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ゼロの魔女騎士《ウィッチナイト》  作者: 鴨志田千紘
第1章 争奪戦の幕開け
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友情のバトル〜冷たい魔女の決意/インターリュード

初めてこの作品を読む方へ

騙されたと思って第6部まで読んでください。あなたを物語に惹きこみます。


「さあいくわよ、アリサ!」


 杖を構えた少女が声高らかに言う。

 私たちの間にはただならぬ空気が流れている。フィーラは魔札スペルカードを展開していないが、いつ戦闘が始まってもおかしくない。彼女はカードを展開しない戦闘スタイルだからだ。

 私は展開された手札を確認する。速射魔法の『『水の螺旋矢アロー・オブ・スパイラル』が一枚。範囲攻撃魔法の『『水龍の暴風雨レイジ・ドラゴン・レイン』が一枚。防御用の『渦巻く水球の守護スフィア・オブ・アクア』が二枚。連弾魔法の『乱れ狂う嵐の棘(ソーン・テンペスト)』が一枚だ。

 補充設定は同じものにしておく。手札にないカードはドローして足せばいい。


「望むところよ! 私の全力、思い知らせてあげるわ!」


 意気揚々と言葉を返す。布陣は確認した。おそらくこれが戦闘開始の合図となるだろう。


「『電光石火』!」


 張り詰めた空気を裂くように雷撃が飛んでくる。フィーラがドローしたのは雷魔法。以前と変わりない戦法だと私は確信する。


「『水の螺旋矢アロー・オブ・スパイラル』!」


 雷の速射魔法に対して水の速射魔法をぶつける。お互いの魔法は衝突し、霧散する。


「『雷刀八線らいとうはっせん』!」

「『乱れ狂う嵐の棘(ソーン・テンペスト)』!」


 次は連弾魔法の撃ち合い。お互いにお互いの魔法の力量を見定めるような展開だ。威力は均衡している。ここまでは予想の範囲内だろう。


「これならどうかしら! 『雷撃震撼らいげきしんかん』!」


 土の上を這うように電流が流れてくる。今まで見たことのない魔法だ。スピードはそこまで速くない。走って射線から離れようとするが……。


「やっぱり追尾してくるわね」

「まだまだなのだわぁ!」


 フィーラはケースから一気に三枚のカードをドローした。加えたカードは同じ『雷電震撼』だ。彼女は地面を殴りつけるように三枚のカードをセットする。

 私を追う電流が四本……避け続けるのは得策ではない。自分が不利な状況に追いこまれる可能性が高い。


 ——なら地面から離れればいいだけ。


「『渦巻く水球の守護スフィア・オブ・アクア』!」


 ギリギリのところまで電流を引きつけ、跳躍。魔札スペルカードを放り、上空へと逃げ出す。電流同士はぶつかり合い、消滅していく。

 ここまで電流は届かない。一方的に攻めるチャンス!


「一気にいかせてもらうわ!『水龍の暴風雨レイジ・ドラゴン・レイン』!!」

「上に立てたからっていい気にならないで! 『電光雷球でんこうらいきゅう』!」


 私の攻撃を読んでいたかのようにフィーラは四枚のカードを宙に放る。魔札スペルカードはたちまち光の球となり、彼女の頭上に展開される。

 私の放った豪雨は雷の球によって蒸発させられた。私の魔札スペルカードの中でも上位にある魔法が通じなかった。


「やっぱり……範囲攻撃魔法は読まれるわね」

「何回あなたと手を合わせたと思ってるの! あなたの水魔法はお見通しなのだわ! 『天墜一閃てんついいっせん』!」

「しまっ……きゃあ!!」


 雲の合間を裂くように稲妻が落ちてくる! どんなに水のバリアが雷撃を防げても、このままでは地面に落とされてしまう。


「天は私の領域なのだわ。簡単に優位を取れると思わないことね!」


 なすすべなく地面に墜落した私を見下すようにフィーラが言う。彼女の周りには雷の球体が未だに展開している。


「そうやって高を括ってられるのも……今のうちよ」

「その減らず口、塞いであげるわ。『雷神一体らいしんいったい』!」


 手に持っていた杖を投げ、構えを取る。

 『雷神一体』は雷のオーラを纏って身体強化を図る魔法だ。接近してくると予想するが、それは大きく外れた。フィーラは自身を取り囲んでいる球体全てを蹴り飛ばしてきたのだ。


