空想の僕の君(SF)
種別:即興
お題:君の空想
制限時間:15分+α(微修正あり)
一週間ぶりに再会した君は、晴れ晴れとした顔をしていた。
「来ちゃったわ。あぁ、晴れ晴れとした気分」
大きく伸びをすると、彼女の周囲が瞬時に変化する。
現れたのは、まるで、旅行に出かけるようなトランクと身支度。
いったい、どこへ行こうというのか。
「もちろん、あなたのいる場所よ」
当たり前のようにそう言いながら、いつものように僕の身体へと触れてくる。
手を絡ませ、少しだけ頬を赤らめる彼女。
……理想通りの見た目になれるこの世界で、けれど彼女は、おそらくその見た目通りの経験しかないのだろう。
だからこそ僕は、自分の役目も忘れ、選択を済ませた彼女に言ったのだ。
「――君の空想にすぎない僕が、現実の君を幸せにすることは、できないんだよ?」
一瞬、眼を見開いた彼女は。
「なにを勘違いしているの?」
冷たく、笑った。
運命の相手と巡りあった、愛するものへの、笑顔のようなものを。
「帰れない、って言ったでしょ? なら、ここがもう、私の現実なのよ」
そう語る彼女にとって、かつての家は、どんなふうに見えていたのか。
――科学技術の発達により、自分の人格を含め、ネットワーク世界に浸る者が増えた。
そのなかで生まれた僕は、弱き人間の脳へ感染する、ウィルスの一種にすぎない。
……からめとり、この世界へ浸らせる甘さを、注ぎ続け。
いつか、僕への想いも消えていく、その時までの心理情報を得るための。
「あなたがなんなのか、知ってるわ。それでも……かまわないのよ」
それは、放棄ではないのか。
そうは思考しつつも、僕は、彼女との逢瀬をプログラムしはじめる。
いったい、この温もりが、いつまで続くのか。
永遠のように長いかもしれないし、あっという間に消えるかもしれない。
ネットワークが解体され、わからぬままに、朽ちるかもしれない。
――だが。
人間の恋も、そうでないと
空想でないと。
(boku ni, wakarunoka?)




