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ゼロの魔女騎士《ウィッチナイト》  作者: 鴨志田千紘
終章 最後の勝利者は誰か?
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アザレア攻略法

 しばらくした後、地下室に全員が集まった。


「まずはハワードとの会談の報告をするわね。結論から言うと、太刀川くんのお父さんの情報は真実だろうという判断に至ったわ」

「ということは決戦は一週間後……成石学園でってことね?」


 愛梨彩の言葉を再確認するようにフィーラが尋ねる。

 アザレアは一週間後に学園に現れる。父の意図はわからないが、今はその情報を信じる。


「そういうことになるわね。今回の目的は一つ。アザレアを倒すことよ。彼女がいる限り賢者の石を完全に掌握することはできない」

「異論はないね。敵の頭を倒さなきゃこの争奪戦は終わらない」

「アザレア攻略のための作戦会議ってわけだな」


 ブルームと緋色の言葉に愛梨彩が頷く。

 彼女はそのまま黒板へと向かい学園の見取り図を書いていく。校門を通って、真ん中の第一グラウンド。それを囲むように校舎が並び、その奥にチャペルと書かれている。


「現在の教会の戦力はアザレアとソーマとアイン。そして……咲久来。アザレアとソーマはおそらく学園内のチャペルに居座っているはず」


 チャペルの場所にアザレアとソーマが記される。


「問題はアインとサクラね。道中で戦うことになるのは必然なのだわ」

「ここまで数が減るとアインはまた魔獣を持ち出してくるだろうね。となると展開するのはグラウンドかな?」


 グラウンドにアインと咲久来、魔獣と名前が連なる。

 三人の魔女が言うように教会は防人を配置してくるだろう。彼らの常套手段だ。しかし、相手につき合ってられるほどこちらには余裕がない。


「だったら俺たちが雑魚と戦うしかねーじゃんか、なあ?」


 緋色がフィーラへと目配せする。「そうなるわね」と了承したフィーラの顔はやる気に満ち溢れたものだった。

 愛梨彩もわかっていたのか、グラウンドに二人の名前が加えられる。魔獣の掃討は昇華魔法が適している。必然的に彼らが咲久来と戦うことになるのは僕も理解していた。

 不意に学園祭の時の咲久来が呼び起こされる。あの時の彼女は敵ではなかった。去り際の言葉もそうだ。


「咲久来は……咲久来はもう敵対しないと思う」


 自然とそんな言葉が口を突いて出た。

 咲久来を、妹を殺して欲しくない。彼女だって生まれた家に縛られているだけなんだ。僕にもその可能性があったと考えると、なおさら倒して欲しくないと思ってしまう。

 どうかチャンスを残して欲しい。彼女に選ぶ機会を与えて欲しい。


「心配すんなって。敵対する気のないやつは襲えねぇって。俺たちはヒーローだからな」


 親友は俺の肩に手をかけ、はにかんでサムズアップを見せていた。


「そうねぇ。そんな顔されちゃ仕方ないのだわ」


 よほど神妙な面持ちになっていたようだ。僕は顔を叩くように両手で覆い、気持ちを切り替える。


 ——大丈夫。二人になら咲久来を任せられる。


 両手を退かせ、まっすぐ二人を見やる。そしてたった一言、「頼んだ」とだけ口にする。


「懸念はなくなったようね。改めて、アインと魔獣はフィーラと勝代くんに任せるわ。私たち三人は先にチャペルへ突入してアザレアとソーマを討つ」


 僕、愛梨彩、ブルームの名がチャペルに加えられる。本題は……ここからだ。


「戦力はこちらの方が上手だけど……以前、この布陣で私たちは敗退している。策はあるのかい?」


 高石教会での戦いではブルームがいたにもかかわらず、僕たちは撤退せざるを得なかった。それだけアザレアは規格外の魔女だった。無策で挑めば前回の二の舞になる。


「策ならあるわ。敗走したけど、ちゃんと収穫はあったでしょう?」

「視界の遮断ってことだな」

「その通りよ、太刀川くん」


 チート性能の魔女でも弱点はある——有効範囲だ。

 アザレアは眼球を媒体にして魔術式を継承していた。そのため自身の魔法の有効範囲が視界内に限定されているという唯一の欠点が存在する。そこを突けば勝機はある。


「私が氷の結界魔法であなたとソーマを隔離するわ。そうすればソーマはアザレアからの支援を受けられない」

「僕がソーマを倒してアザレアの守りを削げばいいんだな」


 ソーマ・M・ホウィットフィールド——同じ魔女の騎士として倒さなきゃいけない相手だ。

 執着しているのはお互い様だ。僕もあいつも決着を望んでいる。二人きりの決闘となればわざと誘いに乗り、実力でねじ伏せてこようとする可能性はあり得る。


「私と愛梨彩はその間アザレアの相手というわけか」

「ええ。倒すのは無理でも結界を守るくらいはできるはずだから」

「一人一人着実に削っていく……というわけだ」


 愛梨彩とブルームがアザレアを食い止める。その隙に僕がソーマを倒す。

 ソーマという剣がなくなれば、戦力低下は免れない。確実にアザレアの防備を減らしていけば勝てない相手じゃない。


「作戦は以上よ。これが最終決戦になるはずだから、各自できることにと努めるようにしてちょうだい。それと……」

「どうかした?」


 途端、愛梨彩口ごもった。


「こんなことを口にするのは少し恥ずかしいのだけど……この戦いが終わったらみんなでお祝いでもしましょう。だからみんな絶対に生きて帰ってきて」

「もちろんなのだわ!」

「ヒーローが負けるわけねーよな?」

「ふっ。愛梨彩にそこまで言われたら従わざるを得ないね」


 誰かと関わることを頑なに避けてきた孤独な魔女。それは過去の彼女だ、もういないんだ。

 今の彼女は誰かと笑い合い、喜び合うことができる。そんな彼女の隣にいたい。絶対に死ぬわけにはいかないな。


「ああ! みんなで倒そう。教会を倒してみんなで笑い合える日を手にするんだ!」


 僕たちの想いは一つだ。揺るがない。

 泣いても笑ってもこれが最後の戦いになる。教会を倒し、五人で未来を掴むんだ。そのためにも……絶対に勝ってみせる!


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