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ゼロの魔女騎士《ウィッチナイト》  作者: 鴨志田千紘
終章 最後の勝利者は誰か?
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不倶戴天/インターリュード

 *interlude*


「よくきてくれました、愛梨彩さん」


 王の間への扉を開き、ハワードと対面する。近くに護衛は見当たらない。彼は歓迎するように穏やかな笑顔を向ける。


「生憎魔術式を渡しにきたわけじゃないのよ、ハワード」


 野良の魔女としてあなたを止めにきた。信じていたあなたに裏切られたのは悔しいけど、少しは情が残っている。近しい存在でありながら、あなたの闇に気付けなかった私が引導を渡すのがせめてもの報いになるはず。


「おや、そうですか。あなたは自分が救われなくてもいいと言うんですね」

「永遠という時間を生きて、狂った魔女になりたくない。けど、だからと言ってあなたのような蝙蝠男に渡して悪用されるのはもっと嫌なの」

「あくまでこの世界の害になりたくない……そういうことですか」

「その通りよ」


 賢者の石が偽物だとわかったあの日、私は普通への憧憬も羨望も捨てた。自分は魔女だ。魔女にしかなれない。

 だから私のせいでこの世の害になる要因は排除しなくてはならない。今はその信念だけが私を突き動かす。


「では仕方ありませんね……実力行使といかせてもらいましょうか」


 部屋内に指の音が鳴り響く。それと同時に壁を破るように機械仕掛けの龍が現れる。


「魔装機兵!? けど動力は……そういうことね」

「賢者の石を駆動システムとして搭載させていただきました」


 四つ足の青龍の中から彼の声が聞こえる。どうやらあれも立派な鎧らしい。魔力のない人間でも、あの巨体の中に賢者の石という魔力リソースを積めば動かせるというわけね。


「もう一度問います。愛梨彩さん、大人しく魔術式を渡してください」

「そうはさせるものか!」


 私が答えるよりも先に別の声が応答する。声の主は天井を破り、床へと着地する。白い髪に、白のローブ——ソーマだ。


「どうしてあなたがここに!?」

「勘違いするなよ。私はただ主の敵討ちをしにきただけだ」


 ソーマは私と機械龍の間に敢然と立ちはだかっていた。どうやら引く気はないようね。


「錬金術師協会の同僚だったよしみだ。受けて立ちましょう、ソーマ・ミッチェル・ホウィットフィールド。あなたが設計した魔装機兵でアザレアに会わせてあげますよ……地獄の底でね!」

「逆賊は排除するまでのこと!!」


 機械龍と魔女の騎士が一騎討ちを開始する。ソーマは開幕から光子の翼を纏い、スピード勝負へと持ちこむ作戦だ。


「装甲ごと断ち斬る!!」


 『オーラ』という電子音が鳴り響くと同時に剣が燃え上がる。勢い任せに腕部の装甲へと振るい下ろすが、効果がない。弾かれている。


「その程度の斬撃ではねぇ!!」

「くっ! 賢者の石の魔力を『オーラ』にして纏っているのか……!」


 羽虫を払うように機械龍の腕が振るわれる。すんでのところで躱すが、ソーマの顔には余裕がない。


「私が援護するわ! その隙にあなたはコクピットを!」

「うるさい! 手出しするな! これは私の戦いだ!!」


 私の提案を聞く耳を彼は持っていなかった。完全に冷静さを欠いている。しかし、ソーマの気持ちがわからないわけではなかった。


 ——戦いは任せて、私は分析をするしかない。


 ソーマはめげず、諦めずに何度も何度も龍にぶつかっていった。離れては光線を駆使し、死角を狙うように剣撃を見舞う。

 あの青い龍の装甲は簡単に破れるものではない。ソーマの言葉から察するにあれは魔力を帯びて青く輝いているのだろう。

 となると、近づいて触れたところで『逆転再誕《リバース/リ・バース》』の効果が発揮されることはない。現状、正攻法での攻略は不可能ということだ。


「ちっ……! あそこでもないか!」


 吹き飛ばされ、壁に激突したソーマが独り言ちた。まるでなにか弱点を探っているようだった。

 追撃するように炎のブレスが彼を襲う。間一髪逃れるが、ローブはすでにボロボロ。次の致命傷を避けられるかどうか……


「諦めたらどうですか? 今までのあなたがそうであったようにね」

「確かにお前にはそう見えるのかもしれないな、私は。だが絶望に屈したことはあれど、諦めたことなど一度もないぞ! 私は最後までアザレア様を救うために動いていたのだから!!」


 翼が光を思わせる速さで羽ばたく。息もつけぬほどの連続攻撃が繰り出される。


「そのアザレアはもういないんですよ!! あなたが負けたせいでね!!」


 攻撃を受けても機械龍は未だに健在だ。しかし痺れを切らしたのか、龍の全身がさらに輝き出す。

 次の瞬間、全身の刺から大量の光線が発射される。荒れ狂うような無差別攻撃が降り注ぐ!

 身の危険を感じた私は『逆転再誕《リバース/リ・バース》』で飛来する光線をかき消す。ソーマも翼を使ってなんとか致命傷は避けているようだった。


「殺した張本人が言うことかぁぁぁぁぁ!!」

「私はあなたのような主人に忠実な人間が気に食わないんですよ!!」

「お前はその忠義に破れるんだ! 死してなおも敵を討たんとする忠義になぁ!! 『光線剣技——アルムリフ』!!」


 激昂したソーマが腹部目掛けて真っ直ぐに飛んでいく。それは自身を一条の光の矢に変える吶喊。自身へのダメージを顧みず、的確に急所を刺し穿つ渾身の一撃だ。


「まさか……この短時間で!?」

「私は魔装機兵の設計者だぞ。これくらい造作もないことだ」

「ソーマぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 ソーマの必殺技は決まった。だが、突き抜けるまでには至っていない。龍の前面装甲を割っただけだ。彼は今、龍の懐で無防備を晒している!


「ソーマ!!」


 たまらず私も声を上げてしまう。あんなに憎い敵だったはずなのに、「避けて」と願ってしまう自分がいた。


「はは……これで一矢報いたぞ、ハワード・オブライト・ルイスマリー」


 しかし、その願いは届かない。ソーマは龍から吐き出される炎の奔流に飲みこまれる。

 最後まで忠節を尽くした魔女の騎士の戦いが……幕を閉じた。


 *interlude out*


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