corruption(ファンタジー)
種別:即興
お題:私とカラス
制限時間:15分+α(微修正あり)
「――不吉ね」
最初にそのカラスを見た時、そう呟いたのを覚えている。
早朝の肌寒い境内、薄い巫女服にはこたえる時間帯だ。
でも、そのカラスを見た時の悪寒は、決して寒さだけのものではなかったように想う。
もちろん、寄ってきたカラスを追い払おうとした。
けれど私の動きを読んでいるのか、そのカラスは軽業師のように身を動かし、ほうきの一撃を避ける。
ぐりっとした眼を動かし、まるで観察するかのように、私を見つめてくるカラス。
(ひとまず、放っておこうか)
その場はひとまず、そのままにしておいた。
巫女として一日は忙しく、すぐにそのカラスのことは忘れてしまった。
――数日後に、また黒い羽を見つけた。
不気味なそのカラスは、いつしか、この森に居ついたようだ。
(……人が、増えてる)
見知らぬ顔も、よく知った氏子さんも、なぜか訪れる頻度が上がっているようだった。
私も、最近、不思議な夢を見るようになった。
今までの自分が、どこか、虚ろで嘘で塗り固められていたような、奇妙な心地。
そして、そうでない別人の私を、呼ぶ声が聞こえるのだ。
ふりかえれば、そこにいたのは……。
「……カラスに呼ばれるなんて、巫女として、どうなのかしら」
そうして今日も、今の自分の正装に着替え、境内に赴く。
日々の点検と、作り替えと、ぴったりに変えられた――あの方のための、神居。
「ふふ。今日もみなさん、いらっしゃってくださっていますね」
いつしか、この神社は氏子でたくさん。
みな、命を捧げることすら、抵抗のない心持ちだ。
神様も、お喜びよね?
鏡に映る、私の姿。
黒い濡れ羽のカラスは、まるで意志あるもののように、境内に並ぶ人達を見下ろしている。
私は、黒い上衣と紫袴を身につけ、薄い紅を引いた姿。
――まるで、魔女と使い魔のようね、と想うと。
『違うよ。使い魔は、キミの方さ』
「……はい。主の、御心のままに」
私は、真に使えるべき主に巡りあえたのだ。
そのためなら、かつての神すら、その血肉に捧げようと。
私も、氏子も、なんならこの世界でさえも……。