ラフメイカー・ラブメイカー・トラブルメイカー
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桐生さんの部屋を出ると……廊下に愛梨彩が立っていた。
その光景を見て、なぜか冷や汗が流れ出す。まずい。さっきの桐生さんとの会話、聞かれていないよな?
——「太刀川くんってさ……九条さんのことどう思っているの?」
思い起こされるのは先ほどの質問。大丈夫、嘘はついていない。なにも悪いことはしていないはず……あ、少し愚痴をこぼしてしまっていたか!
「随分と彼女に肩入れするのね」
「え、あ、いや……その僕、彼女の——黒乃魔孤のファンだったからさ。ほら、本物と直接話せる機会ってなかなかないし。はははは」
から笑いがこみ上げてくる。とりあえず笑うしかないと思った。
「あっそ」
冷たくあしらうように言うだけ言って、愛梨彩は自室へと向かっていく。ここで立ち止まっていたのはなにか理由があったはずだろうに。
去りゆく背中を眺めながら彼女がここにいた理由を思案する。桐生さんに用があったのか、はたまた僕に用があったのか。そういえば今日はずっと不機嫌だな。
「まさか……嫉妬?」
口では言いつつも頭では即座に「ないない」と否定する。相棒だから僕が心配だという気持ちはわからなくもない。
けど、彼女が僕を異性として見ているという心当たりがない。根拠がない。だいたい愛梨彩は僕に対して当たりが強いし。
「アリサはわからないんでしょうねー。有名人の前ではしゃいじゃう感覚なんて」
目の前の部屋の扉が開き、寝巻き姿のフィーラが現れる。どうやら僕らの会話は隣の部屋の住人に筒抜けだったようだ。
「フィーラはわかるの、そういう感覚?」
「多少はね。私だって日本のマンガの作者やアニメの著名人を前にしたら少しは興奮するのだわ。その点アリサは……世間から遠ざかって生きてきたから。憧れと好意の違いがわからないんでしょ」
「そうだよね」
「関係を断てば巻きこむことはない……なんて、本当に生真面目なんだから。もっと自分の幸せ考えなさいよ。でも……嫉妬できるようになっただけマシか」
耳を疑った。自分が辿り着いた答えと同じだったから。だけど、それはありえないと否定した答えだ。
「いや、まっさかー」
やっぱり信じられない。あの愛梨彩が僕のことで嫉妬している? クラスの孤高のヒロイン、高嶺の花だったあの九条愛梨彩が? こんな平凡な僕のことで?
「気づいてないの? あなた、めちゃくちゃアリサに好かれてるわよ?」
「……え? マジで?」
「アリサって多分親しい人間ほど、意地悪したくなっちゃう素直じゃないタイプなのよ。枕投げの時も、この前の食堂のミニトマトもそう。親しい人間だからこそそういうことをしても許してもらえる。ありのまま振舞っても受け入れてくれる。きっと抑圧された幼さが今頃発露し始めた。そんな心を許した相手が自分から離れていく……って考えたら普通ゾッとするのだわ」
フィーラの言葉がスッと腑に落ちた。ずっと笑顔を忘れていた魔女がありのままの自分を取り戻しつつある……まさか本当に嫉妬だったとは。
確かに全ての辻褄が合う。彼女が桐生さんの部屋の前に訪れにきたのも、地下室であんなに取り乱したのも……全部嫉妬したから。――僕を他人に渡したくなかったから。
「やっぱり……そうだったのか。流石は親友ですね、フィーラさん」
フィーラは「まあね」と言わんばかりのドヤ顔を見せる。
「ま、嫉妬が果たして恋愛感情によるものなのか友情から生じたものなのか……はたまた家族愛に近いものなのかはわからないけどね。たまにいるでしょ? 自分の友達がほかの友達と仲良くしてるだけで嫉妬する人間って」
交友関係が狭い人間ほど自分の周りの人を大事にする。けど大事だと思っていた人にはほかにも大事な人がたくさんいて……自分はその内の一人に過ぎないんだと痛感する。
——心を開いた人間が離れて、ほかの人のところにいくのが嫌だ。想定すらしたくない。私の繋がりを壊さないで。
そんな愛梨彩の心の叫びの現れがあの行動だったのかもしれない。
「それも……そうだね」
恋愛感情としてではなく、交友関係の中の一人として……そっちの方がよっぽどありえそうだ。僕の肩があからさまにがっくりと落ちた。
「でも、これだけは間違いなく言えるのだわ。レイはアリサにとってかけがえのない人よ。自分の殻に閉じこもった魔女が唯一心を開いた普通の人間があなた。きっと親友の私よりもあなたの方がアリサの心に寄り添ってる」
心の底から溢れ出た彼女の笑顔を初めて見た時のことを思い出す。
——嬉しかった。自分に心を開いてくれたのだと思った。
それからずっと愛梨彩は僕のことを頼りにしてくれて、真の意味で相棒になった。楽しい時もつらい時もずっと二人一緒だった。
きっとフィーラの言葉は正しい。今一番彼女を支えているのはほかでもない僕なんだ。
「アリサの弱みの一つくらい握っているんじゃない?」
フィーラがいたずらな笑みを浮かべる。いいこと言うなーと思ったらすぐこれだ。本当にフィーラと緋色の会話は締まらないよなぁ。
「心当たりは……あります」
けど、まあ弱みの一つくらいは知っている。——泣きながら「どこにでもいかないで」って僕に言ってきたこと。
「教えて」
「守秘義務です」
喋ったら殺されるから絶対嫌だ。なにより二人だけの秘密が一つくらいあったっていいじゃないか。
「とにかくあんまりアリサを悲しませないでね。じゃないと私がタコ殴りにするのだわ」
「わぁ、すごい痛そう」
僕は棒読みで返答する。フィーラの拳なんてもうそれは殺しにきてるようなもんだ。
「約束するよ。絶対に愛梨彩を悲しませたりしない。僕にとっても愛梨彩はかけがえのない人だから」
そうだ、僕はあの日誓ったんだ。「彼女のそばから離れない」って。
——なら答えは一つだ。ほかの選択肢なんてありえない。
「その顔を見て安心したのだわ。じゃあ、おやすみ」
「おやすみ」
フィーラは静かに自室へと戻っていった。廊下に取り残された僕は一人、決意を新たにする。
あの悪夢は未だに僕に襲いかかってくる。
魔力という見えない繋がりだけど……それを切ったら後戻りできないかもしれない。絶対、正夢にするもんか。
彼女の立場になって考えて初めて理解した。繋がりが消える恐怖、取り残される悲しみ。それが嫌なのは僕だって同じだ。
絶対離れたりするもんか。僕はずっと、契約するより前もから君の虜なんだから。
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