力を帯びさせる。もう一つの新技を見せる時だ。


「『限界なき意思の剣ストライク・バスタード』——注力開始アクティブ・スタート


 再び刀身が青黒く輝き出す。『オーラ』を纏った剣なら神話の戦鎚にだって太刀打ちできる。


「よっしゃいくぜ!!」

「こい!!」


 飛び出してきた緋色が勢いそのまま戦鎚を振りかぶる! 俺は両手で持った『限界なき意思の剣ストライク・バスタード』を振り抜く!

 ハンマーのヘッドと剣の刀身がぶつかり、お互いに弾かれる。だが、打ち合いは終わらない。そのまま何度も何度もお互いの武器が反発し合う。


「これならどうだ!!」


 迫り合いの最中、戦鎚を持っていない左手から雷が発する! だが、その攻撃パターンはソーマとの戦いで経験済みだ。


「その手は食らわない!」


 咄嗟に右肩を突き出し、雷の射線にローブを持ってくる。そして、そのまま体を捻り、流すように戦鎚を振り払う。

 雷は至近距離でローブに直撃し、肩の部位だけボロボロになっている。腕に若干のダメージを受けたが前のめりになって耐えた分、体勢は崩れていない。


 ——体勢が崩れているのはアーサソールの方だ!


 振りかぶり、とどめの一撃を加える!


「まだまだ!!」


 だが緋色も諦めていない。崩した体を踏ん張らせるように足に力を入れ、戦鎚でアッパーを繰り出してくる。

 振り上げる力と振り下ろす力——相反する二つの力が衝突する。一進一退、逼迫した競り合い。この勝負どちらが押し勝つかで勝敗が決まる!


「うぉぉぉぉぉぉ!!」

「ここで勝負を決める!! 注力最大フル・アクティブ!!」


 反対の手で支えているのも虚しく、じりじりとハンマーが押し下がっていく。緋色の膝が床へと近づいていく。あと一歩、あと一歩で肩まで届く!

 だが、ちょうどその時だった。


「それまで! 模擬戦終了だ」


 審判であるブルームが俺たちの間に割って入っていたのは。

 『僕』はブルームの言葉を受けて剣を収めた。対する緋色も昇華を解き、床に膝をつけて跪いていた。


「どうだい二人とも。少しは自分たちの魔法の使い方、わかったかな?」

「ああ……黎と同じ土俵で戦うのはあまり得策じゃなかったのかもな」


 肩で息をしながら緋色が言う。辛そうではあるが、表情は清々しい。まるで部活の練習後みたいだ。


「僕もコツは掴んだかな。魔力の注力具合とか遠距離攻撃を使うタイミングとか訓練しないとわからなかったと思うし」

「そうか。それならよかった」我がことのように喜んだブルームが笑顔を見せる。「おっと、どうやら今度は彼女たちの番みたいだね。私としてはあまりはりきり過ぎないで欲しいんだけどな」


 そう言ったブルームの視線の先には歩み寄る愛梨彩がいた。反対を見ると同じようにフィーラも部屋の真ん中へときている。


「スレイヴ同士は引き分けたけど……魔女同士の戦いなら負けないのだわ」

「あなたたちは休みながら反省会でもしてて。スレイヴが特訓した以上、魔女も強くならなきゃでしょう?」

「あ、はい。そうですね」


 二人の魔女は有無を言わせない雰囲気を漂わせていた。緋色と僕は目を見合わせ、無言で頷き合った。——「こいつらガチだ」「そうだね、下がろう」と。


「決闘の合図をお願い、ブルーム。この前の勝利がまぐれじゃないって……ここで証明してみせる」

「今日こそ……雪辱を晴らしてみせるのだわ!」

「それじゃ模擬戦——開始!」


 かくして模擬戦第二ラウンドが開始した。

 みんなが同じ方向に向かって切磋琢磨しているこの状況はやはり部活のように思えた。疲れて辛いけど、みんなと研鑽するのは楽しく、やりがいのあるものだった。

 僕らの特訓合宿はまだまだ始まったばかりだ。


続きはカクヨム(https://kakuyomu.jp/works/1177354054887291624)の方で先行して掲載されております。

興味のある方は是非そちらでも読んでみてください。

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