獲物(SF)
種別:即興
お題:真実のガール
制限時間:15分+α(微修正あり)
「――実は私、女じゃないんだ」
「……はっ?」
突然の告白に驚いて、予想外の声が出る。
「あなたには悪いけれど、この姿の方が、近づけると想ってね」
「だ、だって、おかしいじゃない」
そう、私は知っている。
バーで独りの彼女と出会い、意気投合し、酒を酌み交わし。
……そのままの流れで、互いの熱も交わしあって。
(それから、もう半年がたった)
なのに、今の告白は、ありえない。
「じゃあ、見せてあげるよ」
疑うような私の視界を覆う、黒い羽ばたきの群れ。
コウモリ。こんなに大量の発生、今まで感知したこともない。
「わかったかい?」
暗い森のようなコウモリの群れから、声が聞こえた。
彼女にとてもよく似た、けれど、低く甘い男の声。
現れた黒衣の紳士に、私は言葉を投げる。
「まさか……吸血鬼?」
「おや、驚きが薄いね。……まぁ、その方がありがたいけれど」
くっくっく、と笑う姿が、へたな芸能人よりも美しい。
「どうしてあんな姿で、私と」
「ある程度、人間の心を読めるのさ。その、性的思考もね」
……あまり読まれて心地よくないはずの事実を、その吸血鬼は楽しそうに語る。
間違いない。
人間であれば、この男は、性格が悪いと判断されるタイプだろう。
「若い女性の血は、やはり甘美でね。気怠い時があっただろう? まれに血を吸われてもらっていたのさ」
なるほど。理由はわかった。
「じゃあ、どうして告白したのかしら。エサとしての価値は、もうないってこと?」
そうだね、と軽くうなずいてから、男は言った。
「君の探求心というか、僕への興味が、わずらわしくなってね」
確かに。
私は彼女のことをよく知りたくて、かかんに質問攻めをしていた。
住んでいる場所や、周囲との関係。怪我や病気など、いろいろだ。
「あまりにも、熱っぽくて。……もう、いいかなって」
「もういいって、どういう」
「吸血鬼が求めるものなんて、知っているでしょう?」
彼が笑うと見える、八重歯の鋭さ。
――あぁ。それはやっぱり、彼女と同じで。
やわらかな暖かい微笑みと、その対比が、胸にしびれるほど好きであって。
(だから、側に置きたいって、想ったのよね)
「……今日は、枯れるまで吸い尽くしてあげるよ。愛をもって、ね」
手の甲への唇は、まさしく、王子のような気品に満ちたものだった。
――真実のガールフレンドの姿を知って、私の胸にわいた想いは。
「じゃあ、私も言おうかな」
怪訝な顔を向ける彼女――あぁ、彼?
まぁ、どっちでもいいか。
だって……演技に飽きたのは、私も一緒だから。
「心は読めても、その生まれまでは、察せないのね」
「なにを……」
サンプリングするなら、そう、変わり種が一匹くらいいてもいい。
「――面白いデータよね。吸血鬼って、異星人の血も、美味しく吸えるのね?」