「これで終わり!」

「くっ!」


 やむを得ず、私は再び『渦巻く水球の守護スフィア・オブ・アクア』を展開する。

 雷球を防いだ。しかし……煙が晴れた時、すでに目の前にはフィーラの姿があった。


「相変わらず芸がないのだわ!」フィーラ会心の飛び蹴りがスフィアに食いこみ、水のバリアは崩れていく。「私の勝ちよ!」

「まだよ! 」


 近づかれてしまったら相手の土俵で戦うしかない。私はカードを一枚ドローし、残りをケースに戻す。 


「『渦巻く水の衣ヴェール・オブ・アクア』!」


 フィーラと同じように水のオーラを纏う。ここからは肉弾戦だ。


「昔から往生際が悪いのよ、あなた!」

「あなたが勝ちを確信するのが早いだけ!」

「でも実際に勝つのは私なのだわ!」

「なら、土壇場で足元をすくわれないように注意することね! 私はどこまでも足掻くわ!」


 組手をするように降りかかる拳をいなし、殴ろうとしてはいなされの繰り返しが続く。

 いやが応にもフィーラと戦った日々が思い出される。戦いの最後はいつもこんな殴り合いに発展してたっけ。だから『渦巻く水の衣ヴェール・オブ・アクア』なんていう柄にもない魔法を創ったのだ。例え不得意な近接戦闘でもあなたに負けたくないと思ったから。


「久しぶりに会った時はだいぶ悠然とした雰囲気出してたけど、今は見る影もないわね!」

「悠然? すぐに過信するあなたと違って、冷静沈着なのよ」

「いつもその涼しげな表情……ムカつくのだわ! 少しは悔しそうにしなさいよ!」

「同感! 私もあなたの悔しそうな顔が見たいもの!」


 殴り合いは次第に型なんてない、がむしゃらな戦いへと変わっていく。守りなんてない、ノーガードの殴り合い。お互いの拳が顔面に直撃する。


「こんなへなちょこパンチでぇ!」


 格闘戦に秀でてるのはやはりフィーラの方だった。小柄な体に凹凸の少ないボディ。的が小さい相手というのは捉えにくくて頭にくる!


「ぐっ……!」


 私は蹴り飛ばされ、ぬかるんだ地面を転がっていく。口の中に土と血が綯い交ぜになった味が広がる。敗北の味。何度も味わったものだ。やはり格闘戦でも彼女に勝てない。


「いい加減、諦めたらどう? あなたじゃ争奪戦は勝ち残れない。どんなに強いスレイヴを得ても、あなたが弱いままじゃ意味がないのだわ」


 フィーラが一歩一歩、私に迫ってくる。その余裕は勝ちを確信しているからだろう。


「勘違いしないで……」


 力なく拳を握り、腹の底から唸るように声を響かせる。どうしてもその言葉だけは納得できない。私はカードを一枚ドローし、それを見えないように地面に置いた。


「なにが言いたいのかしら?」

「太刀川くんが強いから、私が勝てると思った? 冗談言わないで。私は……私が強くなったから自信満々なのよ」


 残った力を振り絞り、敢然と立ち上がる。私はまだ負けてなんかいない。勝てる確率が少しでも残っているのなら、私は何度だって立ち上がる。私の夢は誰にも邪魔させない。


「二五年前となにも変わってない。一辺倒な水魔法。格闘センスなんてないに等しい。あなたが強くなったところなんて——」

「変わってない? 果たしてそうかしら?」


 フィーラに勝つために努力した。憧れに追いつくために必死だった。それはあなたがいなくなった後も変わらなかった。どんなにあなたが遠く離れた場所にいても、私の脳裏には必ずあなたがいた。

