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ゼロの魔女騎士《ウィッチナイト》  作者: 鴨志田千紘
第1章 争奪戦の幕開け
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死霊魔術と復元魔術

 戦闘が終わるとすぐに愛梨彩とブルームはフロアを探索した。アインに追われていた野良の魔女の痕跡を探しているのだろう。

 僕は……というと未だ動けず、床に座りこんでいた。動けないというのは語弊があるが、動くと「動かないでという日本語が通じないのかしら?」と愛梨彩に釘を刺されてしまう。だから動けないだけで、体の調子はだいぶ戻ってきている。

 正直今回の戦いの反省点は枚挙に暇がない。アインを殺しきれなかったこと。魔法を無理矢理防いで愛梨彩の手を煩わせてしまったこと。戦闘中にもかかわらず、錯乱してしまったこと。その他もろもろ。自分から愛梨彩に話しかけるのが躊躇われるほどだ。

 一人で自己嫌悪に陥っていると、二人の魔女が集合しているのが目に見えた。なにか見つけたのだろうか? 自分だけ蚊帳の外にされて、知らないことを増やしたくはない。僕も近くにいって確認することにした。


「真っ黒だね。当たり前だけど、息はしてないか」

「ここまで黒焦げだと誰だかわからないわね。アインの口ぶりから魔女なことに間違いないのでしょうけど」


 二人の会話が聞こえてくる。背後から覗き見ると、そこには真っ黒に焦がされた人の形をした「なにか」があった。率直に言って、死体と言っていいのかわからないほど焦げている。「等身大の人型クッキーを作ってたら焦がしてしまった」なんて冗談がない限り、これは死体なのだろう。


「もう平気なのかい?」

「ああ、うん」

「それはなによりだ」


 僕はブルームに曖昧な返事しかできなかった。第三者が介入してきた時、真っ先に彼女を疑ってしまったからか妙に心地が悪かったのだ。二度も窮地を救ってくれたからなおさら居心地が悪い。


「ごめん」


 自ずとそんな言葉が口に出ていた。


「なんで謝るんだい? 今回の戦闘、君はよくやっていただろう?」

「違う、そうじゃない……」開いた唇を彷徨わせた。次の言葉をどう形にすればいいのか迷ってしまった。「アインに援軍がきた時……ブルームが裏切ったのかと思ったんだ」


 出てきた言葉は思ったよりも素直なものだった。


「ああ、それね。私も同じこと考えていたわ」


 死体に目を向けたまま、あっけらかんと愛梨彩が言う。彼女はなにやら死体を物色しているようだった。


「ははっ!ははははは!」


 唐突にブルームが腹を抱えて笑い出した。表情の全てを読み取ることはできないが、目と口が笑っている。あどけない顔もするんだな。


「それは当然だろうね。でも素直に白状してくれたから、別に気にしないよ」ブルームは再び真剣な面持ちとなる。「さて、この死体だけど——」

「フィーラ……だったのか?」


 食い気味に僕が尋ねる。


「魔力の残滓量からして魔女に間違いはないわ。でも、彼女だという証拠はない。逆に彼女でないという証拠もないのだけど……この魔女はフィーラではない別の魔女……だと思う」

「復元はできないのかい?」

「ここまで焼けていると難しいわね。それに素性のわからない魔女を復元するのはリスクが高いわ」

「やはり難しいか」


 ブルームと愛梨彩の会話が進んでいく。魔女を復元するリスクとは一体なんなのか? そもそも愛梨彩の復元魔法とはどういうものなのか?


「帰りましょう。ナイジェルを外に待たせたままですし。魔女の死体を置き去りにするのは少し気が引けるけど、私たちが回収するわけにもいかないからね」

「そうだな。帰るとしようか」


 二人はそそくさと引き上げようとしている。でも、僕は自然と足が動かなかった。


「どうした、黎?」


 真っ先に僕の異変に気づいたのはブルームだった。尋ねられてしまうと言わなきゃいけない気がしてくる。


「なあ、『俺』って何者なんだ? どうして僕は戦闘になると意識が変わるんだ? 咲久来の言ってたこと……『俺』の自我は太刀川黎のものじゃないって……本当なのか?」


 はっきり聞かなきゃいけないことだった。それだけ重要で、尋ねるのにも勇気が必要だった。

 自分の意識が自分のものじゃないなんて考えたくない。体こそ『太刀川黎』そのものだが、人格は異なっている。そう考えると吐き気を催しそうだった。

 『俺』という意識はレイスになってから生まれたものだ。愛梨彩の復元魔法のことだってよく知らない。咲久来の言うことが正しいのかもしれない。ずっと『僕』の近くにいた彼女がそう言ったのだから。


「確かにレイスを作る時に自我を失くす術はあるわ」愛梨彩が重く閉ざした唇を静かに開く。「でもそれは死者を死者のまま操る『死霊魔術』での話よ。私のは『復元』。限りなく生者に近い状態にする魔法よ。現にあなたは感覚も失ってないし、感情だって持ち合わせているでしょう?」

「それは……そうだけど」

「自我を失くすのは死霊魔法がレイスを大量に操れるからよ。でも私のような復元魔法では限度がある。一度、心臓を復元してから動かすのと、復元せず死体を動かすのは手間が違うのよ。だから量より質を優先しなくてはいけなくなる。個人という自我を残した方が考え、成長できる。もちろん自我がある分、反逆される可能性も考えられるけどね。同じ死霊でも操り人形と自律行動ロボットくらい違うわ」

「じゃあ、咲久来の主張は……」

「多分、死霊魔術と復元魔術の差がわからなかったんでしょう。要するに勘違いね」


 咲久来が愛梨彩の魔術式を知らない可能性は大きい。同じ教会側のアインも初見では彼女の魔法を死霊魔術だと思っていたから辻褄が合う。


「でも、意識が変わる答えにはなってない」


 そう。肝心な『俺』の正体は依然として不明のままだった。復元する時に、邪魔な『太刀川黎』の意識を除き、好戦的な人格を植えつけることだってできるかもしれない。


「ごめんなさい。それは私にもわからないわ」

「わからない……? 君でもわからないのか?」

「答えを急ぐ必要はないよ、黎。私の目から見ても彼女は嘘をついていない。それは君が一番よく知っているんじゃないか?」


 ブルームが僕の肩に手をかけ、諭す。どうやら自分のことで頭がいっぱいになって、冷静に物事を見れてなかったようだ。

 愛梨彩は事実を率直に述べる。包み隠すことはほとんどない。今までだってそうだった。彼女だって万能じゃない。


「そう……だね。取り乱してごめん」

「さあ、帰ろう。今は生き残れたことに祝杯をあげようじゃないか」


 ブルームが僕の背中を押した。振り向くと、笑った目をしたブルームがいた。そんな顔をされたら、前向いていこうと思ってしまうじゃないか。

 『俺』が誰だったかはわからないままだ。ブルームの言う通り、焦って真実を見つけるべきではないのかもしれない。でも……いつかは判明するのだろうか?

 『俺』という太刀川黎の正体は。


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