せつない気持ちを入り混じらせて(ファンタジー)
種別:即興
お題:せつない王
制限時間:15分+α(微修正あり)
背負った大きさは、東国一。
目指す未来は、天下一の安定。
三番目の王子が、自分が国を継ぐと知ったのは、物心がつく前でした。
一番目の兄が精神を病み、二番目の兄が蒸発し、知らずにそう気づいていたのかもしれません。
実際、三番目の王子は、容姿も性格もよく、教育係からも愛されました。
二人の兄を気にかけ、国政にも意欲的な王様と王女様は、できた三番に助けられていました。
幼い頃から会議の議事録を読み、城の本を読破し、関われる人間関係も良好にこなしていました。
幼なじみとも婚約を結び、互いに成長するまで文通を交わし、健やかな時を過ごしていました。
――その幼なじみにも、でも、王子は立派にふるまいました。
文通を交わすほど、より深く、独りの理想として。
三番目は、独りきりでも苦しみを感じませんでした。
それが当たり前であると、知らずに気づいていたからです。
誰からも愛されようとがんばり、人々に賞賛される世継ぎは。
胸の内を隠し続ける、せつない王子でもあったのです。
――ですから。
王子は、今の現実に、言葉を失ったのです。
「――わたし、あなたのこと、大っ嫌いですわ!」
――幼き日から再会した、美しき婚約者。
愛らしかった幼なじみが、まさか顔合わせの席上で、恨むようにそんなことを言い放ったことに。
もちろん周囲は大混乱。
不敬だ破綻だこれは好機と、狂ったような怒号が飛び交う。
……ただし、王子は、小さく聞こえていたのです。
その、婚約者が漏らした、小さな響きを。
「……その仮面の下が、本当に、話したいのに」
――あぁ。
なんて恐ろしく、危険な、婚約者なのだろう。
せつない王子の胸の内は、また違う意味で、せつなさを入り混じらせるようになるのです。
――全てをさらけ出して、壊れてしまいたい自分と。
――立派であり続けようとする、造り上げた自分と。
監視下のような彼女との営みを、どうすべきか、懊悩するようになるのです。