武将家 竜
初めてこの作品を読む方へ
騙されたと思って第6部まで読んでください。あなたを物語に惹きこみます。
お次は『武将家 竜』というラーメン屋。やはり太麺系を攻めるという方針に変わりはなかった。
『武将家 竜』は成石学園前の駅ビルの中にある。僕も部活帰りに緋色たちと何回か来店したことがある。駅の中という好立地のためかピーク時を過ぎているにもかかわらず、店前は結構な行列ができている。
並んでいる間に店員さんからメニューが手渡される。今度の店員さんは愛想のいい女性だった。
「ここまで並んでると流石にいないんじゃないか? 聞くだけ聞いて、行列を理由に帰ることだってできるし……」
メニューで隠しながら、愛梨彩に耳朶を打つ。
「いやよ。ここまで並んで帰るなんて私のプライドが許さないから。すいません、辛味噌ラーメンを一つ」
魔女は僕の進言なんてお構いなしに注文をする。このワガママっぷり……やっぱりラーメンが食べたくて浮かれてるんじゃないだろうか。
「あなたはどうする?」と尋ねられたので「同じものを一つ」とだけ告げた。こうなれば仕方ない。従者としてとことんつき合うさ。
中に入るとカウンター席しかなく、空いている二つの席に座った。立地とは打って変わって、中のスペースは狭い。客の回転率を上げるのが大変そうだ。
席に着くとすぐに辛味噌ラーメンが運ばれてくる。さっきもそうだったが、愛梨彩は味噌ラーメンが好きなんだな。
ひき肉、もやし、キャベツ。具をこれでもかと盛られており、なかなかボリューミーだ。まさに具材のデパート。二杯目のラーメンとしてはパンチがありそうだが、辛味が食欲を刺激してくれるだろう。
箸入れから箸を取り、愛梨彩に手渡す。そして「いただきます」と声を合わせる。
麺をメインに食べたいところだが、なかなか具材が減らない。辛い味噌の味をひたすらシャキシャキのもやしとひき肉で味わう。これだけで満足してしまいそうだ。加えて、あまりの辛さに鼻水が出る。
ふと愛梨彩の進捗が気になり、横目で見る。彼女も辛いと感じているようだ。頰を伝うように雫が一つ、垂れ落ちる。
なんというか……上気していて妙に色っぽい。急に心臓の鼓動が早くなる。これは間違いなく目に毒だ。あまりジロジロ見てはいけないやつだ。食べることに集中しよう……。
「ごちそうさま。あら、まだ食べてたの?」
しばらくすると愛梨彩が食べ終わっていた。なにごともなかったかのようにけろりとした表情をしている。全く、思春期男子の気も知らないで。
「もうすぐ食べ終わるから、店員さんに聴きこみしたら?」
「それもそうね」
それだけ言うと「すみません」と店員に声をかける。一軒目と同じようにフィーラの特徴を伝え、来店したかどうかを確認している。が、店員の顔を見るに結果はここも空振りのようだ。
「ごちそうさまでした。次はどうする?」
「次はそうね……趣きを変えてチャーハンでいくのはどうかしら?」
——チャーハン。チャーハンとはあのチャーハンのことだろうか?
僕の頭の中で一抹の不安が過ぎる。眉間に皺が寄る。
この魔女目的を見失ってないだろうか? 自分がチャーハンを食べたいだけなんじゃないだろうか?
けれど悲しいことに僕はスレイヴ。拒否権はない。主人がいくところについていかねばならぬ運命なのである。
続きはカクヨム(https://kakuyomu.jp/works/1177354054887291624)の方で先行して掲載されております。
興味のある方は是非そちらでも読んでみてください。
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