なんだってい
初めてこの作品を読む方へ
騙されたと思って第6部まで読んでください。あなたを物語に惹きこみます。
まずは学園のある駅方面まで歩いて向かう。その道すがらに一軒目の店、『なんだっ亭』というラーメン屋がある。命名は完全に駄洒落で、仏頂面の愛梨彩が言うたびにシュールな笑いに見舞われた。
「それにしても……だいぶ暑くなってきたな」
歩いていると、コンクリートに反射された太陽の熱気が容赦なく僕たちに襲いかかってくる。
暦はもう七月である。今回の目的が人探しだからローブは着なくて済んだからよかったが、着ていたら蒸し死んでいたんじゃないだろうか。
「ここよ」
僕のぼやきは華麗にスルー。目的地を発見すると、づかづかと店内へ進入していく。僕に拒否権はなく、引っ張られてラーメン屋へと拉致される。
『なんだっ亭』は大通りに面した、大きな店舗だった。駐車場も完備され、敷地ごと借りているようだった。いわゆるチェーン店を展開しているお店なのだろう。
僕と愛梨彩はテーブル席へと通される。四人がけと思しきテーブルは広く感じ、ソファに座っても妙に落ち着かない。そもそも愛梨彩と外食することになるとは思わなかったのだ。いきなり対面で食事するのは少しドキドキする。
「注文、お決まりですかー?」
しばらくすると、ちょっとチャラついたお兄さんが注文を聞きにきた。愛梨彩は迷わず味噌ラーメンを頼む。僕は……
「あと、つけ麺一つ。以上で」
それだけ言うと、チャラついたお兄さんは厨房の方へと帰っていく。帰っていくのだが……なんだろう、目の前から熱い視線を感じる。愛梨彩だ。
ジト目、と言えばいいのだろうか。僕を見て呆れている。
「あの……なんかダメでしたか?」
彼女はなにも喋らない。だが、なんとなく顔を見て意訳することはできる。多分、「ないわー。ラーメン食べ歩きデートなのに初っ端からつけ麺とかないわー」と思ってる。多分。
しばしの間の沈黙が辛い。けど自分からなにか喋る勇気もない。いいじゃないか、つけ麺だって。
「お待たせしましたー。味噌ラーメンのお客様」
数分して、再びさっきの店員が現れた。店員に応じるように、愛梨彩は静かに手をあげる。
「はい、つけ麺のお客様」
「はい」
運ばれてきたつけ麺はなんら変なところもない、至って普通のつけ麺だ。麺の皿の端にほうれん草、ネギ、メンマ、チャーシューなどの具材が盛られている。
「ご注文は以上でお揃いですかー?」
気の抜けた声で店員が尋ねてくる。
「ええ。あと、一つ尋ねたいことがあるんだけどいいかしら?」
「はい。どうぞー」
「今日、この店に銀色の髪をした外国人はこなかったかしら?」
なんだかんだで僕も浮かれていたが、本題はこれだ。フィーラの行方についてなにか手がかりはないだろうか。
「今日っすか? ずっと注文取ってましたけど見てないっすねー」
「ほかの日もきてなかったかしら?」
「きてないっすねー」
「そう。ならいいわ。ありがとう」
「じゃ、ごゆっくりどうぞー」
手がかりなし。わかってはいたが、すぐには見つからなさそうだ。
「まあ一軒目だしさ。冷めないうちに食べよう」
「ええ、そうね」
二人で「いただきます」と斉唱する。
早速箸で麺を取り、汁につけて食す。うん、やっぱりこのほどよい酸味がたまらない。この酸っぱさが好きでつけ麺を頼んでしまうのだ。あとで蕎麦湯をもらってスープとして飲ませてもらおう。
と食べ進めるのもいいが、色々と聞いておきたいことがある。
「どうして最初にここに入ったの?」
「フィーラは私と違って太麺派なのよ。ここは太麺で有名だし、訪れるならここだって思ってたんだけど……ハズレのようね」
「ああー。太麺か細麺かで論争になったのか」
「それは、ちが——うとは言えないわね……」
相手の好みの麺まで把握しているとなると、なにか思い出があったから覚えていたと考える方が自然だ。フィーラと愛梨彩ならこういう些細なことで口喧嘩していてもおかしくない。
「あなた、口喧嘩したってよくわかったわね」
「うーん、まあね。もう一緒に過ごして二ヶ月経つし。それなりに愛梨彩の性格はわかるよ」
食べ終わった僕は店の窓から空を見る。
早いものでもう死んでから二ヶ月近くになる。この体に不便はないが、なんというか遠いところにきてしまった気がする。同じ世界にいるはずなのに異世界に放りこまれたかのような感覚。学校で愛梨彩が見ていた風景はこれだったのだろう。
「その勘、もっと戦闘で生かして欲しいわ」
うっ……。黄昏ていたら痛いところを突かれた。話題を変えよう。
「次はどうするの? 同じ太麺系で当たる?」
「そうね……次は——」
続きはカクヨム(https://kakuyomu.jp/works/1177354054887291624)の方で先行して掲載されております。
興味のある方は是非そちらでも読んでみてください。
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