実らない願いを搾られて(ホラー)
「あなた、おかえりなさい!」
玄関を開いて出迎えてくれたのは、愛しい妻。
仕事帰りの疲れた身体に、その笑顔は最高の癒しだ。
……そんな夫が、今の俺、なんだろう。
ネクタイをゆるめ、ソファーに座る。
九時を過ぎたテレビでは、映画が放送されていた。
「映画、見てたのか」
「ええ。どうかなって想ってたんだけど、こういうヒーローものもいいわよね」
隣に座る妻と共に、テレビを見続ける。
「――この後、ヒーローは予想外の人物に出会う」
俺の独りごとに、妻は不思議そうな顔をして。
すぐに、俺の言ったとおりにテレビの場面は変わった。
「もう、ネタバレしないでよ!」
「あ、ああ、ごめん」
「でもあなた、この映画観たことあったっけ?」
――そうか。
映画はいつも、彼女と一緒に行ったことに、なってるんだっけか。
「いや。あてずっぽうだよ」
そういって苦笑して、なんとか、今日の日々をやり過ごし。
……夢の世界で、ソイツに、出会う。
「悪趣味だぞ。……三度前の生活を、映画に映すなんて」
「それは、僕のせいじゃないね」
つるり、と、俺の顎を撫でる感触。
色白な手先が、髭をざわつかせる。
「やめろ。そういう趣味はない」
「映画もそうだけれど、僕のこの姿もそうさ」
――何百と女の姿をさせて、飽きてるって、言いたいのか?
「俺が?」
「そうだよ。だって、何度も言ってるじゃないか」
どんっ、と、近づいてくる顔を弾き飛ばす。
細い、まるで木の枝のような肢体が、地面をつく。
「……怖い? この僕が」
「あぁ。あのまま、死ねばよかったと、想ってるよ」
――誰もいない荒野の世界で目覚め、絶望した時に。
「かつては女性を求めてたんだろうけれど、今の君は、もしかすると僕のようなものが好きなのかも」
「最後には、本当のお前の姿を、好きになるかもってか?」
あんな、映画の化物のような、異星人の姿を。
「それもいいね。でも、想い出せる?」
……誰もいない孤独に絶望し、異星人のモルモットになった。
彼らは、俺の心理分析のため、どんな夢の世界も提供してくれる。
――俺と幻想によって造られたこの世界は、どこまでも、俺の都合の良いように変わり続ける。
「本当の僕は、この姿。君を殺すのも愛するのも、自由自在だよ」
……今はもう、眼の前のダレカの姿ですら、本当なのかわからない。
「……俺は、だれなんだ?」
――君が、俺と言えるまでは、君なんでしょうよ?
……真っ暗な視界の中、三日月が見える。
妖しく笑う、たぶん異星から来た、おそらくイキテル、ホンto no……。
『ねえ。次の眼ざめは、ナンニスル?』




