どうして僕たちは戦わなければならなかったのだろうか?
初めてこの作品を読む方へ
騙されたと思って第6部まで読んでください。あなたを物語に惹きこみます。
公園に着いてからはずっと世間話をしていた。
「でさ、佐藤のやつが学園祭の実行委員になったんだわ。 でも佐藤って実行委員やるキャラじゃないじゃん? 女子で相田ってやついただろ? 結構バイブスアゲアゲな見た目のやつ。どうも相田が実行委員やるから立候補したっぽいんだわ、これが」
週刊マンガのこと、学校のこと、部活のこと。そのどれもが僕には懐かしく、ずっと忘れていたものだった。本当はもっと別のことを尋ねるべきなのに緋色のトークは心地よく、話の流れに身を任せてしまった。
「おい、黎? 聞いてるか?」
「あ、うん」
彼は今も平穏無事に暮らしている。そんな彼がどうしてフィーラと知り合いなのか。
「なんか気になってることあるんだろ。言えよ。俺とお前の仲じゃん」
流石は友人。鋭い洞察力だ。
魔法とは関係ない、久しぶりの世間話でつい和んでしまったが、そろそろ尋ねなければならない。
「フィーラと知り合いだって言ってたけど……本当?」
フィーラとはどういう意味で知り合いなのか。聞くのには勇気が必要だった。返答次第では敵対することになるかもしれない。心の中で「どうか魔女とは無関係でいてくれ」と願う。
「ああ、まあな。あいつ俺に借金してるし」
「借金!? 緋色の家って借金取りだったの!?」
「いやちげーよ。部活終わりに常勝軒いったら、現金なくて困ってる子がいてさ。それがそのフィーラってやつ。仕方ないから俺が立て替えたってわけ。だから借金」
「ほぼ初対面じゃん」
「それな」
緋色があっけらかんと言い放つ。
真相があまりに拍子抜けで、わざとらしく思えるくらいにズッコケてしまった。
随分紛らわしい言い方をしてくれたもんだ。彼の中では金を貸しただけで知り合いになるらしい。僕が心配した時間を返してくれと言いたい。
「そうやって誰彼構わず助けるから……緋色は。心配するこっちの身にもなってくれよ」
ともあれ、魔女とは無関係そうだ。僕はほっと胸を撫で下ろす。
「いやいやこんなん普通だろ。正義のヒーローとかマンガの主人公にはまだまだ遠いぜ?」
「向上心がすごくてなによりです」
そう言って二人で目笑した。
名前とは不思議なもので、彼はその名の通りヒーローのようだった。本人はご覧の通り謙遜するが、見ず知らずの外国人を助けられるお人好しなんてそうそういない。
真っ当な生き方ができる彼だからこそ魔女の戦いには巻きこみたくはなかった。もし彼が全てを知ったら、きっと自分から首を突っこんでくる。我が身を顧みず人助けができる。そんな男なのだ、彼は。
「ヒイロ」
不意にフィーラの声が舞いこんでくる。なにやら思いつめた表情でこちらへと向かってきていた。さっき会った時と雰囲気が違う。まるで噛み締めていた幸福を一瞬で台なしにされたかのようだった。
「ん? どうかしたか?」
「あなたに言ったこと覚えている?」
「ああ、ヒーローになってくれって話か?」
「そう。その返答を聞かせて」
僕のことなんてお構いなしに話が進んでいく。ヒーロー? そういえばラーメン屋の前でもそんな話を二人がしていたっけ。
フィーラにとってのヒーロー……それって——
「その顔……困ってるんだろ? いいぜ。俺が力を貸すよ。それにヒーローになれるんならなりたいしな」
「待って、緋色!」
「その言葉が聞けただけで充分——これで契約成立なのだわ」
フィーラは緋色の背中を手のひらで押していた。当の彼本人は僕が声を荒げたことに困惑していて気づいてない。
俯き加減で彼女が呪文を紡ぐ。魔法の名前は——『|昇華魔法:救国の騎士王』。
「フィーラ!! お前!!」
魔法陣が緋色の体をくぐり抜け、昇華が始まる。僕は咄嗟の判断でバックステップを踏み、距離を取る。
なんと罵ればいいのかわからなかった。怒りをぶつけたい気分なのに言葉が見つからない。「馬鹿野郎」、「気が狂ったか」、「なにしてくれた」。どんな言葉でも言い表せない。
——親友がフィーラのスレイヴになった。
事実だけがナイフとなって突きつけられる。緋色が魔女と無関係だったことに安心した矢先のできごとだった。彼だけは争奪戦に参加して欲しくなかった。また知り合いと敵対しなくちゃいけないのか、僕は。
諦めるのはまだ早いと自分に言い聞かせる。出てくるのはアーサー王を模したスレイヴ。ならばまだ会話することができるはずだ……と思っていた。
——だが、その予想は大きく外れる。
突如魔法陣は歪みだし、緋色が呻き声を上げ始める。明らかに様子がおかしい。僕が昇華された時と全く異なり、黒いオーラが加わっている。まるでフィーラの負の感情が集積しているかのようだった。
「え……どうして……どうして術式が失敗するのよ……」
「フィーラ! あなたまさかアーサーを一般人に使ったの!?」
愛梨彩が駆け寄り、フィーラを問い詰める。だがフィーラは「どうして……」と言葉を漏らし、膝をついて放心している。会話が成立していない。
やがてスレイヴはその全身を露わにする。
それは爽やかな青年の面影一つない赤褐色の巨人だった。膨れ上がった筋肉が全身を覆い、暴れ狂う姿はまさしく狂戦士。理性なんてどこにもない、激情の嵐。
「どうして……どうしてこうなるんだよ!!」
どんなに変わり果てても、それは紛れもなく緋色だった。僕の親友なのだ。
それは——誰も望まぬ戦い。どうして僕たちは戦わなければならなかったのだろうか?
続きはカクヨム(https://kakuyomu.jp/works/1177354054887291624)の方で先行して掲載されております。
興味のある方は是非そちらでも読んでみてください。
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