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ゼロの魔女騎士《ウィッチナイト》  作者: 鴨志田千紘
第2章 魔女は己が欲《エゴ》のために踊る
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勝ちに代わるヒーロー/インターリュード


 *interlude*


 アーサソール——ヒイロは順調にユリネのもとへと向かっている。アリサたちがレイスを蹴散らしてくれているのだから、当然といえば当然か。


「これで吹き飛べ! サンダーハンマー!!」


 サラサのスレイヴが放つ土の弾丸にノーガードで突っこんでいくヒイロ。土塊は砂利が当たったかのように霧散していく。

 昇華魔法に対して模倣魔法は無力だ。なぜなら彼は魔法を《《使えない》》のだから。ヒイロが纏っているのは純粋な魔力のみ。あとは力技でねじ伏せればいい。

 かつて魔女だった者は戦鎚——ミョルニルの餌食となる。体は遥か彼方へと吹き飛ばされ、姿は虚空に消えた。

 これでスレイヴは抑えこんだ。残るはサラサという魔女のみ。ここからは私の出番だ。

 杖を投げ捨て、土塊を魔札スペルカードで撃ち落としながらサラサへと迫っていく。


「『砂塵の夢想曲トロイメライ・サンド・ストーム』!!」

「そんな範囲魔法で!! 『天墜一閃』!!」


 光速で落ちてきた稲妻が砂嵐をかき消す。サラサを守る壁はなくなった。この間合いなら私が有利なのだわ!


「『雷神一体』!」

「くっ……! 『四重奏の土壁グランド・ウォール・カルテット』!」


 突如、大地からせり上がって出てくる四重の壁。けれど障壁魔法の壊し方なら心得ている。


「そんな悪足掻きで! でぇぇぇぇい!!」


 私は全力で跳躍し、必殺の飛び蹴りを炸裂させる。雷をドリル状に纏った脚は土の壁をあっさり貫き、崩壊させる。そのまま二枚、三枚、四枚。サラサは瞬く間に無防備となる。


「物理攻撃ならローブの上からでもダメージは通るでしょ!!」


 隙は与えない。勢いを殺さずにサラサの懐へと飛びこみ、鳩尾目掛けて正拳を叩きこむ。何発も何発も、左右で「これでもか!」と言わんばかりに。

 サラサがよろめき、体勢を維持できなくなる。今だ、フィニッシュブロー。締めの一撃は頭への痛打——アッパーカットなのだわ!!


「がはっ……!」


 渾身の一撃を受けたサラサの体は宙を舞い、氷の床へと打ちつけられる。優雅な装いは見るも無惨にボロボロ。彼女自身の戦闘力は皆無に等しい。ここでとどめの一撃を決めれば完全勝利だ。


「まだですよ……こんなところで倒されるわけにはいかないのです、私は……『終わらない円舞曲(エンドレス・ワルツ)』」

「こいつ……! この期に及んでまだそんな魔法を!」


 たちまち氷で覆われた地面が砂地へと書き換わる。

 この魔法はおそらくレイスを補助する魔札スペルカードだ。彼女自身はもう戦えないはず。だとしたらまたレイスを操るつもりなのか?


