変わらない君の趣味(ホラー)
種別:即興
お題:君と料理
制限時間:15分+α(微修正あり)
「アヒージョ、好きだっただろ」
オリーブオイルとニンニクをまぶし、魚介類を豊富につめる。
熱をこめるほどに染み込んでいくオリーブオイルは、足りなくなるたびに補充する。
彼女が俺に教えてくれた、料理の一つ。
「明日は休日だ。気にする必要もない」
仕事にさしさわる日以外、いつも君は、俺を連れていろいろな店に通っていた。
その味とレシピを独自に解析し、自分と俺にふるまうのが楽しいのだと、いつも言っていた。
「もう、いいよ」
……でも今日は、俺が、台所に立っている。
君は、明かりもささないような顔で、出来上がりを待っている。
――いや。
待ってなど、いないのかもしれない。
「そうだな、もう少しツマミがいるかな」
そう言って立ち上がり、冷蔵庫へと戻る。
口実にしか過ぎなかった時間は、手元に具材を集めるほど、次第に重みを増していく。
「いらないよ、ツマミなんて」
吐息を荒くし、俺の背中によりかかる、君の顔。
ふわりとした香りと、背中に触れるやわらかさは、心臓の鼓動を速まらせる。
――残暑に似合わぬ、冬の冷たさとあわせて。
「おいっ、あぶな……」
「だって、もう、待てないんだもの」
ぐっ、っと彼女に手首をつかまれ、片手で肩をおさえられ。
「ぅ……!」
しぼりだした声は、形にならず、消えていく。
――噛みつかれた首元は、焼けるような冷たさで、俺の脳裏を溶かしていく。
声にならない嗚咽をあげ、吸いあげられる暑さに耐える。
代わりに満ちるのは、まるで、冬山に来たかのような寒さ。
それも、身体の内側からわいてくるようで、逃げられない。
「や……め……」
しぼりだすように願っても、彼女の口元は離れない。
今までは、彼女自身が、拒絶していたというのに。
(このまま、凍えるのか)
よどみに意識をのまれそうな時、氷のような声が、耳に刺さる。
「……私は、ずっと休日だよ」
意識を失う寸前、彼女は冷たくそう言いながら、俺から身体を離した。
俺は尻餅をつき、荒げた息を整え、必死に内側を暖めようとする。
「……ごめんね。ごめん」
呟く彼女を見上げると、両の眼には、蛍光灯を反射する涙があった。
「……俺の方こそ、ごめん」
――彼女が、謎のウィルスに感染してから、半月が経つ。
「誕生日なのに。私が、ずっと、作ってたのに」
両の手をかみわせながら、君は、怒りをこめて歯を食いしばる。
俺の首元から吸いあげた、紅い液体を味わいながら。
(あぁ。味わう姿は、昔のままの君なのに)
君は、大好きだった料理の味と方法を、忘れてしまった。
友人達のみんなが、君と料理を結びつけるほど、大切なものはずだったのに。
「……ねぇ。私、いやなの。いや」
口元を抑えながら、けれど君の紅い瞳は、部屋のアヒージョを見ていない。
冷蔵庫の食料など、歯牙にもかけない。
なのに君の眼は、俺の良く知る、好奇心旺盛な瞳のもの。
じゃあ、その空腹の心が、求める先は……。
「……あなたを食べたいだなんて、想いたく、ないのよ?」
……人の肉をした、血を持つ、1つの……。
――変わらない君の、変わってしまった、至高の嗜好。




