好意と憧れ
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結局……答えは出なかった。男の僕に乙女心が理解できていれば、モテモテな学生生活ができたわけで……それができてれば恋愛関連で苦労はしてないわけだ。
フィーラに聞こうとも思ったが、さっきはぐらかされたわけだし。うーん、やきもきする
とりあえずは自分に今できることをするべきだろう。まずは桐生さんだ。昼食、夕食どちらもまともに食べられていない彼女が心配だった。
「桐生さん」
朝と同じようにノックをし、部屋の主に声をかける。
「太刀川くん? なにか……私に用事?」
「あ、うん。家にあるお菓子持ってきたんだ。これなら食べられるんじゃないかと思って。入ってもいいかな?」
「……うん」
許可を得た僕は肘でノブを倒し、肩で扉を押し開ける。
「そんな大量のお菓子……どうしたの?」
「前にパジャマパーティした時があって……その時にあまってたやつなんだ。どうせみんな食べないだろうし、それなら桐生さんに渡した方がいいかなって」
あからさまに大量に買いこんでいたとは思ったが、まさかこんなにあるとは思わなかった。おかげで両手が塞がってしまって、運ぶのにも一苦労だった。
手近なところにあった机にどさりとお菓子の山を乗せる。
「……ありがとう」
「どういたしまして」
そこで会話が途切れてしまう。とりあえず渡すものは渡した。ここで立ち去ることもできるが……彼女はずっとうつむき加減だった。気落ちしているのかもしれないと考えると、放っておけない。
「あ、早速なにか食べる? ……って言ってもポテチとチョコレートばかりだな」
好きなものだけを延々と食べ続けるいかにもフィーラらしいチョイスでバラエティに乏しい。お煎餅とか好きじゃないのかよ。
「大丈夫。両方好きだから。とりあえず……そこのうすしおのポテトチップスもらおうかな」
「これね、はい」
指差したものをベッドに座っている彼女に手渡した。桐生さんは早速封を開け、ポテチに手をつけた。
「うん……美味しい」
「それならよかった」
「太刀川くんも……食べる?」
桐生さんが一枚のポテトチップスを手渡そうとしてくる。せっかくの食料を僕が奪うのはどうかと思ったが……せっかくの厚意だ。受け取っておこう。
「じゃあ一枚いただきます。あ、美味しい」
「もう一枚いる?」
「……うん」
「ずっと立ってないで座ったら?」
「そうだね」
言われるがまま、僕は桐生さんの隣に腰掛ける。ポテチを再び一枚口に含む。しょっぱ過ぎず、うす過ぎずのちょうどいい塩梅の塩味が口に広がる。
と座ったのはいいが、こうなるとなにか話をしなくちゃいけない気になる。朝はぎこちないままの会話で失敗した。どうせなら楽しい話題がいい。楽しい話題といえば……
「桐生さん、都市伝説詳しいんだよね?」
そう、オカルト系の話だ。こういう時は相手と共通の趣味の話をすればいいというわけだ。
「うん、まあ」
「じゃああれとかも詳しいんでしょ、日ユ同祖論とか」
「それ、だいぶメジャーな都市伝説。渡来人の秦氏がユダヤ人だったって話でしょ」
都市伝説の定番中の定番。いくら探り探り話そうとしたとはいえ、流石にこの話題は弱いか。彼女はオカルト系Vtuber黒乃魔孤なのだから。
「そうそう。あとは——」
「ファティマの予言知ってる?」
「知ってる知ってる。三つ目が公開されてないやつだよね」
「マンデラ効果は?」
「なにそれ知らない!」
そうやってしばらくの間、僕らは都市伝説トークで盛り上がった。ポテチをつまみながら、話に花を咲かせている時の桐生さんの表情は楽しげなものだった。その姿はまさしく僕がファンだった黒乃魔孤そのものだった。
「太刀川くん、詳しいんだね」
「そりゃもちろん。黒乃魔孤のファンだからね! あ……ごめん、本人の前なのに」
「ううん、いいよ。むしろそう言ってくれる人、近くにいてくれて嬉しい」
しばし会話が途切れた。
本人はファンが近くにいてくれることは嬉しいと言っていたが、やはり恥ずかしさもあるのだろうか。僕は本物の黒乃魔孤を目の前にして舞い上がり過ぎたのかもしれない。
「太刀川くんはすごいよね。同じオタクなのにクラスの中心で色々やって。一年の体育祭もリレーのアンカーやってたもんね。正直、憧れちゃうんだ。太刀川くんみたいな人」
「ははは、それはまあ部活してるおかげかな。だから運動も苦手じゃないし、緋色っていう友達がいるから自然と釣られてクラスの真ん中の方に……みたいな」
自分がすごいなんて思ったことは今まで一度もなかった。オタクにだって色々な人種がいるわけで、運動部に所属した結果、人並みの運動神経を得るやつだっているのだ。
そのおかげもあって、僕はテニスよりランニングが得意になってたり、友達に恵まれたりしただけだ。本当に運がよかっただけだと思っていた。
僕から言わせれば広く深く知識を持つ桐生さんの方がすごいし、憧れる。
「それに九条さんとも対等に話せてるし……私ちょっぴり怖いもん、九条さん」
「それは多分……慣れみたいなもんだと。言い方はキツいけど悪気はないんだって知ってるからさ」
「そうなんだ。さっきのも……そうなのかな」
『さっきの』提案を拒否したことを言っているのだろう。冷静さを失ってはいたが……おそらく悪気はないはずだ。彼女の言い分も理解できるし。
「うん。きっと悪気はなかったと思うよ」
「太刀川くんってさ……九条さんのことどう思っているの?」
思わぬ質問で僕の頭の中がホワイトアウトする。
——愛梨彩のことをどう思っているのか?
そんなの答えは決まっている。決まってるのだが……面と向かって他人に自分の気持ちをひけらかすのは躊躇われる。悲しいことに僕も思春期男子。好きな人を公表するのは勇気がいるわけだ。
けど一つ言えることがある。
「ずっと隣で戦ってきた大事な相棒だよ」
誤魔化したつもりはない。確かに愛梨彩に恋している自分がいるが、今の僕は彼女の相棒なんだ。相棒としてともにいる意味の方が大きいような気がしたのだ。桐生さんにもそれを伝えたかった。
と、面と向かって伝えたらなんか恥ずかしくなってきた。
「まあでも扱いが雑だったり、当たりが強いのはどうかと思う時もあるけどさ」
はははと笑い、はぐらかすように僕は彼女への愚痴をこぼす。
「そっか……」
桐生さんはそれだけ言って口を閉ざした。おもむろに部屋の時計に目を向ける。話しこんでいたらだいぶ夜が更けていたようだ。
「じゃあ、僕はこの辺で失礼させてもらうよ。もう夜も遅いし」
「ごめんね。話、つき合わせちゃって」
「全然いいよ。本物の黒乃魔孤と話せて楽しかった」
「それなら……よかった」
「じゃ、おやすみ桐生さん。また明日」
僕は桐生さんの部屋を後にする。
自分にできること……愛梨彩の誤解を解くことはできたはずだ。これで明日からまたみんな仲よく過ごせたらいいと心の底から思った。
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