殺されたい系女子
「ねえねえ、おにーさん!私のこと殺してくれない?」
まるで、遊びに行かない?と聞いているかのような口調で声をかけられた。
高校生だろうか、こんな夜にとか以前に何を言っているのか訳が分からない。
「キミ、何言ってるの?」
「だからぁ、殺してって頼んでるの!」
初対面だと言うのになんて横暴さだ。
「悪いけどキミの悪戯に構っている暇はないんだ。」
こっちは仕事で疲れているんだから勘弁してほしい。現代の子どもは悪戯の限度が分かってなさすぎる。
「失礼ね、本気で言ってるのに……。」
本当にしょんぼりと項垂れてしまった。
これでは俺が悪いみたいじゃないか。
「で、でもなんたってキミはそんなに死にたいんだ?」
「おにーさん馬鹿ね、私は死にたいんじゃなくて殺されたいの。」
「じゃあ死にたくないのか?」
「殺されたいって言ってる人が死にたくないなんて言う訳ないじゃない。」
なんなんだこの子は。殺されたいけど死にたいわけじゃないだなんて筋が通っていないじゃないか。
「とにかくおにーさんは私を殺してくれればいいのよ、ほらたくさん道具も持ってきたの。」
どの家庭にもある包丁やハサミ、タオルにロープなどを取り出し、更にはハンマーや鋸などの道具まで出てきた。
「待ってくれ、自分で死ぬんじゃダメなのか?」
「おにーさんはどこまで馬鹿なのよ、自分で死んだら自殺でしょ?私は他殺がいいの。出来れば刺殺が良いけれど……。」
おにーさんの服が汚れちゃうし、と話を続ける。
「……どうしても殺さなきゃ駄目かな。」
「へ?」
「ほら、俺疲れてるんだ。別に他人を殺したい訳でもないし。殺されたいなら殺したい人を探せばいいじゃないか。」
「え、おにーさんは人を殺したくないのにそんな仕事をしているの?そんなのおかしいわ。」
「…っ!!」
俺の職業を知っていて話しかけたのか。
ここで墓穴を掘ったら本当に殺すことになりかねない。そんな面倒事はゴメンだ。
「職業とその人の考えは関係ないし俺はただのサラリーマンだよ?」
「ふうーん。」
納得いかないと言わんばかりの不満顔だ。
「まあ、嫌がる人に殺されても夢見が悪いだろうし他の人に頼むことにするわ。」
時間を取っちゃってごめんなさいね、そう言いながら荷物を詰め直し去ろうとする。
「他の人って、あてがあるのかい?」
「ないわよ、あるわけないじゃない。」
即答だった。
「まあ、おにーさんを見つけたみたいにどうにかして見つけるわ。またね、おにーさん。」
そう言って今度こそ去っていってしまった。
「……死んだ奴に夢見なんてあるもんか。」
なんとなく、悪態をついてみた。