 朝起きた時も。一人でご飯を食べる時も。魔術の鍛錬をしている時も。ずっと……ずっと、私のそばにはフィーラがいた。倒さなければ、私の中からあなたの影は消えない。

 実はあなたを越えるためにずっと隠していたことがある。


「私、言ったはずよ。『足元すくわれないように』って」

「え?」


 忽然と、フィーラの足が止まった。いや止めざるを得なかったのだ。なぜなら彼女の足元は——


「私がいつ『水魔法』しか使えないって言ったかしら?」


 ——『封殺の永久凍土(フリージング・ロック)』によってすでに凍っているからだ。

 不敵に微笑んで見せる。そう、私はこの瞬間を待っていた。あなたが勝ちを確信して、油断するこの瞬間を。


「アリサ……! あなた、氷魔法を!?」

「氷魔法は水魔法の形態変化に過ぎない。使いこなすには鍛錬が必要だけど、私が使えないという道理はないのよ。驕り高ぶったあなたはそれが見抜けなかった」

「でもそんなの一時凌ぎに過ぎないのだわ!」


 フィーラの言う通りだ。彼女はまだ帯電状態。いつ氷から抜け出してもおかしくはない。


「そうね。けど、私には充分な時間よ。なにせこの間に《《カードが創れる》》」


 ドローするカードは白紙ブランクのカード。私が想像するのは彼女を完全に凍らせることのできる氷。一瞬で凍えさせる冷たさ。


「格闘戦で決着がつけば、あなたなら油断すると思った。狙ってたのはこの一瞬。負けているふりをするのも痛かったわ」

「じゃあ……あなたは最初から!?」


 本当は詭弁だ。私は本気で魔法を撃ち合って負けたし、格闘戦でも敵わなかった。唯一正しいのは最後まで足掻いて、油断するチャンスを狙っていたことくらい。

 やがて魔札スペルカードに煌めく結晶が刻印される。これが私の今も持てる全力!


「私はあなたに勝つ! そして、勝ち残ってみせる!」


 投げ放ったカードは白い靄となり、フィーラを包みこんでいく。靄はただ包むだけ。それ自体に力はない。

 私は手で後ろ髪をなびかせ、彼女の横をただ通り過ぎていく。最後くらい余裕のある九条愛梨彩をフィーラに見せたかった。私はもう昔の私じゃないってことをあなたに認めて欲しかった。

 けど、あなたもやっぱり諦めが悪いんでしょう?


「アリサァァァァァァァ!!」


 鬼気迫る勢いを背後から感じる。今さら氷から抜け出しても遅い。あなたはすでに私の術の中。


 私が指を鳴らす。静寂だけが訪れる。


 フィーラは時が止まったように制止していた。瞬く間に起こる、完全なる凍結。それがこの魔法の力だった。


「そうね、あなたに倣って名づけるなら……『瞬間氷晶——ダイヤモンドダスト』なんてどうかしら?」


 当然ながら返事はない。最後にもう一度振り向いて彼女を見る。どうしてもフィーラに言わなければいけないことがある。


 ——今までずっと恥ずかしくて言えなかったこと。


 本当はずっと認めてた。こんなに存在を意識する相手を認めてないわけがなかった。

 でも、私は魔女だから。いつか傷つけ合うその日が来るのが怖くて、見て見ぬふりをした。敵なんだと言い聞かせてきた。

 私があなたの影を追っていたこと。どれくらい伝わっただろうか。どれくらいの気持ちを魔法に乗せられただろうか。聞くにも相手は凍って動かないからわからない。

 最後に区切りをつけさせて欲しい。あなたと私の関係の区切りを。きっと聞こえていないだろうけど、私はどうしても口にしたい言葉がある。


「さようなら、フィーラ。私の《《友達》》」


 口下手な私のたった一度の本心。

 私はもう振り向かない。迷わず、私を守ってくれている彼のもとへと駆けていく。


 *interlude out*

続きはカクヨム(http://kakuyomu.jp/works/1177354054887291624)の方で先行して掲載されております。

興味のある方は是非そちらでも読んでみてください。

感想、レビューなどもお待ちしております!



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