信じて待つ。信じて向かう。
初めてこの作品を読む方へ
騙されたと思って第6部まで読んでください。あなたを物語に惹きこみます。
六日後の夜。僕と愛梨彩、ブルームは新戸にきていた。緋色とフィーラは……いない。
ハワードが去った後、愛梨彩はフィーラに泉教会を攻略する旨を伝えた。フィーラはそれを俯いて聞いているだけだったが、手は力んでいた。まるで内なる自分と戦っているかのようだった。
緋色は魔術の負担が大きかったためか、未だに眠っている。フィーラがこないのは彼が眠っているからでもあるだろう。もしかしたら巻きこんだ自責の念があるのかもしれない。
けど、僕たちは信じて泉教会へと向かったのだ。彼らがくると。
新戸を郊外に向かって歩くと、住宅地の中に開けた敷地が現れる。泉教会だ。
「こんな場所で戦うのか?」
教会の敷地は狭いが、囲むように敷かれた車道のせいか全体的には広く見える。とはいえ住宅街。今までと違って周りに被害が出るのではないかと気になってしまう。
「周りの建物に人気は感じられないね。結界が張られているのも確認済みだ。元々カモフラージュ用の建物だったか……それとも住人に手をかけたか……どちらかだろうね」
「どうやら後者が当たりのようね」
ブルームの推理の答えを提示するように愛梨彩がきっぱりと答えた。
愛梨彩の視線は教会の入り口に向いている。そこにいるのはサラサと死霊の群れだ。その数は以前と変わっておらず、むしろ増えているかもしれない。——以前の戦闘で減らしたにもかかわらず、だ。
「性懲りもなくまた戦いにきたのですか?」
サラサの悠然とした振る舞いが狂気を帯びて見える。嘲笑うように上がった目尻も醜悪に映る。こいつは人としての一線を越えているんだ。
「周りに人気がないなら存分に暴れていいってことだよな。ちょっと今、無性に腹立たしい気分だし」
「同感。私もちょうど虫酸が走ってたところよ」
愛梨彩と目を見合わる。考えていることはお互い一緒らしい。——この魔女は許せない。
「血気盛んだな、君たちは」
ブルームはやれやれと言うように肩を竦めてみせる。だが、そう言う彼女も剣の構えからやる気が滲んでいる。
こちらの準備は万全だ。両者は静かに睨み合う。
その直後だった。
「やはり泉教会の方を狙いにきたわね、九条愛梨彩!!」
不意に聞き馴染みのある声が天から響いてきたのは。
「咲久来!?」
舞い降りるように着地した少女。咲久来に違いなかった。
だが、どうして彼女がここに? 咲久来はアインのスレイヴのはずだ。
「どうやら私たちが泉教会を狙うと読まれていたようね。だから動かしやすいスレイヴだけを派遣した……ってところかしら?」
「そうよ。私はあなたを倒すためにここにきたんだから!」
「待ってくれ咲久来! 話を——」
「おしゃべりをしにきたわけじゃないの! ここで死んで……九条愛梨彩!!」
咲久来は俺の話に耳も傾けず、構えた銃から水の魔弾を放つ。決戦の火蓋は切って落とされた。それぞれが一斉に動き始める。
「あなたの攻撃は見切っているわ! 『凍てつく』——」
「氷のカードは使わせない!」
魔弾を撃った直後、魔札が高速で飛来してくる。カードは愛梨彩の持ち札に直撃し、瞬時に凍結した。ソーマが使っていたのと同じ『フリーズ』の魔札か!
