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ゼロの魔女騎士《ウィッチナイト》  作者: 鴨志田千紘
第2章 魔女は己が欲《エゴ》のために踊る
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形勢逆転

「フィーラ……それに緋色も!」


 戦場のど真ん中、見慣れた赤茶色の髪の青年と銀髪の少女が立ちはだかっている。


 ——友達が立っていた。


 俺たちを助けに唯一無二の友が駆けつけてくれたのだ。それはまさしく心のそこから安堵した瞬間だった。


「こんな弱っちいやつらに負けたなんて私もまだまだね」


 追い払うようにフィーラがカードを放つと、サラサは跳んで百合音のもとへと退いていく。これで窮地は脱した。


「わりいな、黎。だいぶ寝過ごしちまったわ」


 俺のところに緋色が駆け寄ってくる。緊迫した戦況なのに、そこには普段通りの彼がいた。


「緋色が寝過ごして遅れるのはいつものことだろ?」

「それな」


 緋色がはにかんで笑顔をみせる。

 ああ、こいつは巻きこまれても、なにがあっても勝代緋色という軸がブレないんだな。流石だよ、ヒーロー。

 一方、フィーラは愛梨彩を助け出し、こちらへと合流する。これで役者は揃った。


「くるって信じてたわ、フィーラ」

「当然! だから改めて言うのだわ、アリサ。私たちと同盟を結んでちょうだい。色々道を違えてしまったけど……私は今できる最善を尽くしたい。まずは魔導教会の野望を砕く! 名誉っていうのは正しい振る舞いをした後についてくるものだしね」

「当然、快諾するに決まってるわ。だってようやく二人で肩を並べて戦えるんだもの。あなたと一緒ならどんな相手だって怖くない」

「これで私たちはシンユウね!」


 そう言って二人は目笑し合う。今、この瞬間の彼女たちはただの友達じゃない。すれ違って、ぶつかり合って……そんな試練を乗り越えた二人は真の意味で友達になったんだ。


「おっと俺たちも忘れてもらっちゃ困るね! なあそうだろ、黎?」


 俺の肩を抱いて、緋色がのしかかってくる。

 本当に調子のいいやつだと思うけど、その底抜けの明るさが頼もしくもある。俺だって緋色と一緒なら怖いものはない。


「ああ、そうだな! 四人で戦おう」

「っしゃあ! じゃ、いっちょやりますか!」


 緋色が手のひらに拳をぶつけ、ファイティングポーズを取る。


「二人はレイスをお願い。私とヒイロで魔女二人を相手するのだわ」

「緋色は……大丈夫なのか? 戦えるのか?」


 勢いで四人で戦おうと言ったものの心配がないわけではない。緋色は魔力がない一般人。ベルセルクの前例もある。確認の意味で俺はフィーラに尋ねたのだが……


「まあ、見てなさい。無策できたわけじゃないのだわ」


 そう言われたら納得するしかない。俺は二人を信じると決めたのだから。


「いくわよ! ヒイロ!」

「おう!!」


 フィーラが緋色の背中に杖をかざすと、頭上から魔法陣が現れる。陣内を通過した彼の体をオーラが覆う。魔力は狂戦士の肉の鎧を形作るように膨れ上がり、肥大化する。


 ——だが、違う。これはベルセルクじゃない。


 例えるなら、これは成体になるための繭だ。


「北欧で名高きいかずちの戦神よ。彼の者にその力を託し、この世界に再臨せよ!」


 みなぎるオーラは赤く、あかく。目は烈火のごとく燃えがあり、魔力は閃光となって周囲に迸る。


あかの稲妻を纏いて、敵を討ち滅ぼせ!!『昇華魔法:緋閃の雷神エボリューション・アーサソール』!!」


 フィーラの叫びに呼応するように肉の鎧が弾け飛ぶ。今、彼は狂戦士という殻から羽化を果たした。

 中から現れたのは戦鎚を携えた赤髪の雷神。北欧神話の神、トールの力を得た緋色は誇らしげに、敢然と仁王立ちしていた。


「どうよ? 私が屋敷でずっとうじうじしてるだけだと思った? 」

「これってキング・アーサーの……」

「そう、改良型の術式なのだわ。この力をどう使うか迷いながら改良していたけど……ここで使う運命だったようね」


 従者が誇らしげならその主人もまた誇らしげに、腕を組んでいる。心なしか、フィーラは自信満々な顔の方が似合っていると思った。


「あいつ、倒しちゃっていいんだよな?」


 緋色がホームランを予告するバッターのように戦鎚を掲げ、百合音へと向ける。炎となって燃え盛る目は目標をきっちりと捉えていた。


「彼女は死体よ。意思はもう死んでる。解放して楽にしてあげて」

「オッケー。じゃあいっちょやりますか! オラオラオラオラオラァ!!」


 雷神は雄々しく死霊群に吶喊していく。戦鎚で近づいてきたレイスをたちまちのうちに粉砕していき、寄せつける隙を与えない。獅子奮迅の勢いだ。

 俺たちだって負けていられない。愛梨彩とアイコンタクトを取り、自分たちにできることを確認する。


「残ったレイスは私たちで片づける! 勝代くんとフィーラは大将首を取って!!」

「ここは俺たちに任せて!」

「なら、遠慮なくいかせてもらうぜ!!」

「任せるのだわ!」


 緋色たちの姿が遠のき、背中だけが見える。


「いくぞ、愛梨彩!」

「ええ! 『瞬間氷晶ダイヤモンド・ダスト』!!」

「『破壊の戦鎚剣ウォーハンマー・ソード』!!」


 愛梨彩がレイスを凍らせ、俺が木っ端微塵に粉砕する。我ながらいいコンビネーションだ。

 けど、コンビネーションなら彼らも負けていない。知り合って数日しか経ってないはずなのに、あの二人は妙にシンクロしている。二人とも使命感が強いからかもしれない。

 誰にでも優しく、分け隔てなく助ける正義の味方。きっと俺はあの背中に憧れていたのだろう。本当に大きな背中だ。

 いけ、緋色。フィーラ。今日の主役ヒーローは君たちだ。


続きはカクヨム(https://kakuyomu.jp/works/1177354054887291624)の方で先行して掲載されております。

興味のある方は是非そちらでも読んでみてください。

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