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浸食の波(ファンタジー)

種別:即興

お題:間違った四肢切断

制限時間:15分+α(微修正あり)




 東洋には、ダルマという玩具があるらしい。

 顔と身体が同一化し、こちらを見据えてくる置物。


 今、私にとりついている悪魔を形容するなら、それが一番近いのだろう。


「お前さんもお人よしだ。見過ごせば楽だろうに」

「こうしなければお前の四肢は、足りない血を何に求める?」


 異形に変形した両手両足を戻しながら、手中の黒い血を吸いこんでいく。

 ……未だに、慣れることはない。

 両肩と足の付け根から映える自分の腕は、どこか薄暗く、男のような張りがある。


「いいじゃないか、どうせ呪われた親子だ。そこらの人間を少し吸い殺したくらい、なんでもあるまい?」


 くくくっ、と甲高く笑う声が、私の胸をかきむしる。


「私は、父やあの男と違う」


 同じ血だと悔やんだのは、数えきれないほど。

 特に、似たような顔を持つあの男だけは、今もその影を忘れることはできない。

 ――いや。

 忘れないために、この悪魔の四肢は、アイツが作ったキメラの血を求める。


「間違った四肢切断、想い知らせてやるんだろう?」


 顔だけで妖しく笑う、美形の悪魔。

 こいつは、私があの男に抱く感情すらも、楽しんでいる節がある。


(こいつにとって、私に植え付けられた四肢は、本当に奪い返せないものなのだろうか?)


 ふと、私は想うことがある。

 はたして、どこまでがこの悪魔にとって、想定外のことであったのかと。


「アイツに裏切られたのは、私も同じだからな。……悪魔を裏切ることの意味、教えてやらなければならない」

「……復讐なんて、悪魔らしいのかい」

「兄弟殺しの荷担なら、美酒だろう?」


 はたしてそうなのか、私にはわからない。

 だが、時間は少ない。

 私の四肢を奪い、悪魔と縫合した、狂気の科学者。

 さまよう私達の前に、彼の手によって生み出された、哀しきキメラ達が夜にうごめく。


「兄は、私が止める。……最後はお前に、この身体をくれてやるとしても」


 私の肉が、悪魔のものへと混じる時と。

 兄の狂気が、この夜を次第に染める時は。

 同じじゃない。


 だからこそ――悪魔は笑い、私は走る。

 まだ、この四肢が私の言うことを、聞くあいだは。

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