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ゼロの魔女騎士《ウィッチナイト》  作者: 鴨志田千紘
第2章 魔女は己が欲《エゴ》のために踊る
42/175

埋められない溝/インターリュード

初めてこの作品を読む方へ

騙されたと思って第6部まで読んでください。あなたを物語に惹きこみます。

 *interlude*


「フィーラ、私はあなたと同盟を結びたい」


 率直な気持ちをフィーラにぶつける。私はやっぱりあなたと殺し合いをしたくない。できるならあなたと一緒に肩を並べて戦いたい。

 フィーラは重く閉口したままだ。風が吹き荒び、近くの木々を揺らした。森林公園のベンチに並んで座っている私たちは止まった時間の中に取り残されているようだった。

 なんとなくあたりを見渡す。だいぶ遅い時間帯になってきたせいか、遊んでいる子どもたちはさほど多くはない。少し離れた場所にいる太刀川くんと勝代くんは談笑している。やはりここだけ空気が重くなっている気がした。


「同盟は……組まない。前にもそう言ったはずよ」


 ようやく出てきたフィーラの言葉はたどたどしかった。まるで迷いがあるように聞こえた。


「教会の力はあの時わかったでしょ? 野良側は協力しないと勝てないわ。なにもずっと同盟を結んでくれとは言わない。せめて教会を倒すまで……あなたとの決着は教会を倒した後でも——」

「そんなのはわかってる! でも、私は——!!」


 なんの前触れもなく彼女が声を荒げ、立ち上がる。背中は震え、怒気が滲んでいた。

 諭すように語りかけた私が押しつけがましかったからだろうか。そう思ってしまうと言葉を続けられなかった。


「アリサの言いたいことはわかるのだわ。教会のやろうとしていることは許されることじゃない。強者が弱者を虐げる世界。私だってそんなことを許すつもりはない。でもね——」


 フィーラが息を飲む。ほんの一瞬のできごとのはずなのに何分も時が流れたように感じる。


「私が倒したいのはあいつらじゃない。あんなやつらなんてどうでもいい。私が今倒したいのは……アリサ、あなたよ」


 振り向いたフィーラは仇を憎むように私を睨んでいた。

 こんな顔、初めて見た。どんな時も常に悠然としていた彼女が悔しさを滲ませている。私はそんな相手に独りよがりの願望をぶつけていたのか。


「私……?」

「前言撤回するのだわ。今のあなたなら争奪戦で生き残るだけの力がある。私を負かした以上、それは認めざるを得ない。でもだからこそよ」フィーラの目は真っ直ぐ私を見据えている。「私を追い抜いたあなたは倒さなくちゃいけない。土をつけた相手と馴れ合って、私のプライドが保たれるわけがない。やられたらすぐやり返す。私はオーデンバリ家の魔女として、負けたままというわけにはいかないのだわ」


 ようやく認めてもらえたと思った。でもそれと同時に彼女のプライドを傷つけていた。私はこれ以上なにが言えるだろうか?


 ——それでもあなたと戦いたくない。


 素直な言葉は胸の内に沈み、泡となって消えていく。口下手な自分を無性に呪いたくなった。もっと傷つけない言い方ができたはずだと悔いることしかできない。私はもうあなたに素直な言葉を伝えられない。


「あなたに会って気が変わったわ。今日会ったのはきっと必然ね。ここであなたを倒せと言われている気がするもの」


 どうしてこうなってしまうの。なにが悪かったの。


「勝負よ、アリサ。あなたが勝ったら私はあなたの言うことを聞く。同盟でもなんでも好きにすればいいのだわ」


 断る——という選択肢はなかった。私がフィーラの立場だったらきっと同じくらい納得できないと思ったからだ。彼女の気持ちを無下にはできない。彼女の気が済むまで戦うしかないんだと自分に言い聞かせる。

 私は口を閉ざしてフィーラを見上げる。フィーラは黙認と判断したのだろう。ベンチから離れ、太刀川くんたちの方へと向かう。

 これがきっとフィーラとの最後の戦いになる。そう信じて私は覚悟を決める。


 *interlude out*

続きはカクヨム(https://kakuyomu.jp/works/1177354054887291624)の方で先行して掲載されております。

興味のある方は是非そちらでも読んでみてください。

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