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ゼロの魔女騎士《ウィッチナイト》  作者: 鴨志田千紘
第1章 争奪戦の幕開け
28/175

撤退

初めてこの作品を読む方へ

騙されたと思って第6部まで読んでください。あなたを物語に惹きこみます。


「なあ、あんた遊んでるでしょ?」


 なんとか進行は防いでいるが……どうもサラサという魔女は手を抜いているようだった。


「どうしてそう思うのですか?」


 ブルームを易々と本殿に入れたこと、死霊に頼って自分は全然魔法を放たないことからもそれが伺える。

 数多くの死霊を動かすのに手一杯という可能性もあるが、突破まで許すとは思えない。まるで俺たちを試している——力量を測っているかのような戦い方だ。

 この戦い方から察するに、この神社に賢者の石はないのだろう。


「殺す気を感じない。それだけ」


 復活しないように、一体一体確実に『破壊の戦鎚剣ウォーハンマー・ソード』で砕いていく。使うだけでへばりそうになるが、そこは魔力のコントロールで補っていく。そもそもサラサが生み出している土壌を攻略する力が俺にはない。バスタード・ソードより取り回しは悪いが、現状の最適解はこれしかなかった。

 ヨルムンガンドの方はこちらに目もくれずに死霊たちを潰し回っている。おそらくフィーラの指示なのだろう。ここで俺と共闘すれば、より長くサラサとレイスを引き止められるという算段か。


「そうですねぇ。それならこんなのはどうです? ——あら?」


 サラサが魔札スペルカードを構えた時、異変が起きた。地面から冷気が伝わってくる。俺とサラサは距離を取るように後方へと跳躍する。

 ジャンプしたまま地面を見る。先ほどまで覆っていた土がゆっくりと氷土へと変わっていた。死霊たちは身動きを封じられて動かなくなっている。一体誰が氷魔法を?


「今だ! 退くぞ、黎!」


 本殿からブルームが飛んでくる。


「賢者の石は!?」

「存在しなかった。これ以上ここにいても無駄だ。撤退するなら愛梨彩の魔法が発動している間だ」


 俺の真横に着地したブルームが淡々と喋る。

 この魔法、愛梨彩が起こしているのか。フィーラと戦いながらこちらのアシストまでしたということなのだろうか。


「けど愛梨彩がまだ! フィーラとの決着が——」

「心配ないさ。切り札を発動させた彼女が負けるわけないだろう?

それにほら」


 ブルームが背後を指差した。そこにいたのはいつものように飄々とした顔をした愛梨彩だった。


「また随分と強がっているな。本当はボロボロだろうに」ブルームが肩を竦めて呆れていた。「君は愛梨彩を抱きかかえて離脱しろ。殿しんがりは私が努めよう」

「わかった」


 それだけ言うと『僕』は愛梨彩のもとへと駆けていく。遠くからではわからなかったが、近づくにつれてはっきりとわかる。黒のローブはズタズタに破れ、彼女のお気に入りのセーラー服にまで傷が及んでいた。全身は泥まみれで、遮二無二戦っていたことを物語っている。


「太刀川……くん」


 糸が切れた人形のように脱力して倒れる愛梨彩。すかさず僕は彼女を抱きとめる。夜風がふわりと吹き渡り、わずかに香る髪の匂いが鼻腔をくすぐった。


「お疲れ様」


 僕の言葉に対して返事はなかった。愛梨彩の顔を覗くと、安らかに目をつぶっていた。それはさながら眠り姫のようだった。ずっと張り詰めていた糸が緩んだ瞬間を見てしまったのかもしれない。

「自分の壁、乗り越えたんだな。うん、今はゆっくり休んで」

 愛梨彩の腕を僕の首に回し、腰と足をかかえる。そのまま勢いよく跳んでいき、家路を急いだ。

 月光が明るく愛梨彩の顔を照らしている。お姫様というには少々刺々しい女の子だけど、僕はそんな彼女に仕えることが嬉しかった。


 ——また生きて帰ることができた。


 賢者の石はなかったけれど、それでも僕たちは充分戦っただろう。特に愛梨彩は因縁に決着をつけたんだ。自分のことじゃないのに、それが妙に誇らしかった。

 僕の主人は誰よりも気高くて優しい、そんな魔女なのだから。


続きはカクヨム(http://kakuyomu.jp/works/1177354054887291624)の方で先行して掲載されております。

興味のある方は是非そちらでも読んでみてください。

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