あの日の憧れ/インターリュード
初めてこの作品を読む方へ
騙されたと思って第6部まで読んでください。あなたを物語に惹きこみます。
*interlude*
目の前にあるのは壁だった。ずっと乗り越えることができなかった大きな壁だ。
彼女と出会ったのはもう三〇年も前のことだ。
「実戦的な魔術を磨くなら、同年代の子と戦うのが一番だわ」
そう言って母が連れてきたのがフィーラだった。古くから九条家と関わりがあるオーデンバリ家の娘。両親から同年代の女の子がいることは聞いていた。
会う前はどんな子がくるのかずっと想像していた。なにせ初めて交流を持つ同世代の女の子だ。彼女となら気兼ねなく魔法のことや魔女のことを話すことができる。できれば優しくて話しやすい子がいいなと私は思っていた。
だが、予想は大きく外れることとなる。
「あなたがアリサ? 才能のある同い年の子って聞いてたけど、大したことなさそう」
フィーラは典型的なプライドの高い魔術師だった。歯に絹着せぬ言葉から自分の力を過信し、私を見下していることがよくわかった。
実際フィーラは強かった。以前彼女が言っていたように私が模擬戦で彼女に勝ったことは一度もない。全部負け越し。北欧最強の魔女の血筋、「ユグド」の名は伊達ではなかった。
どう頑張っても彼女を上回ることができない。天性の魔術センスに、絶えず努力していく忍耐力。私はそんなフィーラが羨ましかった。どうにか追いつきたいと懸命に頑張った。
「私が勝ったけど、だいぶ強くなったわね」
おかげでフィーラと過ごすうちに私も強くなった。何度もプライドをへし折られたけど、そのたびに反骨心が湧いた。私だって負けず嫌いなんだ。
不思議なことに彼女が私を見捨てることはなかった。私が格下だとわかっていても、一緒に訓練に励んでくれた。私に足りてないことを助言してくれた。
今思えばフィーラは姉御肌だったのだろう。『強者は弱者のために』。自身が強いからこそ、弱いものの世話を焼く。私の面倒を見てくれたのはそんなプライドがあったからだろう。
話しかけやすい性格の子ではなかったが、優しい女の子だったことは間違いない。
翻訳魔法を使えば会話できるのにわざわざ私と話すために日本語を覚えてくれた。「なのだわ」という変な口癖はその時に間違って日本語を覚えてしまった名残だ。
朝に弱い私を起こしてくれたのもフィーラだ。いつも私が寝ている上から覆いかぶさるように起こしてくれた。いつしかそれは私がやり返すようになっていた。
最後に会ったのは二五年前。私が魔術式を継承する前の話だ。三八年の中のたった五年間しか一緒にいなかったけど、私にとってはかけがえのない思い出だ。それはフィーラも同じだと思う。
「悪いことは言わない。棄権して。これは友達としての忠告でもあるのだわ」
私を気遣ったフィーラの言葉。フィーラの中の私は少女のままなのだろう。「弱いアリサ」のまま。
あれから私はどれだけ成長できただろうか。
優しくて気高い魔女——私の憧れ。そんな憧れに近づくために……乗り越えるために私はフィーラと対峙している。負けるわけにはいかない。
——ずっとあなたの背中を追ってきた。
——あなたがいてくれたからここまで強くなれた。
——もうあなたに守られるだけの私じゃない。
言葉で伝えるのは簡単だけれど……あいにく私は口下手でね。戦いの中でこの気持ちを伝える。ありったけの想いを魔法に乗せて届ける。
あなたの知っている九条愛梨彩はもういない。さあ、成長した私の力見せてあげるのだわ!
続きはカクヨム(https://kakuyomu.jp/works/1177354054887291624)の方で先行して掲載されております。
興味のある方は是非そちらでも読んでみてください。
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