「私に切り札を切らせるなんて……フィーラ・オーデンバリ……実力は確かなようですね」


 息絶え絶えになりながらもサラサは喋り続ける。その間に大地は戦場に溢れ散った骨を集め、彼女の前に堆積させていた。


「ですが……これで終わりです。恐れ慄きなさい! 『奴隷のための鎮魂歌レクイエム・フォー・スレイヴ』!」


 集められた人骨の山に一枚のカードが投げ放たれる。

 カードを心臓にするように人骨が骨格を形成していく。およそ人間のものとは思えない、巨人を模したような骨格だ。……そしてできあがった骨格に土という筋肉が与えられる。


 ——現れたのは首のない土塊の巨人。


「なるほど。死霊を操るあなたなら、死霊の骨を骨格代わりにして土塊を操れるってわけ。傀儡魔法のマネごとができるとは思わなかったのだわ」

「フィーラ!」


 私を守るようにヒイロが前に躍り出てきた。


 『奴隷のための鎮魂歌レクイエム・フォー・スレイヴ』——想定外の技と言えば想定外の技だ。物量攻めが得意だとばかり思っていた。けどね——


「土の巨人か……アーサソールにおあつらえ向きの相手なのだわ」

「なんですって……?」

「敵じゃないって言ったのよ、砂地の魔女」


 おそらく私は笑みをこぼしていただろう。自分の口角が上がるのが嫌でもわかった。

 サラサにとってこれが切り札のようだが、正直負ける気がしない。だってアーサソールは巨人を討ち滅ぼす戦神だもの。とても燃える展開じゃない。


「へぇ、今度は巨人が相手か。雑魚を相手するのにも飽きてきたところだし、ちょうどいいな」

「きっとあれも死霊と同じで回復ができるはずよ」


 前衛と前衛、後衛と後衛が戦う魔術戦の基本セオリー通り、巨人はヒイロに任せて私はサラサを仕留めたかったが……そういうわけにはいかないようだ。

 土の巨人はやたらめったら戦っても攻略できない。まずは厄介な前衛を無力化し、二対一の有利な状況を作るべきか。


「倒すには回復手段を封殺して、一撃必殺を決める必要がある。必殺のタイミングは私が指示するからあなたは土の巨人を疲弊させて」

「オッケー。要するに思う存分暴れ回れってことだろ?」

「違っ——わないけど。本当にわかってる?」

「わかってるわかってる。俺は『勝ちに代わるヒーロー』だぜ? 俺がいれば勝ったも同然。余裕余裕」


 私はただただ得意満面の彼に圧倒され、言葉に詰まった。開いた口が塞がらない。この男……ひょっとしたら私以上に自信家なんじゃないだろうか。


「全く……もう少し頭を使って欲しいのだけど……でも今はあなたを信じるのだわ」

「信じてくれてサンキューな。そんじゃ……いくぜ!!」


 アーサソールが一目散に飛び出していく。作戦の意味を本当に理解しているかいささか不安だが……それでも彼はなんとかするはずだ。


 ——だって彼はヒーローなんだ。ヒーローは必ず勝ちをもたらす。


 私は彼の背中を見届けながら、その時がくるのを待つ。私はサラサを見据え、一枚のカードを握りしめる。狙うは回復させる一瞬だ。


「たかが一般人を強化したごときで!! やりなさい、レクイエム!!」

「くらえ! サンダーハンマー!!」


 アーサソールのミョルニルと巨人の拳がぶつかり合う。両者ともぶつかってはよろめき、再度ぶつかり合うという動作を繰り返している。

 だが、余裕があるのは私たちの方だ。打ち合うたびに体が欠けていく土の巨人に対し、アーサソールは傷一つない。


「まだまだ!!」


 ヒイロの顔に焦りの影はなく、むしろ楽しんでいるかのような表情だ。このまま押し切れば……いける!


「これでどうだぁ!!」


 アーサソールが目一杯ミョルニルを振るい、巨人の腕を砕く! 戦鎚の勢いは巨人の体まで伝播し、体勢を大きく崩した。


「力押しで勝とうなどと……! 『奴隷のため(レクイエム)』——」


 だがサラサはまだ諦めない。手にしたカードはさっきと同じ『奴隷のための鎮魂歌レクイエム・フォー・スレイヴ』。狙いは——回復だ!


「この瞬間を……待っていたのだわ!! 『電光石火』!!」

「なに!?」


 手に持っていた速射の魔札スペルカードを放り、サラサのカードを射抜く。これで彼女の布陣を崩す準備が整った!


「今よ、ヒイロ!! 体の魔力を解放して! 必殺技の名前は——『轟音疾駆ごうおんしっく——ソール・ハンマー』!!」

「おう!はぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 アーサソールが体から赤い稲妻を放つ。放出された魔力は形を変化させ、やがて戦車を引く二頭の幻影が現れる。——タングリスニとタングニョーストだ。


「いくぞ、巨人野郎! 」


 ヒイロは戦車に飛び乗り、巨人へと向かっていく。荒野を駆ける一筋の赤雷。それは確約された勝利への道のり。


「『轟音疾駆ごうおんしっく——ソール・ハンマー』!!」


 圧倒的な速度でアーサソールが巨人の横を通り抜ける。その一撃、その衝撃は一瞬のできごとだった。すれ違いざまに叩きこまれた戦鎚ミョルニルが巨人の肉体を粉微塵に粉砕する。


「よっし!!」


 一撃で沈黙した土の巨人を見て、思わず私はガッツポーズをしてしまう。作戦は完璧。これで残るは——


「って……いないのだわ!? はあ……つまりこの教会もハズレってことね」


 戦場にサラサの影はすでにない。回復が封殺された時点で撤退していたようだ。この場で体を張って死守しないということはそういうことなのだろう。


「あれ? あのいかにも怪しげな魔女は?」

「取り逃がした。けど、初陣としては充分なのだわ」


 レイスの数を減らしたことと切り札を明るみにしたこと、致命傷を負わせたこと……今日のところはこの三つだけでも充分な成果だろう。この場でサラサにとどめを刺したかったが、機会は持ち越しのようだ。


「だろ? 流石、俺」

「調子乗らない! ま、でも今は私たちの初勝利を喜んでいいのかもね」

「だな。ほい」


 変身を解いたヒイロが右手を上げる。私は意味がわからず、小首を傾げた。


「なんのマネ?」

「ハイタッチ。テニスのダブルスだとパートナーとよくやるんだぜ?」

「なるほど。悪くないのだわ!」


 いかにも相棒同士でやりそうなモーションだ。勝利後のルーティン、験担ぎとして最適じゃないか。

 私は勢いよく自分の腕を振り、彼の右手に打ちつける。パンと甲高い音だけが戦場に鳴り響いた。

 その刹那、なんとなくお互いの心が通じ合った気がした。勝利への喜び、お互いへの信頼。なによりこれが彼との正式な契約の証だと思えた。


「これからよろしく、私の相棒」

「おうよ」


 私は彼と一緒に戦っていく。ちょっとおバカだけど、正義感溢れるヒイロとなら戦い抜ける。

 私たちの想いは一つ。教会の野望を阻止すること。それがきっと私の魔女としての誇りや名誉に繋がるはずだ。

 間違ったことをした分、正しいことをしよう。今からでもやり直そう。私たちの争奪戦のスタートはここからなのだから。


 *interlude out*

続きはカクヨム(https://kakuyomu.jp/works/1177354054887291624)の方で先行して掲載されております。

興味のある方は是非そちらでも読んでみてください。

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