「きゃあ!!」
「愛梨彩!」
相殺するはずだった魔法は使用不能となり、水の弾丸は止まることなく彼女に直撃した。吹き飛ばされた愛梨彩はアパートの壁へと打ちつけられる。
「この前のお返しよ!!」
たたみこむように咲久来が銃弾を放ちながら駆けてくる。
「クソ! 『そびえ立つ盾壁』!!」
話し合う暇なんてない。俺は勢いよく魔弾の射線軸に侵入し、防壁を張る。これで魔弾はなんとか防げるはずだ。
「油断するな、愛梨彩! 咲久来のやつ、銃だけじゃなくてカードケースも所持してるんだ」
愛梨彩を抱き起こしながら、俺は所感を述べる。
『フリーズ』のカードを使ったのは咲久来だ。サラサの援護じゃない。暗がりでほんの一瞬見ただけだが、彼女の腰にはガンホルダーのようにケースが巻きつけられていた。
魔導銃はその性質上、遠距離攻撃魔法にしか対応していない。ケースを併用しているのはその欠点をカバーするためだ。おそらく彼女のケースには身体強化系の補助魔法も入っているのだろう。低ランクのものという制限こそあるが、今の咲久来に使えない魔法は……ない。
「わかれば単純な理屈だけど……まさかこの短期間で自分の欠点を補ってくるとはね」
「その通りよ!」
次の瞬間、宙空から声が聞こえてくる。見ると『そびえ立つ盾壁』よりはるか上空に咲久来の姿がある。いくら魔力が流れているとは言っても、そこまで高く跳べるわけがない。
「『オーラ』——やっぱり身体強化か!」
壁を跳び越えてきた咲久来が正面から突撃してくる。慌ててカードを手に取るが、相手の方が早い! 間違いない……身体強化だけでなく、『アクセル』まで使っているんだ。
押し負けるのを覚悟して『折れない意思の剣』を手に取る。防がなければそばにいる愛梨彩が殺される。
しかし衝突することはなかった。代わりに飛びこんできたのは黒い影。——ブルームだ。
大剣と銃剣が火花を散らして激しくぶつかり合う!
「はやり過ぎだ、二人とも」
「またあなたなの!? 正体を現さない卑しい魔女の分際で……邪魔しないでよ!!」
『オーラ』の影響か、咲久来は銃に備えつけられた短剣で器用に立ち回っている。ブルームと打ち合いながら、強かに隙を狙っているようだった。
「あいにく野良の魔女は教会の邪魔をするのが仕事でね——」ブルームが深く踏みこむ。「だから君の思い通りにさせるわけにはいかないのさ!」
咲久来は薙ぎ払われ、両者に距離が生まれる。だが、彼女の攻撃は止まない。乱射するように水、火、土、風の魔弾が襲いかかってくる!
「彼女の相手は私に任せてくれ! 君たちはサラサの方を!」
「ブルーム!!」
有無を言わさず、ブルームは魔弾を斬り払いながら突撃していく。やがて彼女たちは離れた場所で一対一の勝負を繰り広げ始める。上手く咲久来を誘導してくれたようだった。
「あら。見せ物はもうおしまいですか? せっかくスレイヴの本気が見られて面白いところでしたのに」
相変わらずサラサは余裕綽々のようだった。咲久来に加勢すれば窮地に追いやれたにもかかわらず、彼女は見せ物を見るという選択をした。やっぱり彼女は俺たちを舐めているようだ。
「余裕ぶってるのも今のうちだからな」
「ええ。咲久来には一本取られてしまったけど、私たちが倒すべき相手はあなたなのだから。その高い鼻、へし折ってあげるわ」
「ならば、踊りましょう。『終わらない円舞曲』を!」
石田神社の時と同じようにアスファルトに土が広がっていく。それと同時に死霊の群の中からローブ姿の女がサラサを守るように前に出る。
「大河……百合音」
ほかの死霊とは異なり、しっかりとした足取りで敢然と立ちはだかる百合音。だが、意思というものは感じられない。彼女は生きていない。
「さあ、私を楽しませてくださいな」
誘うように、挑発するようにサラサが手をこまねく。俺たちは揃って彼女を睨みつける。
目の前には死霊群と魔女が二人。数的優位はあちら側にあるが、負けるつもりはない。この場でサラサとの決着をつける!
続きはカクヨム(https://kakuyomu.jp/works/1177354054887291624)の方で先行して掲載されております。
興味のある方は是非そちらでも読んでみてください。
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